第1話「戻った日」
目を開けた瞬間、まず感じたのは“軽さ”だった。
体が軽い。
呼吸が軽い。
視界まで軽い。
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広岡悟はゆっくりと起き上がる。
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そこは、見覚えのある部屋だった。
だが、記憶より少しだけ古い。
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カーテンの色。
机の傷。
壁のポスター。
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全部が“あの頃”だ。
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(本当に……戻ったのか)
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手を見る。
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若い。
まだ太っていない。
まだ“何者にもなっていない手”。
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ドアが開く。
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「悟!遅刻するぞ!」
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竹中清の声。
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その瞬間、広岡の胸が強く揺れる。
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(いる)
(本当にいる)
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部屋の外に出ると、朝の光が眩しい。
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学校へ向かう道。
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同じ仲間たちが待っている。
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阪田健吾。
平星健次郎。
いつもの面子。
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彼らは笑っている。
まだ壊れていない笑い方だった。
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「おい悟、今日どうする?」
「部活サボるか?」
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軽いノリ。
軽い世界。
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広岡は一歩遅れて歩く。
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(ここからだ)
(ここで全部変わる)
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しかし同時に、別の感情もある。
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(変えたらどうなる?)
(俺はどこに行く?)
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未来の記憶が頭の中で重くなる。
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・地元に沈む自分
・出世できない自分
・病院の天井
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その全てを知っているのに、
今ここでは誰も知らない。
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竹中が振り返る。
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「悟、行くぞ」
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その一言で、世界が少しだけ動く。
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広岡は気づく。
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これは“やり直し”ではない。
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同じ人生を、違う角度から歩くことだ。
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そして、その瞬間。
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遠くで誰かに見られている気配がする。
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あのバーの男。
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またどこかで見ている。
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広岡悟は、ゆっくりと息を吐く。
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そして歩き出す。
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(ここから、変えられるのか)
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(それとも、また同じなのか)
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答えはまだない。
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だが一つだけ確かなことがある。
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この日が、
最初の“本当の分岐点”になる。
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(続く)




