オーク退治
朝、疲れて眠る裸のヘレナを置いて顔を洗いに行く。ついでに宿から水桶も借りてくる。
部屋に帰るとヘレナも起きていて、いっしょに体を拭いた。
食堂でコーンスープと黒パンを食べ、装備の手入れをする。そんな風に準備していると朝の鐘が鳴り響き、オーク退治の時間が来た。
「じゃあヘレナ、行ってくるよ」
「アステル様、お気をつけてください。お帰りをお待ちしております」
ヘレナと別れ、プリマさんに会いに行く。なんとも後味が悪いがこれも最後だ。
教会の前に行くと既にプリマさんと有翼族数人が待っていた。
「すいません。遅れましたか?」
「いえ、早目に準備していただけです。何分初めてのことで緊張してしまって」
そういうプリマさんの表情が優れない。やはり実戦が恐ろしいのだろうか。
「我々は後方待機ですし、俺以外にも優秀な護衛が付くから心配なさらないでください」
「……はい」
気休めを言葉にしたがどうも反応が鈍い。心ここにあらずと言った感じだ。
「聖女様、そろそろ移動の時間です」
「では冒険者さんたちと合流しましょう」
なにか励ます言葉を探していたら、横から神父が口を出して来た。俺は未だにこの教会からは嫌われている。聖女に手を出す虫と思われているのだろう。
プリマさんの横に並び、街の外に出る。そこには見たことないほどの冒険者たちが集まっていた。これだけの数が集まっているのを見るのは初めてだ。中々壮観である。
ギルドから派遣された高ランクの冒険者だろう人がその集団に大声で指示を飛ばしている。烏合の衆が意味ある集団となり、隊列が出来た。こちらに数名の冒険者がやってくる。
「どうも初めまして。私は『ブラックソード』のリーダーをやっているダリウスと申します。今回は有翼族の方の護衛を務めさせてもらいます」
ダリウスさんはちらりと俺を見る。有翼族の中に一人だけ人族が混じっているのが不思議なのだろう。挨拶しとくか。
「初めましてダリウスさん。私はアステルといいます。今回は個人的な護衛依頼を受けまして同行させて頂きました」
「なるほど。では万が一我々が抜かれた時は護衛を頼むよ。もちろんそんなことはさせないがね」
「ええ、頼りにしています」
「おっと、移動が始まりましたね。我々も続きましょう」
少しギスギスした感じだが、悪い人ではないのだろう。挨拶を終えると有翼族の前に陣取り歩きだした。俺たちもそれに続く。
西の森はそれほど離れたところにあるわけではないが、大人数での行軍は時間がかかる。森の前まで陣取るのに一時間もかかってしまった。
もちろんその間に比翼の理のリンクは途切れた。これで俺は空間魔術を使えないし、闘気中の魔法を制限された状態になった。
偵察が帰ってくるのを待っているとプリマさんが口を開いた。今までは他の人たちが周りにいるのでしゃべることもなかったので一時間ぶりの会話だ。
「なにか……よくない気配がします」
「プリマさんは神託も受けれるのですか?」
「いえ、ただそんな予感がするだけです」
プリマさんのその予感を聞いて、身を引き締める。各地の魔物の大量発生、この前はゴブリンの魔人とも戦った。今回ももしかしたら……
そこで偵察が帰って来た。予想よりも大分オークが多いらしい。集落の全ては見通せなかったとのことだ。
予想よりも多いが対処できないことはないとのことで作戦は決行されることになった。俺たちは森を進み、集落の前の開けた場所に本陣を置いた。
「では有翼族の方たちはここで戦果を待っていてください。なに、オークたちなどすぐに殲滅してやりますよ」
