第5話「竹中の違和感」
翌日。
学校は何もなかったように始まった。
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チャイム。
朝礼。
ざわつく教室。
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すべてが昨日と同じ顔をしている。
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広岡悟は机に座る。
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だが、違う。
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昨日までの“安心感”がない。
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(昨日、何かを逃した)
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その感覚だけが残っている。
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休み時間。
竹中清が後ろの席から声をかける。
「なあ悟」
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「昨日さ」
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一瞬、広岡の体が固まる。
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(来る)
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竹中は少しだけ言いにくそうに続ける。
「なんか俺、変なこと言ったかな」
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広岡は息を止める。
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(タバコのことか?)
(それとも全部か?)
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だが広岡が何か言う前に、竹中は笑う。
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「いや、別にいいんだけどさ」
「なんか最近さ、こういうのダサい気がしてきて」
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その言葉に、広岡は違和感を覚える。
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(昨日の“やめとけ”)
(あれは偶然じゃない)
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竹中は窓の外を見る。
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「俺さ、ちょっとだけ思ってんだよな」
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「このままじゃ、なんも変わらねえなって」
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広岡の胸がわずかに動く。
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(始まってる)
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未来の記憶が頭をよぎる。
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竹中はこのままなら“抜けていく側”だ。
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格闘技を始める。
地元を出る。
変わる。
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そして自分は。
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(残る側)
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そのとき、廊下から声。
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阪田健吾。
「おい悟、今日もゲーセン行くぞ」
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いつもの誘い。
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いつもの流れ。
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だが、今日は違って見える。
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“固定される道”に見える。
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竹中が小さく言う。
「俺、ちょっと今日はやめとくわ」
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空気が止まる。
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阪田が笑う。
「は?珍しいな」
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竹中は肩をすくめる。
「ちょっと考えたいことあんだよ」
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その言葉で、広岡は気づく。
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(分岐が動いてる)
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ほんの小さなズレ。
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だがそれは確実に未来を変える。
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その夜。
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広岡は一人で帰る。
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竹中はいない。
阪田もいない。
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いつもの“セット”が崩れた帰り道。
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静かすぎる道を歩きながら、広岡は考える。
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(俺だけが残るのか?)
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(それとも俺が遅れているのか?)
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そのとき。
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街灯の下に“影”が立っている。
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スーツの男。
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まただ。
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広岡は足を止める。
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男は何も言わない。
ただ見ている。
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そして一言だけ。
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「分岐が始まりましたね」
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広岡の背中に冷たいものが走る。
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「……何がだよ」
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男は答えない。
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ただ静かに消える。
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夜だけが残る。
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広岡は理解する。
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これは偶然ではない。
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誰かが、人生を“見ている”。
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(続く)




