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伝説を脱がせる
黒装束で天井裏に潜み、手裏剣を放ち、水の上を歩く──忍者のこの姿は、大部分が江戸期の講談と近現代の娯楽が作り上げた像である。
戦国の一次史料に現れる「忍び」は、もっと即物的な存在だ。夜討ち・放火・城への潜入・情報収集を請け負う専門技能者であり、史料上は「忍び」「乱波」「透波」「草」「かまり」など、地域ごとに様々な名で呼ばれた。
彼らの主業務は、華麗な暗殺ではない。
第一に情報収集──敵城の普請の様子、兵糧の集積、兵の出入り、噂話の採集。
第二に破壊工作──城下や陣への放火、夜間の攪乱。第三に潜入と内通の仲介──城内の内応者との連絡役。
つまり忍びとは、本書がここまで描いてきた調略の、末端実務を担う手足だった。
近年の実証研究(平山優らの仕事)は、戦国の「忍び」の実態が、悪党・野伏・足軽といった戦場周縁の武力と地続きであり、諸大名が彼らを城の夜間警備や敵地攪乱に恒常的に雇用していたことを明らかにしている。
むろん超人ではない。危険手当で夜の仕事を請け負う、戦場の非正規雇用層なのである。