冒険者の一人がそう言って集落に向かう。俺たちはそれを見送った。
有翼族はあくまで戦後の回復のためだ。戦闘とは離れたところに配置するのは当たり前である。
プリマさんのが手を握ってくる。その手は震えていた。
優しく握り返して微笑んでやる。これで少しは楽になるといいんだが……
しかし、その手がびくっと震える。遠くから剣戟の音が聞こえるのだ。オークの討伐が始まった。
雄叫びと剣戟のが鳴り響く、俺たちにできることはない。
しかし、こうして戦いの音を聞いてるだけというのも中々緊張する。なにせ戦況がどうなっていうか全く分からないのだ。
冒険者の集団がオークに負けるとは思えないが、どれだけの怪我人がでるのだろうか。
しばらくしてそれは起こった。まだ、始まったばかりだというのにオークが三体こちらに向かって来たのだ。漏れたにしても数が多い。
ブラックソードの面々が対処に乗り出す。有翼族の方は顔が青くなっている。
「てめーら死ぬ気で守れ。絶対に通すなよ!」
ダリウスさんの怒号が飛び、オークとぶつかり合う。ブラックソードは有翼族の護衛を任されるだけあって一人一人の技量は高いみたいだ。あっという間にオークを始末した。
「見ての通り、俺たちが居れば守りは万全です。安心してください」
ダリウスさんの言葉に有翼族も安心したのだろう。その顔が安堵に染まる。だが、数瞬もしないうちにそれは覆される。
なんと五体のオークがこちらにやってきたのだ。前線は一体どうなっているんだ?
「ちっ、数が多い。俺とジョエルがタイマンする。他は二人ずつで当たれ!」
ブラックソードが対処している間にプリマさんが話しかけてくる。
「アステルさん、私を前線に連れて行ってくれませんか?」
「なに言ってるんですか。危険です」
「きっと前線は酷いことになっていると思うのです。だから回復にいかなくては」
「冒険者は危険込みでクエストを受けています。プリマさんが気にする必要はありません」
「回復してあげられるのは私たちだけです。アステルさんが連れて行ってくれないのなら一人で行きます」
「……分かりました。でも無茶は駄目ですよ」
「はい!」
俺はプリマさんの手を取ってブラックソードの横を抜ける。
「おい、お前何やってる!」
ダリウスさんが吠える。
「前線に行きます。有翼族の護衛は引き続きお願いします」
「なにを勝手に言ってるんだ。ちぃっ!」
オークの棍棒を受けてダリウスさんが唸る。
「なりませぬぞ。聖女様! 危険です」
「戻ってください。聖女様!」
気づいた有翼族がプリマさんに対して警告するがもう遅い。俺たちはオークの横を抜け、前線まで走る。
そこは思っていたよりも崩壊していたわけではなかった。しかし、手が回っていない。オークの数が予想以上に多かったのだろう。怪我をして戦線を離脱したものもそれなりにいるようだ。
怪我人が集まり、それを守るように冒険者が集まっている避難所のような所ができていた。俺たちはその集団に近づいた。
「今、ヒールをかけます」
腕が折れたであろう男性にプリマさんが回復魔法をかける。温かな光が広がり、男の腕はあっという間に完治した。
「ありがてぇ、これで戦える」
男は礼を言うとすぐさまオークに向かって行った。プリマさんは既に次の怪我人の治療をしている。この分なら危険は少ないだろう。
俺は戦場のほうを見渡す。中央に通常のオークより一回り大きい個体がいるのが分かる。あれがこの集団のリーダーだろうか。それがこちらは見た。いや、正確にはプリマさんを見た。
そのオークが雄叫びをあげ、こちらに突進してきた。
まさかプリマさんに欲情したのか?
