294話 「異変」 (前半 宿屋のオヤジ・後半 クロト視点)
今日は朝から、妙な一日だった。
街は朝から落ち着かず、人の声も足音も、どこか浮足立っている。
空はそんな騒ぎをよそに、ゆっくりと茜に染まり、まるで何事もなかったかのように一日を閉じようとしていた。
――だが、そうはいかねぇ気がしてならなかった。
わいは、宿の屋上へと足を運ぶ。
五階建てのこの宿を構えて二十二年。この国の温泉に惚れ込み、気づけば根を張っていた。
今じゃ、守るもんも増えた。
愛しい妻に、目に入れても痛くない娘。
だからこそ――胸騒ぎには、目を背けられん。
城門での騒ぎ。
空を貫いた光の柱。
騎馬隊が森へ向かったあの動き。
どれ一つ取っても、ただ事じゃねぇ。
それでも今は、嘘みたいに静かだ。
……静かすぎる。
その違和感を振り払うように、わいは国境を守る双璧の山へと目を向けた。
そして、息を呑んだ。
グレンファルド山――その中腹から、何かが噴き上がっている。
黒煙……いや、違う。
もっと軽い。もっと粘る。
あれは――煙じゃねぇ。
霧だ。
黒い霧が、山の奥からじわじわと溢れ出していた。
背筋を冷たいものが這い上がる。
これは、見過ごしちゃいけねぇ。
気づけば、腹の底から声が出ていた。
「グレンファルド山を見ろ!黒い霧が噴き出してきたぞ!!」
声は街に響き、人々の視線が一斉に山へと向く。
ざわめきは波のように広がり、やがて一つの確信へと変わっていく。
城門の騒動。
光の柱。
騎馬隊の進軍。
そして――
火龍が眠る山からの、黒い霧。
点だったものが、線になる。
何かが起きている。
この国で、確実に。
正体なんざ分からねぇ。だがな――
分からねぇままでも、守る準備はできる。
守るもんが、ここにある限り。
茜に染まる街の上で、ざわめきはさらに膨れ上がっていった。
嵐の前触れみてぇにな。
―――――
◆(クロト視点)
「トーさん!落ち着いて!」
ぺちんと足を叩かれハッとした。
先ほどまで沸き上がっていた怒りが収まってくるとともに、
噴き出していた黒い霧が晴れると、そこには頬を膨らませて怒るカナメがいた。
あ…ほっぺが可愛い―――
「トーさん聞いてるの?もう!いきなり霧出したら皆びっくりして震えてるでしょ!!」
見て!と言わんばかりに指をさす方向を見ると、
ピルピルと小動物の様に震えるクレイ嬢と猫田と―――セルジュ…
…あとなぜかピルピル震える精霊王が居た。
「あんたまだこんなとこに居たのか?消滅しちまうぞ?」
水の精霊なのに…火山に居続けるとか何やってんだ?
呆れつつもプンスコ怒るカナメに免じてきちんと謝っておこう。
「あ…すまん。その魔族には子供のころから目をつけられてて…」
嫌な思い出が頭をよぎる―――
師範の死の真相…
久々に思い出してどす黒い感情が溢れてくるが、俺をプンスコ可愛い顔で怒っているカナメを見て頭を掻いて笑った。
「―――色々あって、奴らを滅ぼしたくてたまらないんだ。すまん」
笑っていると、震えていた精霊王が近づいてきて何かを言おうとした。
『あの魔力のあの大きさ…昔見た事がある…あれは』
「精霊王、口は災いの元と言うだろう?」
俺はニッコリと笑いながら精霊王を見る。
俺に無言の笑顔でじっと見られた精霊王は、再度ピルピルと震えてそっとカナメの後ろに隠れる様に逃げた。
カナメよりデカいのに、隠れてるつもりかよ。
俺は大きなため息をついた。
魔族が居るなら、食べられたり、実験されたりする前に、子供たちの確保。
それが先決だ。
「カナメ、イルの元に急ごう」
俺の言葉に、ぷくぷくに膨らましていたほっぺがシュンと戻って笑顔になる。
「うん!急ごう!」
カナメの笑みが、イルに会える嬉しさを物語っていた。
それにつられて、俺も自然と笑っていた。
妖精が見える人間
ワイバーンの誘拐
愛し子の消失
魔物の増加
国に潜む魔族
……全部、仕組まれてるんじゃないのか
すべては、この国の均衡を崩すためのものか――
……いや、最初からそのつもりで潜んでいたのか。
だいたい五代龍の一角、火龍の眠っている間に砂漠化するというのが解せない…
魔力が垂れ流されていても過去にそんな現象は無かったはずだ
計画的な何かがあったと言う事ではないのか…
「精霊王。この場所におかしな魔法の痕跡、魔法陣の設置、魔道具など気になるものは無いか?」
『は?…いや…え…
―――魔法陣が設置されてはいるが…』
「場所はどこだ?」
精霊王は指を次々にさしていく。その数4カ所。
丁度火龍が寝ていた周りをきっちり取り囲むように設置された魔法陣。視線で確認してからカナメを呼んだ。
「カナメ鑑定を頼む」
「はーい」
カナメは魔法陣の近くに行ってから、マジックバッグから手帳を取り出し鑑定の内容を紙に書いていく。
書き続けていた手が止まった。
「トーさん…これってちょっとダメダメな奴だよね…」
俺を見上げて言ってくる言葉には戸惑いが含まれている。
その不安げな目をしっかり見て、優しくカナメの頭に触れた。
「大丈夫。俺に任せておけ。きっちり――黒幕、潰してやる」
俺の言葉にカナメは大きく頷いた。
静かに後ろで見ていた猫田たちが俺の言葉に息をのんだのが分かったが…
その中に精霊王がまだ居るのが解せない。
「精霊王…家に帰んな」
俺が言うとショックを受けた顔をする精霊王…
…なんでだよ
―――やっぱり解せない。
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