第1話「誰も知らない入学式」
目を開けた瞬間、空気が違った。
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中学の軽さはもうない。
代わりに、少し重い湿り気のある空気が肺に入ってくる。
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広岡悟はゆっくり起き上がる。
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(次は高校か)
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頭では理解している。
何度も“落ちてきた”感覚がある。
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部屋の天井は、見覚えがあるが少しだけ古い。
机の上には高校の制服。
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(高校生の俺)
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鏡を見る。
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中学より少し背が伸びている。
だが、目は変わらない。
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(中身だけが知りすぎてる)
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玄関が開く。
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「悟ー、行くぞー!」
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竹中ではない。
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誰でもない“知らない声”だった。
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広岡は一瞬止まる。
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(あれ?)
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ドアの向こうには、見知らぬ同級生がいる。
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制服。
新しい顔。
知らない世界。
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(竹中は?阪田は?)
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記憶を探る。
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だが高校の情報が曖昧だ。
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(変えすぎたか)
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そのとき、胸の奥に違和感。
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“知っているはずの人間がいない”
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それは恐怖だった。
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入学式。
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体育館。
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ざわつく新入生。
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広岡はその中にいる。
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だが孤立している。
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誰も“前の関係”を知らない。
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(中学の延長じゃない)
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世界がリセットされている。
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教師の声。
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「新入生代表、広岡悟くん」
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一瞬、息が止まる。
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(なんで俺?)
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知らない名前のように呼ばれる自分。
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壇上に立つ。
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視線が集まる。
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だが、その視線の中に“知っている顔”は一つもない。
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(ここから全部作り直しなのか)
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そのとき、後ろから視線を感じる。
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あの男。
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スーツの男。
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だが今回は距離が違う。
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“遠い”。
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まるでデータを見るように見ている。
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広岡は理解する。
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中学での選択は、
世界そのものを少し歪めていた。
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そして今、その歪みの中に放り込まれている。
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昼休み。
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一人で食べる弁当。
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誰も話しかけない。
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(ここからか)
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高校という第二のステージ。
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だが、もう“仲間の前提”がない。
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すべてがゼロ。
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そのとき、遠くで声。
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「お前、広岡だよな?」
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振り向く。
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知らない男子。
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「同じクラスだよな」
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その瞬間だけ、少しだけ現実が戻る。
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だが、それも薄い。
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広岡は気づく。
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これは“やり直し”ではない。
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別の世界線だ。
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そして、その中心にいるのは自分だけ。
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(続く)