「オークキングだ。なんでこっちに!」
「高ランクの冒険者はどこだ。俺たちじゃ対処できねーぞ」
「なんでBランクのオークキングがこんなところにいるんだよ!」
避難所は阿鼻叫喚だ。治療も待たずに逃げ出すものもいた。
「アステルさん……」
プリマさんがぎゅっと俺の袖を掴む。
「プリマさんはここで待っていてください。あれは俺が相手します」
「あんなに大きいの無茶です! 相手はBランクですよ!」
「大丈夫です。安心してください」
もうあまり時間がない。プリマさんの手を振りほどき、闘気を纏ってオークキングに突撃する。
「プリマさんに欲情するなんて身の程を知れ。豚が!」
「ぶもおおおおおおおおおおお」
言葉が通じているかは知らないが挑発して注意をこちらに向ける。
一際大きい棍棒がこちらに振り落とされる。それを交わし、胴を思いっきり斬る。
「ちっ、硬いな」
剣がほとんど通らなかった。硬いのは皮膚だけでなくぶよぶよの腹の下にはかなりの筋肉があるようだ。胴体は狙うべきじゃないな。
「ぶもおおおおおおおお」
剣で斬られたのが痛かったのか、叫びならががむしゃらに棍棒を振るう。
こんな膂力で振られた棍棒をまともに受けたら吹き飛ばされてしまう。避け、あるいはいなして機を伺う。
ただ、力が強いだけだ。こんなのに負けるほど、俺の剣術は安くない。
棍棒を交わし足を斬りつける。オークキングの体勢が崩れる。今がチャンスだ。
闘気を解いて、フレイムランスを三本同時に展開し、オークキングに向けて発射する。
炎の槍はオークキングの腹に突き刺さり、その身を焼く。
断末魔の叫びが響き渡る。炎に包まれたオークキングは最後の矜持か立ち上がってこちらに向かって来る。
「せめて楽に殺してやるよ」
よろよろと向かってくるオークキングの首を跳ね飛ばし、楽にしてやる。これで決着はついた。
振り返って冒険者たちを見るとぽかんとこちらを見ている。プリマさんもぽーっとこちらを見つめている。
なにかやらかしたか? と自問自答するとすぐに原因に辿り着いた。
(そういや魔法は普通じゃないな。師匠とばっか戦ってたから忘れてた……)
誤魔化すように声を張り上げ宣言する。
「オークキングは倒した! 後は雑魚ばかりだ。冒険者の強さを見せてやれ!」
「「おおおおお!」」
何人かが呼応し、オークに突撃する。なんとか誤魔化せたかな?
オークキングの胸を裂き、大きめの魔石を手に入れてプリマさんの元へ戻る。
「アステルさん、すごいです。まるで物語の英雄のようでした」
「褒め過ぎですよ。まだまだ未熟です」
「いえ、そんなことないです。本当に凄かったです」
プリマさんはまるで熱に浮かされたように俺を見つめる。なんだか気恥ずかしい。
「あの、治療のほうをお願いできますか?」
申し訳なさそうな声で男が治療を促す。プリマさんは慌てて治療に戻った。
その後、形勢は加速度的に冒険者側が有利となり、オークは殲滅された。
いつの間にか他の有翼族も合流して怪我人を治療し、大規模な討伐にも関わらず、重傷者はなしという結果になった。
普通なら数ヶ月単位の傷がすぐ直るのだ。やはり回復魔法というのはすごいと再認識した。
こうしてオーク討伐は当初の予定よりも難儀したものの大成功に終わった。
そしてもう一つの目的を果たさなくてはならない。それはプリマさんとのお別れだ。
なんとか今日中に話しができないものか、と思案していると向こうからお呼びがかかった。
「アステルさん。あの、街に戻ったら少し二人になりませんか?」
俺にとっては渡りに船だったので間髪を容れず了承した。
プリマさんとの別れだと思うとつい彼女の顔を見つめてしまう。プリマさんもこちらを見て、顔を合わせてはお互いに顔をそむけるということを繰り返した。
俺は一体何をやっているのやら。
「よーし、これで解散だ。お前ら、酒場に迷惑かけるなよ!」
「おおお」
街の外で冒険者が解散する。きっと酒場は大賑わいだろう。
俺はこれからプリマさんと二人でお茶をしに行く。他の有翼族の視線が痛いがもう気にしないことにした。
「アステルさん、行きましょう」
「はい」
プリマさんに連れられて、昨日ヘレナとお茶した喫茶店に行く。なんともまあ偶然って怖いな。
お茶とクッキーが運ばれてくる。ここまで二人とも無言だ。俺はこの瞬間が壊れるのが怖くてしゃべりだせなかった。プリマさんはどうしてだろうか?
