第一幕間 黒衣の間にて
最近、病院受診が多くて大変な僕ですが、投稿は頑張ります。
王都から遥か離れた、地図にも載っていない廃墟の地下。かつて教会の隠し施設であったというその場所は、今では全く別の目的のために使われていた。
薄暗い石造りの広間には、いくつもの黒い外套を纏った人影が、静かに集っていた。中央の祭壇には、あの黒い石と同じ紋様が刻まれた巨大な魔法陣が描かれている。
「――計画の進捗は」
上座に座る、フードを目深に被った人物が、低く静かな声で問うた。他の者たちより一回り豪奢な外套を纏ったその人物こそが、この集団を率いる存在らしい。
「アルスディア王国において、想定外の事態が発生しております」
報告する声は、若い男のものだった。跪いたまま、緊張した様子で言葉を続ける。
「先日、我らの支配下にあった下級魔族の一体が、討伐されました。討伐したのは――アルスディア王国の第九王子、レインという少年だそうです」
その名前に、上座の人物がわずかに眉を動かした。
「第九王子……継承権のない、あの王子か」
「ご存知でしたか」
「以前より、動向を注視していた者の一人だ。魔力なしと噂されていたが、まさか、これほど早く力を発現させるとはな」
上座の人物は、指先で祭壇の縁を静かになぞった。
「他の者たちは何と」
「魔族が単独で敗れたことより、王国側がこちらの手がかりを掴みつつあることを危惧しております。竜が動いているという情報もあり――」
「竜、か」
その言葉に、上座の人物は微かに笑ったように見えた。
「面白い。人の身に留まらぬ者まで、我らの動きを嗅ぎつけたか」
「いかがいたしましょう。計画の進行を、一時停止いたしますか」
「いや」
上座の人物は、静かに、しかし迷いなく答えた。
「二百年の時をかけて、ここまで積み上げてきた計画だ。小さな障害ごときで止める理由にはならぬ。むしろ――」
その声に、微かな愉悦の色が混じった。
「継承権を持たぬ王子が、思わぬ形で目覚めたというのなら、それはそれで、興味深い駒になるやもしれぬ。……いや、あるいは、厄介な障害になるやもしれぬ」
「では」
「引き続き、各領地での準備を進めよ。特に、東部と南部の拠点は、予定通りに機能させること。第九王子とその周辺については、当面は静観する。だが――もし、あの小僧が計画の核心に近づくようであれば」
上座の人物は、静かに言葉を切った。石造りの広間に、一瞬、重苦しい沈黙が満ちる。
「排除することも、視野に入れておけ」
「御意」
跪いていた男が深く頭を下げ、闇の中へと下がっていく。
広間に残った上座の人物は、しばらく一人、祭壇の紋様を見つめていた。その口元には、この場の誰にも見せることのない、複雑な笑みが浮かんでいた。
「第九王子、レイン……。お前がどこまで、この物語を面白くしてくれるか――楽しみにしているぞ」
その呟きは、誰の耳にも届くことなく、暗闇の中に静かに溶けて消えていった。
よろしくお願いします




