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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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58 たまねぎ

木製の祭壇横には、適正JOBを見定める大きなクリスタルが台座の上に鎮座している。

四十九が手を置いた際には『女忍者』と表示された。星運の『覚醒』でS級スキル『影使い』を得ていたことから、斥候系だろうとは予想していたが――というものの、こうして結果として出ると不思議と納得が深まるのだから面白いものだった。


四十九が下がると、入れ替わりに眼鏡女子の月姫がクリスタルの前へ進み、鑑定役のイケメン親父へ丁寧に頭を下げながらお辞儀をしていた。


「司祭様。よろしくお願いします」

「承知しました。月姫さん、こちらのクリスタル石へ手を乗せて下さい」


月姫の落ち着いた眼鏡姿だけを見れば、適正JOBは学級委員長や学者あたりが自然に思えてくるだろう。というものの、黒龍討伐後には満員の酒場を1人で完璧に切り盛りしていたし、カリスマ店員なんて線もあるのかもしれない。


それだけでなく、黒龍討伐のためにダンジョン最下層まで危険だらけの道を平然とクリアしてきた実績を思い返すと、特殊工作員のような適正まで想像が広がる。見た目に反して、もしかするととんでもないほど器用な女子なのではないだろうか。


月姫は緊張のせいか顔を真っ赤に染めつつ、そっとクリスタルへ手のひらを乗せていく。

その瞬間、光が淡くきらめいた。結果を確認したイケメン神父の表情が、みるみる苦々しいものに変わっていく。


「月姫さんの適正JOBが……『無色透明』であると出ました」


淡々とした宣告が落ちた瞬間、室内の空気がひやりと沈んだ後、ほんの一拍、目に見えない冷気が広がったのだろうか。誰も動かず、呼吸すら浅くなっていた。


『無色透明』――

全ステータスは平均。尖った武器もなければ、致命的な穴も無い。

どの方向へも伸ばせるが、逆に言えば“序盤では最弱”なんて扱われがちなJOB。

というものの、育ちきった時のポテンシャルは桁違いで、全領域に手を伸ばせるとんでもない資質を秘めている。

取得条件も鬼のように厳しく、極まれば無双も可能――そんな、ある意味で超レア枠だ。


しかし説明を聞いた月姫は、肩を落とし、静かに溜息を吐いていく。


「空気みたいと言うか……存在感の無い私らしいJOBですね」


「月姫。諦めるな。こっちには、何でも出来る、超反逆者、いる」


四十九が誇らしげに胸を張り、ぽん、と私を指差し、その仕草につられて、月姫の視線まで痛いほどこちらに刺さってきて、私は椅子の上で居心地が悪くなる。


――だから、その“超反逆者”って呼び名、もう外してくれないだろうか。

見た目どおり“ウルトラ可愛い聖女”の方がしっくり来るはずだ。

いや、自分で言うのもどうなのか……いやでも、事実だし。


二人の空気から察するに、どうにも私に何かさせる気満々だ。

胸の奥で、嫌な予感がそっと芽を出すと、その予感どおり、四十九が一歩踏み込み、距離を一気に詰めてきた。


「無色透明。JOBの名、可愛さゼロ。改名、希望」


近い。

目の前ど真ん中に四十九の顔。

しかも隣では月姫も眼鏡を押し上げ、キラリと期待を載せた目をこちらへ向けている。


世界の記憶『アーカイブ』を使えば、確かにJOB名の変更は可能。

通常“聖女は利己的な改ざんをしない”のが常識なのだが――というものの、私は常識の隙間をすり抜けるタイプの聖女だ。


正直、アーカイブの改ざんは手間が多い。

だが、四十九のお願いをここで突っぱねれば、あとでさらに面倒事が倍になって返ってくる未来が見えすぎている。


「承知しました。『無色透明』のJOB名を、相応しい名前へ変更します」


「おおお。さすが、神。天才」


「三華月様は本当に、可愛さも実力も神です!」


……超反逆者から神へ、急激な昇格を遂げてしまった。

扱い雑じゃないか。

というものの、“可愛さに関しては神レベル”という評価は否定できないのだけれど。


「それでは、世界の記憶『アーカイブ』を展開します」


静かに宣言した瞬間、空気が震え、光粒がふわりと広がり、膨大な文字列が立体映像としてせり上がっていく。

幾重もの光の層が天井へと流れ、指先には淡い振動が心地よく伝わってくる。


私は手を滑らせ、情報の海を掘り進めて『無色透明』の項目を引き抜くが、アーカイブは私にしか見えないので、二人はぽかんとしたまま待つしかない。

説明文には“どんな武器・防具も扱え、近接から遠隔まで全対応の潜在最強”と書かれていた。


うん、やっぱり月姫向きだ。


「……では、無色透明のJOB名を『たまねぎ』に変更します」


「え?」


「たまねぎ?」


私はさらさらと文字列を書き換える。

その瞬間、世界から『無色透明』の名が消え、新たな『たまねぎ』が誕生した。


ふっ。完璧。


……と思ったが、月姫と四十九の表情は、困惑と無言のツッコミで満たされていた。


「古代文明の記録に『オニオンシリーズ』という強力装備があります。それを装備するとチート級になるらしくて……それにちなんだ可愛い名前にしてみました」


「三華月様。芸術センス、皆無。失念。ワタシ、反省」


「私は……少しだけ可愛い名前だと思います。大丈夫ですよ」


ほんの“少しだけ”か。

そのフォロー、逆に刺さるのだが。


————


空の青はゆっくり藍へと沈み、風は夜の冷たさをまとい始めていた。

地平線へ落ちていく太陽が長い影を伸ばし、草原の匂いも濃くなる。

遠くで虫の羽音が震え、どこかで風が草をなぎ、微かな“気配”が夜の入口を告げていた。


機械人形が牽く馬車は、コトコトと規則的に揺れながら一本道を進んでいくと、背後にあった廃墟は、もはや影すら見えなくなっている。


四十九を魔界へ送り返すため、イケメン神官のいた地下礼拝堂を後にし、私達は目的地――城塞都市(エインヘルヤル)へ向かっていた。


手綱を握る私の隣に四十九。

そしてその背に、月姫がそっと寄り添って座り、三人の呼吸が揺れに混ざり、馬車の中にささやかな温度が宿っている。


「まったくやれやれです。地下礼拝堂へ立ち寄りましたが、意味の無いものに終わってしまいましたね」


JOB名の変更も微妙に不発気味で、私は思わず肩を落とし、横を見ると――二人がじっと睨んできている。

胸の奥の嫌な予感が、ゆっくりと形をとる。


そして案の定、二人が声をそろえてきた。


「立ち寄った意味。凄く、ある」


「はい。素敵な出会いがありました」


「そうですか。それは良かったですね」


「アタシと月姫。旦那のため、城塞都市で一攫千金、当てる」


「私と四十九と司祭様の3人で、あの教会を再建して、街づくりをしようと考えてます」


「……城塞都市(エインヘルヤル)へは四十九を魔界に帰すために向かっていたはずですが」


「肯定。親が心配」


「私も四十九のご両親にご挨拶したいと思っています」


「魔界に行くのなら、旦那のために一攫千金を当てる必要は無いでしょう」


「月姫と一生、旦那、支える」


「はい。四十九のご両親に無事を伝えたら、私達は地上へ戻るつもりです」


言葉が重なるたび、馬車の中の温度が上がる。

二人の想いの強さが、空気を震わせるようだった。


――この先、何が起きるのだろうか。

胸の奥で、静かなざわめきが広がった。

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