「あの、アステルさん。お話があります」
「はい、伺いましょう」
プリマさんの話を聞いてからでも俺の話は遅くないだろう。
「私を連れて逃げてはくれませんか?」
「ごほっ!」
お茶を吹き出した。あまりに突拍子もない話だ。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。一体どうしてそんな話に?」
「昨日、父から手紙が来たんです。私を結婚させるから準備をしとくようにと」
「そんな急に?」
「教会も混乱していて……」
今日の朝に元気がなかったのはそのせいか。
「しかし、逃げてどうするのです? 何か伝手があるのですか?」
「……アステルさん。私はあなたのことが好きです。だから結婚なんてしたくない! あなたと一緒に居たいんです!」
プリマさんが泣きながら愛を訴えてくる。周りが何事かとこちらを見ている。
「プリマさん、俺は冒険者です。これからも世界を回る予定です。そんな旅にあなたを付き合わせるわけにはいきません」
「私はアステルさんと一緒ならどこにでも行きます。どこだろうと構いません。この命の限り、あなたに尽くします!」
プリマさんの決意は固いようだ。彼女は思慮深い。一時の感情に振り回されてるだけではなく、きちんと考えての結論だろう。
俺もこの提案に乗ってしまいたい。でも無理なんだ。俺は決定的な一言を吐く。
「プリマさん、実は俺……結婚してるんだ」
「えっ?」
「それなのに君に近づいたんだ……軽蔑したろ?」
終わった。これで終わりだ。プリマさんもこれで引き下がるだろう。
「なんで軽蔑なんてするんですか? それでもいいです。私とも結婚してください!」
「えっ?」
今度は俺が驚いた。あれ、想像してた反応と違うんですけど!
「確かに結婚していたことには少し驚きましたけど、アステルさんみたいな人に妻がいたとしても不思議ではありません。私のことも愛してくれればそれでいいです」
「それでいいの?」
「有翼族では愛さえあれば何人も妻を持つのは普通です。というより一夫多妻の国のほうが多いと思いますが」
俺は井の中の蛙だ。今まで自分の常識が全てだと思っていた。世界は広いんだなぁ。
「そうなのか……」
「もちろん、アステルさんが私のことを愛してないというのなら引き下がります。でも、違いますよね? 私の自惚れですか?」
「いや、確かに俺はプリマさんのことが……」
「なら、問題ないですね」
「問題ないのか……」
「はい、問題ないです♪」
そうか、問題ないのか。じゃあ……
流されそうになる俺にヘレナの笑顔が浮かぶ。
「いや、駄目だ。ヘレナに了承を聞かなきゃ駄目だ」
「なら、今から会いに行きましょう」
「え、今から?」
「今からです。案内してください」
「……はい」
なにか怒涛のように話がまとまってしまった。ヘレナはどういう反応するのだろうか……
店の精算を終えて、宿に向かう。俺に告白したからだろうか、プリマさんは大胆になっていて俺と腕を組んでいる。
夫が出かけたら、知らない女と腕組んで帰って来て結婚するとか言い出したら普通なら発狂もんだな。
分かっているのにプリマさんの腕を俺は振りほどけない。
ついに扉の前に来てしまった。
ノックしてヘレナが応答する。
「どちら様ですか?」
「ヘレナ、俺だ」
「アステル様。今、開けますね!」
運命の扉が開く。ヘレナはぽかんとこちらを見ている。
「あの、隣の女の人は誰ですか?」
「実はだな……その……俺が結婚したいと言ったらヘレナはどうする?」
「……分かりました。とりあえず部屋にどうぞ」
「お邪魔します」
プリマさんがお淑やかに部屋に入る。俺は戦々恐々と入る。
「お話を聞かせてもらえますか?」
「はい、私はプリマヴェーラ。プリマとお呼びください。ヘレナさん初めまして。此度はアステルさんの妻となることを了承して頂きたいと存じます」
