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転生


 目覚めると白い空間に居た。

 あ、俺死んだんだな。ってなにもなしに理解出来てしまった。


「はははっ、人生が始まったと勘違いした一歩目で墜落かよ。はははははは――」


 俺は笑いながら泣いていた。感情の極地に至ると人は笑うらしい。ただ、泣いていたのに涙は出なかった。というか体が認識できない。あるのは泣いているという感覚だけだ。魂状態とでもいうんだろうか?

 ひとしきり泣いた後は、妙に冷静になった。

 両親は俺の死をどう思うんだろうか。いや、きっと『俺自身』がいなくなったことを悲しまないだろうな。これは確信だ。あの人たちとは、勉強を介してしか繋がってなかったから。

 そんなことよりも、白神さんとの明日の約束を果たせなかったことが無念だ。なんて考えていたら荘厳な声が頭の中に響くように聞こえてきた。


「人の子よ……すまない」

「え? ちょっと、いきなりどうしたんですか?」


 多分、というか絶対神様だろう声が、只人の俺に謝るという展開がまるで理解できず、阿呆のような反応を返してしまった。


「我の司る地で、其方をむざむざ殺してしまった」

「いやいや、俺が涙のせいで前見てなくて、しかも無駄に力んで一歩なんて踏み出したせいですよ!」


 司る地ってことは、この神様はあの神社を守護する神様みたいだな。 

 しかし、言ってて自分の死に際の馬鹿らしさに呆れてしまう。間違いなく自己責任だ。


「それよりも俺が落ちたせいで神社に迷惑がかからないか心配ですよ」

「我の地は今、人の子が入れないように処置されてる。社もそのうち撤去すると言っておったな」

「そ、そんな……俺のせいでこんなことになってしまって本当にすいません。社がなくなるって神様は大丈夫なんですか?」

「我は死なん。ただ、人の子に干渉するための依り代がなくなるので、もう願いを聞いてやることは叶わん」

「……」


 俺の行動のせいで神様に迷惑をかけてしまった。だが、もう死んだ俺にはどうしようもない。


「気に病む必要はない。時代の流れか、我の地に訪れる人の子も減り、いずれ忘れ去られる運命だった。少し早まった程度だ。それより我は其方の力になりたい」

「俺の力に? 一体なぜ?」

「我の地で殺してしまったのもあるが、我が其方を気に入った。久しく訪れた人の子よ、其方の真摯な願いは心地良かった。それだけだ」

「俺はただ、自分勝手に願っただけで……」

「我にまで届く祈りというのは中々にない。それに、最後の訪問者だ。力の全てを使っても大事ないだろう」


 よく分からないが、俺の祈りは神様に届いて気に入られたらしい。くれるというのなら貰うのが礼儀だろう。


「とは言っても、俺はもう死んでいるんですが、力とは一体?」

「人は産まれては死に、そして巡りまた産まれる。我は人の子が言う加護、才能という物を一通り授けようかと思う。現在の記憶もそのまま引き継ぐようにしよう。他に欲しいことはあるか?」


 うわっ! なんかとんでもないこと言い出した。

 記憶持ったまま、全ての才能に恵まれて産まれ、きっと来世の俺は幸せになれるだろう――本当に?

