302話 魔の森の砦への襲撃①(前半:クロト・後半:青い魔族視点)
◆(クロト視点)
「お願いです!あの子達を助けてください!」
俺たちの前に立ちはだかり、必死に懇願してきた少女。
あの時の、縋るような視線を思い出して――俺は苦笑した。
イルと同じような赤髪の少女。
年の頃も、イルと同じく十歳前後だろう。
自分が捕まっていた場所に、体の弱い子がいると。
このままでは死んでしまうと――そう言って、あの子は立ちはだかった。
『何ニヤついてんのよクソ烏。気色悪いんだよ』
相変わらずの黄昏の言葉を流し聞きしながら、俺はニヤリと笑ってしまう。
「子供の必死さは、あいつらを動かすには十分だったな」
そんな世間話をしながら、俺たちは黄昏に乗り夜の散歩気分で、魔の森の上空を飛んでいた。
下に広がるのは崖内に作られた魔人が居る砦。
『なーに?たかだか数体の魔族でしょこの戦力で負けると思うのー?』
「俺一人でも大丈夫だと思うけど」
『あら、糞生意気な事をほざくわね。烏風情が』
俺の返事に、黄昏がイラッとしたのかいつもの感じで返答がやってくる。
そんなやり取りをしていると、俺の懐に入り込んでいた小さなコーが顔を出し、落ち着かせようと黄昏の首を撫でる。
「身体が弱い童が居ったんだ。仕方なかろう。
せっかく美しいターに乗せてもらって居るのだ。もう少し静かに乗りたいものだ」
その言葉が嬉しかったのか、黄昏は機嫌がよさそうにふわりと空を翔けた。
『なぁーに、ホント子供なのにジェントルマン!』
「あのエルフは童を慈しむ良い奴じゃ。ターもそうじゃろ?」
『子供は好きだけど―、あたし回復魔法は出来ないからー、街はエルフに任せて正解よ』
そんな二人のやり取りに茶々を入れる赤毛。
「まだか?俺は早く暴れたいぞ!」
『お黙りなさい。まったく。血の気だけ多い坊やは、嫌ねぇー』
せっかく機嫌が直って来ていたのに、黄昏の鼻息が荒くなってきやがった。
やばいやばい。話を変えよう――
「黄昏お前が感じた魔力は砦に居るか?」
『居るわねー』
その返事に俺はニヤリと口角を上げる。
「じゃあ。始めようか」
俺の言葉に、続くように火龍は拳を構えながら大声で言った。
「狩りの時間だな!」
お前!隠密行動出来ない奴か!!やめろ、バカ!!
―――――――
◆(青い魔人=オルディアス視点)
ピクリ、耳が勝手に何かを拾った気がした。何か聞こえた?
部屋の中を見回すが何も変化はない――
キョロキョロしている俺を見てモモが声を掛けてきた。
「どうしたの青いの?」
「いや…何か聞こえた気がしたが…気のせいか?」
「フハ。まーた青いのの心配性が出てきた。
大丈夫。だいじょーーーぶ!
白いのが仕事ほったらかして消えてる以外は問題ないよ。
あいつ帰ってきたら可愛がってやらなきゃね」
そんなモモの言葉を聞き流しながら、先ほどから感じる胸騒ぎに不安がよぎる。なんだ…
「モモちょっと外見てくる。胸騒ぎが止まらねー」
「昼間見た神獣が来たんだったりして――」
「バカ!冗談でもそんな恐ろしいこと言うな!」
そう言って扉を音を立てて閉めると中から笑い声が聞こえてきた。
モモの呑気さに舌打ちをしながら、灰鬼に連絡するかと思考する。
いや…逃げるべきか…胸騒ぎぐらいで奴を呼び出すと、殺されかねないな…
溜息を洩らし、渡り廊下を歩きながら大きく外が見える場所に差し掛かり
俺は一気に血の気が引くことになった。
突如轟轟と真っ赤に燃える何かが先ほどまでいた部屋に向かって一直線に飛んで行った。
ドッゴォォォォ――――――!!
大きな音と共に先ほど歩いてきた道と、先ほどいた部屋の半分が崩れ中をはっきり目視できるようになっていた。
俺の背後では、館内に居た部下や魔物の手下たちが走り回り
「敵襲!」
「何か来たぞ―――」
騒ぎながら動き回っている。
次はワイバーンの集まる舎のあたりに、
ドゴォォォォーーーーン!!っと
黒い砲弾みたいな何かが突っ込んで行ったのが目の端に捉えられた。
1カ所だけじゃない…何カ所から来てるんだ…
困惑しながらも、自分の気配を絞り薄くしてゆっくり壁に張り付く。
先程の分断された部屋の中には、
ゆっくり体を起こし立ち上がった赤い人影が見えた。
ジャリ、ジャリと砕けたガラスを踏む音がこんな騒がしい中俺の耳にはっきりと入ってくる。
その一歩一歩にドキリ、ドキリと心臓が早鐘のように打つ。
あれは――駄目だ。
勝てる相手じゃない。
「なっなんなんだよ!!一体」
モモは気づいてないけど…あれは倒せない――
先ほどまで座っていたソファー縁から立ち上がったモモの大きな声が聞こえてくる。
さっきまで、何の気配も無かったのに、突如闇から現れたとしか言いようのない出現方法。それに押さえているけど、あいつの魔力はやばい…
室内に入って来た燃えるような赤い髪の青年は両手の拳に炎を纏い拳を構え、モモを見てニッと口角を上げた。
「魔族見つけた!俺様、大当たりだな!」
いきなり胸を張ってご満悦の青年に胡乱げな視線を向け、
「お前ら魔族がさ、俺様が寝ている間要らんことをしてくれたようだな――」
首をぐるりんと回し、肩を上げ下げして戦闘の準備を始めた青年は徐々に赤い魔力を拳から立ち上らせた。
「友に要らぬ心配をかけてしまった。
――お前ら覚悟しろよ」
「お前何?ずいぶんな口を利くじゃないか」
青年の言葉が気に入らなかったのかモモが馬鹿にしたように胡乱げな視線を向けて腕の形状を細いすらっとした手から筋肉が隆起する腕にボコボコ変形させていく。
普通の人間ならそれで戦意喪失するかもしれないが、目の前の青年は眉間に皺を寄せるだけに留まった。
「あんた若いし旨そうだ。今日のディナーはお前にしよう」
青年の反応が気に入らなかったのか、そう宣言して舌なめずりして、ニヤッと笑った途端、踏み込み殴りかかった!
「遅い」
「は?」
一瞬で踏み込んだ。
次の瞬間――足を掴まれていた。
そのまま、バン!っと叩きつけられる。
ドォォォーーーーーン!!
その瞬間また違う所で、爆発するような大きな音がした。
今度はなんだ?―――まだ何が居るんだ―――
赤い髪の青年は足を持ったまま、音の方向に顔を向け、
「馬か?黒いのか?それともメガネヤローか?」
そうこぼした言葉を俺は聞き逃せなかった。
黒はさっきの弾丸の様にワイバーン舎に突撃した塊だとして、あとメガネと馬…
馬ってやっぱりあれだよな
昼間見た神獣の事だよな?
メガネの情報は分かんねーから俺がする事は一つだ。
逃げる。
ぜってーここで見つかったら命はない。俺は踵を返した。
部屋ではニヤリと笑い、ファイティングポーズの赤髪の青年が
「まぁいいや。俺様のウォーミングアップに付き合えや」
とモモを煽っているのが見えたが、喧嘩を買ったのはお前だ。――精々、足止めでもしてくれ。
そう思ってゆらりとその場から俺は消えた。
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