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『何者にもなれなかった男』  作者: こうた
第3章壊れ始めた未来(高校編)

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第1話「誰も知らない入学式」

目を開けた瞬間、空気が違った。



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中学の軽さはもうない。


代わりに、少し重い湿り気のある空気が肺に入ってくる。



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広岡悟はゆっくり起き上がる。



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(次は高校か)



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頭では理解している。


何度も“落ちてきた”感覚がある。



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部屋の天井は、見覚えがあるが少しだけ古い。


机の上には高校の制服。



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(高校生の俺)



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鏡を見る。



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中学より少し背が伸びている。


だが、目は変わらない。



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(中身だけが知りすぎてる)



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玄関が開く。



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「悟ー、行くぞー!」



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竹中ではない。



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誰でもない“知らない声”だった。



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広岡は一瞬止まる。



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(あれ?)



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ドアの向こうには、見知らぬ同級生がいる。



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制服。

新しい顔。

知らない世界。



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(竹中は?阪田は?)



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記憶を探る。



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だが高校の情報が曖昧だ。



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(変えすぎたか)



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そのとき、胸の奥に違和感。



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“知っているはずの人間がいない”



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それは恐怖だった。



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入学式。



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体育館。



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ざわつく新入生。



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広岡はその中にいる。



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だが孤立している。



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誰も“前の関係”を知らない。



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(中学の延長じゃない)



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世界がリセットされている。



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教師の声。



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「新入生代表、広岡悟くん」



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一瞬、息が止まる。



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(なんで俺?)



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知らない名前のように呼ばれる自分。



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壇上に立つ。



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視線が集まる。



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だが、その視線の中に“知っている顔”は一つもない。



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(ここから全部作り直しなのか)



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そのとき、後ろから視線を感じる。



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あの男。



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スーツの男。



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だが今回は距離が違う。



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“遠い”。



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まるでデータを見るように見ている。



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広岡は理解する。



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中学での選択は、


世界そのものを少し歪めていた。



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そして今、その歪みの中に放り込まれている。



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昼休み。



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一人で食べる弁当。



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誰も話しかけない。



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(ここからか)



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高校という第二のステージ。



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だが、もう“仲間の前提”がない。



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すべてがゼロ。



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そのとき、遠くで声。



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「お前、広岡だよな?」



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振り向く。



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知らない男子。



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「同じクラスだよな」



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その瞬間だけ、少しだけ現実が戻る。



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だが、それも薄い。



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広岡は気づく。



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これは“やり直し”ではない。



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別の世界線だ。



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そして、その中心にいるのは自分だけ。



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(続く)

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