第十一章 竜のネットワーク、などの情報
手がかりが見つかる。ここからの展開が少し気になるところです。
フィオナたちとの茶会から数日後の夜、俺の部屋に、珍しく神妙な顔をしたズィルガードがやってきた。
「例の件、ある程度まとまった。聞くか」
「もちろんだ」
窓辺に腰掛けたズィルガードは、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。竜の爪で削り出したような、独特の筆致で何かがびっしりと書き込まれている。
「まず、あの黒い石についてだが」
「うん」
「あれは『隷属紋』と呼ばれる、かなり古い術式の一種だ。本来は、魔族が自らの配下――下級の魔物や、力の弱い同胞を従わせるために使うものだった」
「本来は、ということは」
「近年、それを人間側が扱えるように改変された形跡がある。つまり――誰かが、魔族の術式を独自に研究し、悪用している」
ズィルガードは羊皮紙を俺に手渡した。そこには紋様の詳細な写しと、彼が同胞の竜たちから聞き集めたという情報の断片が、丁寧にまとめられていた。
「私の古い知り合いに、南方の山脈に棲む竜がいる。そこの縄張り近くでも、似たような紋様の使われた事件が起きていたそうだ」
「南方でも……」
「話を聞く限り、少なくとも三つの国で、同様の被害が確認されている。単一の組織が、複数国にまたがって暗躍している可能性が高い」
俺は羊皮紙をじっと見つめながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。一国だけの問題ではない――それだけ、事態は根深いということだ。
「黒い外套の商人については、何か分かったか?」
「そちらも、多少の手がかりがある」
ズィルガードは羊皮紙のもう一枚を取り出した。
「南方の竜が言うには、その地域でも、黒い外套を纏った素性不明の商人の目撃情報があったそうだ。特徴は――目深にフードを被り、決して素顔を見せない。取引は必ず夜、人目のない場所で行う、と」
「ノエルの村の話と一致するな」
「うむ。……そして、これが一番厄介な情報なのだが」
ズィルガードは声を落とした。
「その商人、噂によれば――魔族ではなく、人間だという証言がある」
俺は思わず息を呑んだ。
「人間が、魔族を操って、自分の同胞を襲わせている……ってことか」
「断定はできん。だが、その可能性は十分にある。人間の中にも、魔族と手を組むことで何らかの利益を得ようとする者がいても、不思議ではない」
部屋の中に、重い沈黙が落ちた。魔族という分かりやすい敵の裏に、もっと複雑な思惑を持つ何者かが潜んでいる――その可能性は、単純な勧善懲悪では片付けられない、嫌な予感を俺に抱かせた。
「レイン、私からの忠告だが」
「何だ」
「この件、まだ確証のない段階だ。迂闊に動けば、逆にこちらの動きを察知される恐れがある。焦って突っ走るのは得策ではない」
「わかってる。俺だって、無鉄砲なつもりはない」
「ノエルにこの話をする時も、慎重にな。彼女の心の傷に、直接触れる話だ」
ズィルガードの言葉に、俺は静かに頷いた。感情に任せて突っ走れば、大切なものを見誤ることになりかねない。
「これからどうする?」
「まずは情報収集を続ける。幸い、フィオナ王女たちも協力を申し出てくれたのだろう。社交界の噂、書庫の資料、そして竜のネットワーク――複数の伝手を使って、少しずつ真実に近づいていくしかあるまい」
「地道だな」
「陰謀というのは、大抵地道な調べ物の積み重ねで暴かれるものだ。派手な戦闘だけが解決手段ではない」
ズィルガードは珍しく、諭すような口調でそう言った。長く生きてきた竜の言葉には、それなりの重みがある。
「分かった。焦らず、慎重に進める」
「うむ、それでいい」
ズィルガードは羊皮紙を丁寧に折りたたむと、俺に手渡した。
「これは、お前が持っておけ。父上――国王陛下にも、適切な形で共有した方がいいだろう」
「そうだな。明日にでも、宰相に相談してみる」
窓の外では、静かな夜が更けていく。王都の灯りが、遠くにぽつぽつと瞬いていた。この平和な光景の裏側で、確実に何かが蠢いている――その事実を胸に刻みながら、俺は羊皮紙をそっと机の引き出しにしまい込んだ。
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