「妻ですか。アステル様は了承しているのですか?」
「そうだな。そうなれたらいいと思う。でも、もちろんヘレナが駄目というのなら諦めるぞ」
「なら私のほうから言うことはありません」
「え、いいの?」
「アステル様ならいつかこうなると思ってました。私だけで独占できるとは思ってません」
思ったよりも簡単に了承が得られて拍子抜けしてしまう。いや、痴話喧嘩にならなくて良かったんだけどさ。
「突然で悪いな」
「そうですね。できるなら早く言って欲しかったです」
「すまん」
「もういいですよ。ところでプリマさんのことを教えてください」
「そうだな」
プリマさんとの出会いからここに至るまでの経緯を説明した。
その後は、俺とヘレナの出会いについて説明し、比翼の理のことまで話した。
「すごい術式ですね。それでアステルさんとヘレナさんは繋がっているんですね。ずるいです」
「ずるいと言われても」
「私も繋がりたいです。できませんか?」
「できますよ」
「できるの!?」
「はい、もちろんアステル様が望めばですが、お父様から術式は教わっています」
どうやら比翼の理は複数人で出来るらしい。もう比翼じゃなくてキメラじゃないか。
「では今夜早速」
「もう一部屋取りましょう」
「では宿の主人に言ってきますね」
俺を差し置いてとんとん拍子に話が進んでいく。プリマさんが部屋を取りに出ていったのでヘレナに聞いてみる。
「ヘレナ、本当に良かったのか?」
「面白いわけではありません。でも、アステル様が望むなら従うだけです。プリマさんもいい人のようですし」
「ありがとうヘレナ」
軽くキスをして別れる。ヘレナには頭があがらない。
それから新しい部屋にヘレナが魔法陣を書きに行ったり、ヘレナが教会に泊まりを報告しに行ったり色々あった。
で、目の前にあるのが現実だ。ヘレナが魔法陣の中心のベッドでシーツで体を隠し、俺を待っている。
「プリマさん、いいかい?」
「もうアステルさんの妻です。呼び捨てにしてください」
「そうだな。プリマ、抱くぞ」
「はい」
まずは、プリマの背中に回り、純白の羽を触ってみる。さらさらとしっとりして温かい。まるで生きたシルクのようだ。羽にもちゃんと感覚があるようでプリマがくすぐったそうにしている。
そのまま背中の肌を触る。こちらも染みひとつなく、もっちりと手に沈むような極上の質感だ。
そのまま手を這わせ、前に持ってくる。手からこぼれる柔かな塊を堪能した。これはヘレナには無いものだったので感動もひとしおだ。男の本能なのだろうか、まるで飽きずにその塊を長い間もてあそぶ。
「ア……ステルさん、その……もう……」
プリマは息もたえだえにそう促した。しかし、翼があるのでどうしようか少し悩む。
「その……後ろからで……」
翼を下にするのは、痛いのかも知れない。後ろから乳房をもてあそびながら、俺は儀式を成功させた。
ぱたぱたと胸がはたかれて、起きる。プリマが俺の胸を枕にうつ伏せに寝ている。翼は勝手にぱたぱたと微動しているようだ。
朝の日差しを浴びて、黄金に輝く髪を優しく梳く。
「ん、アステルさん」
「ごめんな、起こしちゃったか」
「いいんです。寝過ぎちゃったみたいですね。これが比翼の理ですか、アステルさんと繋がってるのが分かります」
「しかし、こんな得体の知れない儀式をやってよかったのか?」
「いいんです。アステルさんの力になりたいし、なによりヘレナさんに負けてられません」
「ははは」
プリマは以外と負けず嫌いのようだ。
体を起こし、繋がりを確認する。ちゃんと二人と繋がっている。なんだか変な気分だ。
身支度を整え、ヘレナと合流する。これからは力の確認だ。
ナイフで指を少し切る。そしてプリマの指示通りに魔力をイメージして回復魔法を使う。
「ヒール!」
傷が塞がり、跡形も無くなる。どうやらちゃんと聖魔法は使えるようだ。
