第十六章 休日のギルド巡り
これかも頑張って投稿します。
「レインさん! 今日はお休みの日ですよね!?」
朝早くから宿舎の前で待ち構えていたノエルに、俺は少し面食らった。今日は珍しく、依頼も謁見も予定のない、完全な自由日だったはずだが。
「休みだけど……どうしたんだ、朝から」
「たまには、依頼抜きで遊びに行きませんか! この前、新しくできた市場を見に行きたくて!」
元気いっぱいに誘ってくるノエルの後ろで、ズィルガードが呆れたように腕を組んでいた。
「せっかくの休日だというのに、朝から元気なことだ」
「ズィルガードさんも一緒に来てください! あ、あと護衛としても心強いですし!」
「護衛が必要な買い物なのか、それは」
「気持ちの問題です!」
押し切られる形で、俺たちは三人で城下町へと繰り出すことになった。冒険者活動ばかりで、こうしてただ遊びに出かけるのは、思えば久しぶりのことだった。
新しくできたという市場は、王都の中央広場に隣接する一角で、様々な露店がひしめき合っていた。異国の香辛料、色とりどりの布地、珍しい木工細工――前世で言うところの、フリーマーケットのような賑わいだ。
「わあ、見てください、これ!」
ノエルが目を輝かせて指差したのは、小さな動物の形をした木彫りの人形だった。器用な手つきで、様々な魔物や動物を模した人形が並べられている。
「面白いな。これ、猪型魔物じゃないか?」
「あ、本当だ! 初依頼の時のブラッドタスクにそっくり!」
「あの時は死闘だったのに、こうして人形になると可愛く見えるから不思議だな」
「言われてみれば」
二人でくすくすと笑い合っていると、隣で人形を眺めていたズィルガードが、ふと真剣な顔で一つの人形を手に取った。
「これは……」
「どうかしたか?」
「いや。竜の人形が、随分と不細工に作られていると思ってな」
「本気で言ってるのか、それ」
ズィルガードが手にしていたのは、丸っこくデフォルメされた、愛嬌のある竜の人形だった。本物の威厳ある姿とは似ても似つかない、可愛らしいデザインだ。
「私はもっと、こう、威厳のある造形をされて然るべきだと思うのだが」
「お前、たまにそういう変なところにこだわるよな」
「竜としての矜持の問題だ」
真面目な顔で人形と睨めっこするズィルガードの姿がおかしくて、俺とノエルは思わず吹き出してしまった。
「ズィルガードさん、それ買うんですか?」
「……悪くない出来だとは思う。買っておこう」
「結局買うのかよ」
「不細工でも、愛嬌があるのは認めよう」
露店の店主が、まさか目の前で買い物をしているのが本物の竜だとは思いもよらず、上機嫌に人形を包んでいる様子が、なんともシュールだった。
⸻
市場を一通り見て回った後、俺たちは近くの食堂に入り、遅めの昼食をとることにした。窓際の席に座り、注文した料理が届くのを待つ間、ノエルがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、レインさんって、王城でどんな生活してるんですか? 私、あんまり詳しく聞いたことなかったなって」
「どんなって言われても……普通だぞ、意外と」
「王子様の普通って、庶民の普通とは違う気がします」
「そうか? 朝起きて、剣の稽古して、勉強して、たまに冒険者活動して……くらいだけど」
「アリシアさんっていう、専属のメイドさんがいるんですよね?」
「ああ。物心つく前からずっと世話になってる人だ」
「どんな人なんですか?」
俺はしばらく考えてから、アリシアの姿を思い浮かべた。
「真面目で、しっかり者で……あと、俺が無茶するとすぐ心配してくる。過保護気味かもしれない」
「なんだか、想像できます」
「今度、紹介してやろうか」
「ぜひ!」
ノエルが目を輝かせて頷いた。運ばれてきた料理を食べながら、俺たちはしばらく他愛のない話に花を咲かせた。冒険者ギルドの受付嬢の口癖の話、最近流行りの屋台の新メニューの話、ズィルガードが人化してから未だに慣れない人間の生活習慣の話。
「そういえば、ズィルガードさんって、普段はどこで寝てるんですか?」
「城の裏手にある、古い塔の最上階を根城にしている」
「え、そんなところに住んでるんですか」
「静かで見晴らしがいい。竜としては、快適な寝床だ」
「今度、遊びに行ってもいいですか?」
「構わんが、狭いぞ」
「それでも見てみたいです! 竜のお家、興味あります!」
無邪気にはしゃぐノエルを見ながら、ズィルガードはどこか困ったような、それでいて満更でもなさそうな顔をしていた。
食後、俺たちはギルドに立ち寄り、掲示板を眺めながら次の依頼の相談をした。特に急ぎの用事があるわけではなかったが、こうして三人で他愛のない相談をする時間そのものが、心地よかった。
「あ、レインさん見てください、これ」
ノエルが指差した依頼書には、「王都近郊の森で、珍しい光る茸の採取」と書かれていた。
「珍しい茸か。面白そうだな」
「危険度も低いみたいですし、次の依頼はこれにしませんか?」
「賛成だ」
「私も異論はない」
三人で顔を見合わせて笑い合う。魔族の陰謀も、ヴィレム兄上を巡る複雑な事情も、確かに俺の日常の一部になりつつある。だが同時に、こうした何気ない休日の温かさもまた、俺の日々を支える大切な一部だった。
夕暮れ時、市場で買ったデフォルメ竜の人形を大事そうに抱えたズィルガードと、上機嫌に鼻歌を歌うノエルと共に、俺は王城への帰路についた。
「今日は楽しかったです! また休みの日、一緒に出かけましょうね!」
「ああ、そうだな」
空に浮かぶ雲が、夕陽に照らされて、優しいオレンジ色に染まっている。剣を振るう戦いだけでなく、こうした何気ない日常の積み重ねもまた、俺にとってのかけがえのない冒険なのかもしれない。
のんびりとしたスローライフを夢見た第九王子の人生は、思っていたよりもずっと賑やかで、そして温かいものになりつつあった。
よろしくお願いします




