第二章 目覚めの日
頑張って投稿します。
転機が訪れたのは、十二歳になった年の、初夏のことだった。
その日、俺はいつものようにアリシアと城下町に出ていた。目的はもちろん、屋台の串焼きである。人生二度目とはいえ、美味いものは美味い。
「レイン様、あまり城壁の外側には近づかないでくださいね」
「わかってるって」
城下町の外れ、城壁のすぐ近くまで来たとき、それは起こった。
空気が、変わったのだ。
肌にまとわりつくような、粘着質な気配。街の人々が悲鳴を上げながら逃げ惑い始める。俺が視線を向けた先には、黒い霧のようなものをまとった、人型の何かが立っていた。
角のようなものが額から生え、赤黒い瞳がぎょろりとこちらを見る。
「魔族……!」
アリシアの声が震えていた。魔族――人間とは相容れない種族で、時折こうして人里に現れ、人を襲う。城にも魔族対策の騎士団はいるが、街の外れまで即座に駆けつけられるわけではない。
「レイン様、お逃げください!」
「アリシアも一緒に――」
言い終わる前に、魔族が咆哮を上げてこちらに突進してきた。俺は咄嗟にアリシアを庇うように前に出る。頭の中では、逃げろ、という前世からの本能的な声が響いていたが、体が勝手に動いていた。
その瞬間だった。
胸の奥、心臓のあたりから、何か熱いものが弾けるような感覚があった。
(――これ、は)
視界の端に、聞き覚えのある半透明のウィンドウが浮かぶ。
【固有スキル『理外の剣』が発現しました】
【魔力属性:無属性(特異)】
女神様が言っていた「異能」。それがようやく、この瞬間に目覚めたらしい。頭の中に、剣の扱い方、魔力の練り方、まるで最初から知っていたかのような知識が流れ込んでくる。
「うおおおおおおっ!」
俺は近くにいた騎士から借りた――というか、腰が抜けて座り込んでいた新米騎士の剣を無理やり引っこ抜き、迫りくる魔族に向かって走り出した。
「レイン様!?」
アリシアの悲鳴じみた声が背中に聞こえたが、止まれなかった。いや、止まる必要がないと、体が理解していた。
魔族の爪が振り下ろされる。俺はそれを、紙一重で躱した。まるで相手の動きが、スローモーションのように見える。剣を握る手に、見えない力が流れ込んでくるのが分かった。
「はああっ!」
振り抜いた一撃は、魔族の腕を斬り裂いた。黒い血しぶきが舞う。魔族が苦悶の声を上げてよろめいた隙に、俺は追撃の一閃を放ち、その胴を横薙ぎに斬り払った。
黒い霧が晴れるように、魔族の体が霧散していく。
静寂が戻った街の外れに、俺は肩で息をしながら立ち尽くしていた。
「……勝った、のか?」
振り返ると、アリシアが目を丸くしてこちらを見ていた。周囲に集まってきた騎士たちや街の人々も、呆然とした表情を浮かべている。
「れ、レイン王子が……魔族を、お一人で……」
「魔力なしの王子様が……?」
どうやら俺は、思っていたよりも派手な魔法戦闘の才能を隠し持っていたらしい。それも、女神様の言葉を借りるなら「かなり控えめな異能」がこれとは、控えめの基準がおかしいのではないだろうか。
アリシアが駆け寄ってきて、俺の体をあちこち確認する。
「お怪我は!? どこか痛むところは!」
「大丈夫、大丈夫だから。それより、あんな無茶して驚かせて悪かったな」
「本当ですよ、もう……! 心臓が止まるかと思いました……!」
目に涙を浮かべながら怒るアリシアを見て、俺は思わず苦笑した。心配してくれる人がいるというのは、悪くない。
この日を境に、俺の「のんびり第九王子ライフ」には、少しずつ変化が訪れることになる。
魔力の目覚めた王子の噂は、瞬く間に城中に広がった。そしてその噂を聞きつけて、俺のもとを訪ねてくる者が現れる。
それが、後に俺の相棒となる、あの竜だった。
よろしくお願いします