 だってそこには、白神さんがいない。来世で巡りあったとしても、それはやっぱり別人なんだ。

 そんなことを考えたら、神様の提案はあまり素晴らしい物ではないように感じた。

 来世では、白神さんとは別の素晴らしい女の子と恋に落ちるかも知れない。けど、それ以前に俺はこの世界の仕組みというか底が見えてしまっていた。

 勉強して、人に取り入って、金を増やして、子供を育てて、なんというかもう分かりきった流れ作業とでもいうのかなぁ。俺みたいなガキが言うのもなんだけど夢も希望もない。

 二度目の人生だ。もっとなにが起こるか分からないような刺激が欲しい。

 そんなとき、高校に入る前の本屋のポップが思い出された。


「あの神様、もしかして地球ではない他の世界に転生することって出来ますか? というか他の世界ってあるんですか?」

「ある。人の子では数えられないほど無数にな。が、そこは我の管轄外だ。そこに転生となると与えられる力も弱まる」


 おお、やっぱりあるんだ。ならば――


「いわゆる魔法というものと魔物が存在する世界で、今にも滅びそうとかじゃなく安定した世界ってありませんか?」

「――ふむ、あったぞ。そこが其方の理想とするとする世界かは分からんが、該当するものがな」

「ならば、そこに転生をお願いします」

「いいだろう。ただし、そこはこの世界から少しばかり遠い。我の加護も十全ではなく、記憶も無事に継げるかは未知数だ」


 記憶がなければ転生する意味も薄い。だが、どうせ棚ぼた的な加護だ。リスクがあっても挑戦すべきだろう。


「それではそこに行きたいです。よろしくお願いします」

「承知した。我も出来る限り其方に力を注ごう。よき人生を」


 神様の温かい励まし言葉を聞いた途端に意識が薄れて来た。

 俺の人生は他人に強制され、やっと見つけた生きがいも泡沫のように消え去った。

 次の人生はやりたいことをやる! 意識が完全に消える前に、そう魂に刻み込んだ。



「――ステル。アステル!」


 頭が痛い。痛くて堪らない。お願いだから、頭痛いのに揺すらないで欲しい。

 抗議をするために俺は目を開けた。そこには燃えるような赤髪の短髪をした女の子が居た。


「あすてる? なんなんだそれ?」


 さっきから繰り返し呼ばれる単語が気になり聞き返す。

 それを聞いた女の子はその言葉は聞くとぶわっと泣き出してしまった。


「アステルはアステルだよ。自分の名前も分からないの? ごめんね。全部私のせいだ……」


 俺のせいで幼女が泣いてしまったのを心苦しく思うが、今はそんなことより頭が痛い。

 額に手を伸ばすと手が赤く汚れた。どうやらかなりの出血をしているらしい。どおりで痛いわけだ。

 ただ、物理的だけじゃない痛みがキンキンと頭の中で蠢いて、まともな思考ができない。


「リブラ! 医者を連れて来た。ダンじい、はやく診てくれ」

「そう、急かすな。見たところ額が切れてるだけじゃ。血は出るが大したことありゃせん。というかお主ならこの程度は見慣れておるじゃろうて」

「万が一ってことがあるだろう。こいつは俺の親友の忘れ形見なんだ。一人前にするって約束した。この村に有翼族がいれば回復魔法が使えるのに……」

「いないもんはしょうがあるまい。わしの診察で我慢せい」


 魔法? こいつら何言ってんだ。と同時に魔法があれば楽に直るのになぁ。と考えが同時に浮かぶ。訳が分からない。

 頭の痛みは最早耐え難い領域となり、俺の意識は闇に落ちていった……



 目が覚めると、どうやら知らない自分の部屋のようだった。

 知らないのに自分の部屋? 俺はどうかしちまったんだろうか……

 落ち着け。まず、俺は誰だ? 

 そうだ。アステルだ。今年で七歳になった。

 そう定義したら、全ての情報がパズルのピースようにぴったりと嵌りだした。


「そうか。今更、前世の記憶が蘇ったのか……」


 さっきまでの俺は、もう名前も思い出せない前世の俺と、今の俺ことアステルの意識が同時に存在していて頭がショートしてしまっていたんだろう。

 前世の記憶だが、最初と違って自分はアステルと強く認識を持ってるせいか、ずっと昔にものすごく主人公に感情移入して読んだ長編小説みたいな感覚である。

 細部はなんだか上手く思い出せない。靄がかかっているというか自分から思い出すのは難しいようだ。これが神様の言ってた、記憶はどうなるか未知数ってやつか。

 ただ、記憶はなくとも知識はそれなりにあるようだ。そして自分にかけた『やりたいことをやる』という誓い。これだけ残ってれば御の字だろう。


「さて、まだ少し混乱しているな。始めから整理するか」


 まずは、この世界についてだ。でっかい大陸に色んな種族が住んでて、魔物がそこらにいて、魔人とかいう強いのが時々攻めてくる。ってなんだこりゃ。まるで子供の認識だ。あ、今は子供でした。前世の記憶もない普通の子供の俺に、そこまで求めるのは酷であろう。要調査だな。


 次に、俺ことアステル・メディウムについてだが、父さん譲り黒髪黒目で、自分で言うのも何だが将来が期待できる容姿をした少年だ。

 母さんは俺を産んですぐ死んだらしい。父さんは軍に所属していたが、魔人の侵攻を防いだ影響で死んでしまった……

 そこで俺を引き取ってくれたのが、さっき医者を連れて来た筋骨隆々の赤髪の巨漢――ゼウロスさんだ。

 ゼウロスさんは父さんの親友で、お互いに何かあったら子供の面倒を見ると約束していたらしい。ゼウロスさんの方は軍にこそ所属していなかったが、冒険者をやっていたので危険と隣合わせだったからそのような約束をしたのだろう。

 斯くして俺はゼウロスさんの家に世話になることになった。家には同じく赤髪でゼウロスさんの奥さんであるテミィさんと二人の一粒種のリブラがいる。

 リブラは俺と同じ年であり、赤ちゃん時代から一緒に過ごしてきた。リブラは剣術が好きで俺によく突っかかってくる。俺は父さんが死んだ影響で戦い自体があまり好きではなく、訓練に参加はするものの、あまり積極的には訓練していなかったのだが、リブラはそれが気に入らないらしかった。

 今回も「私に勝ったらお嫁さんになってあげるね!」などといいながら俺と木剣で打ち合ってたのだが、途中でリブラがいきなり強くなって頭を割られた。その影響かは分からないけど、そこで前世の記憶が蘇ったというのが今回のあらましだ。


 今の俺からすれば子供の俺はかなり不幸だと思うが、この世界では魔物にやられるなんてよくあることだ。

 そう、力がなければ生きられない。そういう世界を俺が望んだ。

 七年という歳月を無駄とは言わないが効率良く運用できなかったが、まだ十分挽回は可能である。戦う力をつけるというのは急務だ。これからは一層訓練に励もう。


 それと同時に情報も仕入れなければならない。世界に対して知らないことが多すぎる。情報が生死を分けるというのはどの世界でも共通だろう。

 これからは意図して情報を集めよう。


 今は雌伏の時。体も心も幼い。時間をかけて色々と考るべきだ。

 これからどうしようかと考えるだけでドキドキする。世界は未知で満ちている。それが嬉しい。

 しかし、心とは裏腹に体は休息を求めてくる。寝る子は育つっていうし、明日に向けて今日は寝むっとこう。

 おやすみなさい。

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