第十五章 従者の影
ここからは二週間に一回の投稿に変えます。すいません、僕の予定の観念から待っている皆様には申し訳なく思います。定期的に投稿はしていきますのでよろしくお願いします。
数日後、フィオナから呼び出された俺は、彼女の私室で報告を受けることになった。同席していたのはズィルガードと、珍しくレティシアの姿もあった。
「ヴィレム兄様本人については、目立った不審な動きは見当たらなかったわ」
フィオナはそう切り出した。俺は少しほっとしたが、彼女の表情はまだ曇ったままだった。
「ただ――彼の側近の一人に、気になる人物がいるの」
「側近?」
「ヴィレム兄様付きの文官、ガストンという男よ。ここ半年ほどで急に取り立てられて、今ではヴィレム兄様の側近筆頭のような立場になっているわ」
「急に取り立てられた、というのは珍しいことなのか?」
「珍しいというほどではないけれど……気になるのは、その前歴なの。ガストンは元々、東部のカルヴィン辺境伯領の出身で、あの『黒い外套の行商人』の目撃情報が出ていた地域と、時期的に重なるのよ」
俺は思わずズィルガードと顔を見合わせた。
「それだけで断定はできないが……気になる符合だな」
ズィルガードが低く呟く。フィオナは頷きながら、さらに続けた。
「もう一つ。ガストンが最近、頻繁に城下の商業区に足を運んでいるという話も聞いたわ。表向きは、ヴィレム兄様の私的な買い物の代行らしいけれど……」
「その行き先が、怪しいと」
「詳しい行き先までは分からないけれど、少なくとも不自然なほど頻繁ではあるみたい」
レティシアが静かに口を挟んだ。
「兄様、一つ提案があるの」
「何だ?」
「もし本当にガストンが何か企んでいるのだとしたら、ヴィレム兄様自身は、それに気づいていない可能性が高いと思うわ」
「どういうことだ?」
「ヴィレム兄様の性格を考えると――彼は確かに、あなたに対して棘のある態度を取るけれど、それは彼なりの、王族としての矜持と不安の裏返しだと思うの。誰かと積極的に手を組んで、陰謀を企てるような、器用で狡猾な人ではないわ」
「むしろ、その不安につけ込まれやすい人、ということね」
フィオナが補足するように言った。俺は少しずつ、状況の輪郭が見えてくるのを感じた。
「つまり、ヴィレム兄上自身は無関係で、その側近であるガストンという男が、組織と繋がっている可能性がある、ってことか」
「今のところは、あくまで可能性の話よ。証拠と呼べるものは、まだ何もないわ」
「だが、調べる価値は十分にある」
ズィルガードが低く言った。
「もし本当にガストンが黒衣の同盟と繋がっているなら、ヴィレム殿下自身が、知らぬ間に利用されている危険がある。……最悪の場合、彼自身が組織にとっての『使い捨ての駒』にされる可能性すらあるだろう」
その言葉に、俺は背筋が寒くなった。ヴィレム兄上のことは決して好きにはなれないが、それでも彼は俺の兄だ。もし本当に、そんな危険な立場に置かれているのだとしたら、放っておくわけにはいかない。
「どうすればいい?」
「まずは、ガストンの動きを慎重に監視する。証拠を掴んだ上で、然るべき筋――宰相や騎士団長に報告するのが筋だろう」
「ヴィレム兄上本人には、何も言わない方がいいのか」
「今の段階で伝えても、感情的な反発を招くだけかもしれないわ」
フィオナが少し困った顔で言った。
「あの人は、あなたを快く思っていない。あなたの口から『あなたの側近が怪しい』なんて言われたら、素直に聞くとは思えないもの」
「それは……そうかもな」
俺は少し複雑な気持ちを抱えながら、頷くしかなかった。関係がこじれている相手ほど、真実を伝えるのが難しいというのは、皮肉なものだ。
「ズィルガード、監視は頼めるか?」
「無論だ。人化の姿であれば、ある程度自由に城内を動き回れる。ガストンの動向、注意して見張っておこう」
「頼む」
こうして、ヴィレム兄上を巡る調査は、静かに、けれど着実に進み始めることになった。表立った対立ではなく、水面下での慎重な観察――それは、俺がこれまでの魔族討伐とは違う種類の「戦い」であることを意味していた。
剣を振るうだけが、力の使い方ではない。時には、じっと状況を見極め、慎重に手を打つことも、大切な戦い方の一つなのだと、俺はこの一件を通して学びつつあった。
部屋を後にする間際、レティシアが静かに声をかけてきた。
「レイン兄様」
「なんだ?」
「もし本当に、ヴィレム兄様が利用されているだけなのだとしたら――彼を助けてあげてほしいの。彼はあなたに厳しい態度を取ってきたけれど、それでも、私たちの大切な兄なのだから」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
「もちろんだ。俺だって、兄上を陥れたいわけじゃない。ただ、真実を知りたいだけだ」
「ありがとう。あなたなら、そう言ってくれると思ってた」
レティシアはほっとしたような笑みを浮かべた。俺はその笑顔を見ながら、改めて心に誓う。
たとえ相手が自分に棘のある態度を取る兄であっても、家族としての繋がりを、簡単に切り捨てたくはない。それが、この温かくも複雑な、九人の王子と六人の王女という大きな家族の中で生きる、俺なりの答えだった。
楽しんでいただけると幸いです




