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『何者にもなれなかった男』  作者: こうた
第2章中学生の王様

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第10話「王の孤独」

朝。


教室に入った瞬間、広岡悟は理解する。



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“完成してしまった”と。



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竹中清はいない。

阪田健吾はいる。

しかし、どこか距離がある。



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昨日までの「中心」は、もう存在しない。



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代わりに残ったのは、広岡だけだった。



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(俺だけか)



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机に座る。


周囲の会話は続いている。


だが、会話の輪は小さくなっている。



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誰かが抜けるたびに、円が縮む。



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それを、広岡は“見えてしまう”。



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昼休み。


阪田が弁当を食べながら言う。



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「なあ悟」



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「竹中いなくなってからさ」



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言葉が止まる。



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「なんか、俺らだけでいいのかって思うわ」



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広岡は箸を止める。



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(もう始まってる)



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“残った側の違和感”。



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それは、未来で何度も見た景色だった。



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放課後。



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校舎裏。



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阪田がいつものようにタバコを出す。



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だが、火をつけない。



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「悟」



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声が低い。



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「俺さ」



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「やっぱちょっと考えるわ」



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その一言で、空気が変わる。



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(まただ)



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(また一人)



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阪田はタバコをポケットに戻す。



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そして笑う。



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「まあ、まだ中学生だしな」



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軽い言葉。


だが、もう軽く聞こえない。



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その背中を見ながら、広岡は気づく。



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これは偶然じゃない。



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“選択の結果”が、連鎖している。



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そして残った自分は。



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その連鎖の中心にいる。



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夜。



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公園。



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広岡は一人。



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ベンチに座る。



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誰も来ない。



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かつての騒がしさはない。



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その静けさの中で、ようやく気づく。



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(俺は一軍の王様じゃなかった)



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(ただ、最後まで残っただけだ)



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遠くの街灯。



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その下に、スーツの男が立っている。



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もう驚かない。



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男は言う。



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「これが、あなたの選んだ中学です」



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広岡は笑う。



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乾いた笑い。



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「選んだ?」



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男は否定しない。



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ただ静かに見ている。



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広岡は空を見上げる。



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星は見えない。



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だが、確かに何かが崩れたあとだった。



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そして理解する。



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中学という最初のループは終わった。



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残ったのは、



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“変えた結果の孤独”だった。



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(第2章・完)



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