第七章 夜の謁見の間
このエピソードは魔族の動きがわかるエピソードです。
冒険者としての活動が板についてきたある夜のこと。俺は宰相からの呼び出しを受け、人払いのされた謁見の間へと向かっていた。
「こんな時間に、何の用だろうな」
「良い話ではなさそうだな」
ズィルガードも珍しく、いつもの飄々とした空気を消していた。竜の勘というやつなのか、彼がこういう顔をするときは、大抵ろくでもないことが起きる。
謁見の間には、父上と宰相、そして騎士団長の三人だけがいた。灯りを絞った室内は、昼間の華やかさとは打って変わって、重苦しい雰囲気に満ちている。
「レイン、夜分にすまぬな」
「いえ。何かあったのでしょうか」
「そなたが討伐した、あの魔族の件だ」
父上はそう言うと、宰相に目配せをした。宰相が一枚の地図をテーブルに広げる。王国全土が描かれたその地図には、いくつもの赤い印がつけられていた。
「この半年で、魔族の出没報告が急増しております。しかも、これまでのような突発的な単独出現ではなく」
「組織立った動き、ということですか」
「その通りです、レイン殿下」
騎士団長が険しい顔で頷いた。
「各地の魔族討伐に当たった騎士たちの証言によれば、討伐された魔族の体内から、共通した紋様の刻まれた石が見つかっております。これは――」
騎士団長は懐から、小さな黒い石を取り出してテーブルに置いた。表面には見たこともない紋様が刻まれ、微かに禍々しい魔力を放っている。
「魔族を統率するための、何らかの呪具かと」
「誰かが、魔族を意図的に動かしている……ということですか」
「その可能性が高い、と見ております」
ズィルガードが石を手に取り、目を細めてじっと見つめた。
「……これは、古い魔族語で書かれた契約の紋様だな。誰かが、魔族の一部と『取引』をしているようだ」
「取引...、というのは」
「魔族の力を借りる代わりに、何かを与えている、ということだろう。人間側にこれを画策できる者がいるとすれば――厄介なことになる」
室内に沈黙が落ちた。父上が重々しく口を開く。
「レインよ。そなたには、まだこのことを大々的に公にはせぬ。だが、心の片隅に留めておいてほしいのだ。この国のどこかに、魔族と手を結ぶ者がいるかもしれぬということを」
「わかりました」
「それと、もう一つ」
父上は少し言いにくそうに、言葉を続けた。
「そなたの力のことも、宮廷内では既に噂になっておる。中には、そなたを利用しようとする者、あるいは疎ましく思う者も出てくるだろう。……気をつけよ」
その言葉の意味を、俺はこの時、まだ半分ほどしか理解できていなかった。
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