「すごいですね。本当に聖魔法使えちゃいました」
「プリマは闘気を纏ってみてくれ」
「魔力を圧縮して纏うんですよね。やってみます」
プリマもちゃんと闘気を使えた。室内だから動きはしなかったが、湧き上がる力は感じただろう。
次に空間魔法を使えせてみたがこっちは出来なかった。やはりヘレナとのリンクは繋がってないらしい。
「よし、二人と契約したから心配だったが問題はないみたいだな。後は負担の確認か」
「負担ですか?」
「ああ、プリマが限界を越えて能力使う場合、負担は俺に来るのか、それとも俺とヘレナの両方に来るのか確かめたい。なにか使えない魔法はあるか?」
「ヒールはハイヒール、エクスヒールと続くのですが、さらにその先、腕すらも生やすと言われるフェアリィヒールを習得していません」
「多分使えるはずだ。やってみてくれ」
「はい。行きます! フェアリィヒール!」
プリマが俺にフェアリィヒールをかける。まるで熱さすら伴いそうなほど全身が白光している。昨日の腰疲れとかもろもろが癒やされていく……
「すごいです。これは使える神官は今いないと言われているのに」
「まあ、他人のリソースまで使った反則技だからな。プリマもこまめに発動して熟練度をあげて、自分だけで発動できるようにしといてくれ」
「はい。わかりました」
「アステル様、負担のほうは?」
「ああ、そうだった。どうやら俺に決定権があるみたいだな。プリマから俺に負担が来て、ヘレナに振り分けるかどうか決めれるみたいだ。さっきはヘレナと分業してみた」
「つまり私たちの繋がりはアステルさんが中心になってるのですね」
「そうみたいだな」
謎の儀式である比翼の理の仕様もなんとなく分かって来た。俺を中心としたトップダウンの命令系統のようだ。
まとめると、俺と契約者の間での種族魔法の共有。全体のリソース共有。魔力の常時譲渡。この三つが能力のようだ。
リソースと同じく種族魔法も共有してくれれば戦略が広がったんだが、なぜか駄目らしい。
なぜ駄目なのかを考えるのは師匠の役目なので俺の知ったことじゃない。俺はできるならば使うだけだ。
「プリマ、俺たちはなるべく早く出ていこうと思っているんだが、出発にはどれくらいかかりそうだ?」
「そんなに荷物は多くないですから今日中にでも出れますよ」
「じゃあ、明日の朝に出ようか。今日はプリマ用の道具を買おうか」
「はい」
その後、色々と入用になる道具を買いに出かけた。
さらにプリマ用の武器も用意した。プリマの武器は弓だ。
有翼族なので風魔法も得意だが、それだけではヘレナの劣化になるだけであるから自分のスタイルを作るとのことだ。
背中に羽があるため背負うタイプの矢筒ではなく、腰に付けるタイプのにして、その大きな胸を傷つけないために皮の胸当てを購入した。プリマの胸に何かあっては世界の損失だからな。
矢はなるべく多く買って置いた。どうせ【収納】に入れてしまうので荷物にはならない。
プリマの道具集めが一段落付いたところで教会の私物をまとめるように言って別れた。
よく考えたら、教会のお偉いさんの娘と駆け落ちだ。勢いに任せてとんでもないことをしてしまったのかも知れん……
まあ、この世界じゃよくあることみたいなので気にしたら負けだ。冒険者と駆け落ちする話は珍しくもないそうな。
そもそも、四十代のおっさんと俺と同い年のプリマを結婚させようとした父親が悪い。だから俺は悪くない。そういうことにしておこう。
次の日、プリマの部屋に忍び込んで荷物をあらかた【収納】に入れてこっそりと抜け出す。
部屋には駆け落ちするとの置き手紙を残してある。父親にも絶縁状を出したそうだ。親子縁は既に冷め切っていたのだろう。プリマは大して気にもしてないようだ。
ヘレナと合流して三人で街を出る。嫁二人と腕を組みながら街道を歩く。
さあ、また新たな地に踏みだそうか。




