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情報の入口──嘆きを運んだ者たち
厳島の工作戦でもう一つ注目すべきは、偽情報の「配達経路」である。
元就が陣中で漏らした偽の嘆き──厳島築城は失策だった──は、どうやって敵の耳に届いたのであろうか。
軍記は、捕虜の口、商人の噂、離反者の注進を挙げる。つまり元就は、敵と自陣の間を日常的に往来する人々の流れを、そのまま情報の水路として使ったのである。
戦国の陣は、密閉された軍事空間ではない。商人が兵糧や酒を売りに来て、人夫が出入りし、捕虜が交換され、脱走兵が敵に駆け込む。
この漏れやすさは、普通は防諜上の弱点である。だが元就は発想を裏返した。
どうせ漏れるなら、漏らしたいものを漏らせばよい。陣中の雑談は、敵に届く前提で設計する──嘆きの独り言は、宛先の書かれていない書状のようなものだった。
毛利氏には後世、世鬼氏・座頭衆を諜報に用いたという伝承も残るが、確実な史料で追える毛利の情報力の実体は、こうした「日常の水路の管理」にこそある。
忍びの超人譚より地味だが、地味なものほど、実戦では強いのである。




