317話 EPO配信!_綺麗なミルちゃん
「で、この後どうする?」
クマエリアをクリア後、ここで挑むか引くかの確認を取る。
「どうするとは?」
「安全性を憂慮して、ここでクリアをして、もう一周する? それともこのまま上位害獣に挑んでマスターを狙うか。私は1抜けしちゃったから、そこは聞いておきたいかなって」
:把握
:ここで終わりたいのはハヤテちゃんなのね
:でもまだマスターしてない3人を慮ってるわけだ
:実際、負けたら最初からだから確定はしておきたいけど
:ハヤテちゃんなら付き合ってくれそうではある
:面倒見のいいお姉さんだよな
:妹なんだよなぁ
「わたくしはどちらでもお付き合いしますが」
「私もそのつもり。お姉ちゃんたちはどうしたいかなって」
私より先に葉ちゃんがフォローした。
クリアが確定している人は余裕である。
:ハンターがある前提なら余裕じゃない?
:剣豪に剣聖も揃ってる
:幻惑効果で城壁のヘイトがすごいことになってるし
:挑まないのは損じゃないか?
:いや、やめといた方がいいな
:どうしてだ?
:今回は紅ちゃんがいない
:あっ
:そうやん
:そっかバッファロー嫌悪薬がないのか
:一人いないだけで結構違うんだな
:まず突進、罠無効、耐久100、武器無効の強敵だぞ
:城壁、水路、栄養剤セット後に即時収穫してもダメか?
:行けなくもないけど、収穫+は単体にしか効果ないんだよ
:そういえばSシャドウでの効果はおかわりに反映しないんだっけか
:剣聖の効果は?
:あれは今のところトキちゃんしか使えない
:みんなここで詰まってるよな
:武器無効なのにラストアタックして、さらに解体しなきゃだから
:ハンター所持者、今どれくらいいる?
:取得者は出てるけど、大体後半ステージの人
:まじで始めたばかりの新規が後追いしてできる者じゃないからね
:リノちゃんの紛れ当たりがどれほど確率低いのかい、今になって判明したよな
:あれを弓でやったからな
:弓なの草
:弓で解体をした剛の物だぞ
:さすが脳筋ファイターだぜ
それは思ってても口にしちゃダメなやつだよ。
リノちゃんはああ見えて繊細だからね。
「あたしはマスターまでやりたいかな?」
「私もだよ」
お姉ちゃんとリノちゃんはやる気だ。
「あたしもついでにマスターさせてねー」
「そうだね、ミルちゃんは私たちがマスターしたらお別れになっちゃうし」
「ねぇ、あたしの武器レベル上昇に付き合ってくれるって可能性は?」
「ないよ」
「なんでだよーーーー! いいじゃん、すぐレベルアップするし!」
「ただでさえこのステージの足止め率は高いし、ディノちゃんが手伝ってくれるんだからいいでしょ」
「ディノちゃんて誰だよー。初対面の子をさも知り合いみたいに紹介しないで! いくらあたしが人見知りしないからって、誰でも彼でもは対応できないからね?」
「あら、覚えておりませんの?」
おっと、ここにきてミルちゃんの様子がおかしい。
何があった?
先ほどまでミルちゃんだと思って対応していたことが、ここにきて裏目になっている。
「どういうこと?」
「意味がわかりませんわ」
私も葉ちゃんも困惑。
それは当の本人もだろう。
:そういえば、顔合わせしてなかったか
:ハヤテちゃんにしてはうっかりだな
:葉ちゃんの気遣いもそこには回らなかったかー
:あまりに長いこと一緒にいるからとっくに紹介してるつもりだった?
:ありそう
それはない。
だって本当に同時に私と葉ちゃんの認識から外れているのだ。
まるで憑き物が落ちたみたいな、いや……まさか。
そんなことがあり得るのか?
そういえばナイアルラトテップの気配もない。
あの人たち、しーちゃんを私たちに押し付けたタイミングでログアウトしたのか?
すごいありそう。
それからはずっと本来のミルちゃんだった?
そう思うと、私が知ってるミルちゃんに、どのタイミングから介入してきたか知らないや。
私をハヤっちと呼ぶあたり、最初に紹介された時のミルちゃんなのは確実。
でも、今の今までは私の知ってる前世のあの人だった。
なので念のため確認をする。
「ミルちゃん」
「何かな?」
「私たちが出会って配信する件ってどこまで覚えてる?」
「えっと、確か紅葉ちゃんに勧誘されて……うっ頭が!」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました」
「その殊勝な態度も何かの前振りだったり?」
「綺麗さっぱり心を洗い直しましたわ。あの時のわたくしは焦っておりましたから。使えるコネは全て使って、終焉を迎えるEPOに華々しいトリを飾ろうとしていましたの」
「そっか」
そこは知ってるんだ。
でも、途中から記憶が怪しくなってきている。
葉ちゃんの話に過剰に反応してはいるが、その前葉は覚えてないという。
「そういえばあたし、なんでこのゲームにログインしてるんだろ」
「え、自分の意思でログインしてないの?」
「わかんないんだよね。本当に記憶が曖昧で」
「ゲームのやり過ぎで記憶が混濁してるとか?」
「だとしたらやばいよ」
「ミルっち、もう休んだら?」
お姉ちゃんはいつになく心配をしている。
今の今まで接していた相手が突然体調不良を訴えたら仕方がない。
私だって心配だ。
ナイアルラトテップと、中の人の消失が何を意味するのか。
あまり深くは考えたくはない。
いい意味での消失なら、なんの憂いもないのだけど。
それが嵐の前の前触れだったら手の内ようがない。
なにせしーちゃんを連れてきた前例がある。
「配信、無理に参加しなくてもいいよ。さっきは進行の遅延を揶揄したけど、いつでも付き合うし。ただその場合は配信外でになっちゃうけど」
「ハヤっちは優しいね。でも大丈夫。少し休んだら落ち着いてきた」
「上位害獣はやれそう?」
「せっかくしーちゃんが手伝ってくれるっていうのに、あたしだけ休んでられないでしょ。それに、みんなで一緒にバカをやる機会なんて学生のうちしかできないんだから」
それはそう。
でも体調悪い子に無理をさせるというのもまた違う。
「じゃあ、安全確認しながらね。私たちもサポートするし」
「じゃあ剣豪貸して」
「それはまた話が別かな」
「なんでだよーーーー」
:いつものミルモちゃんで安心した
:今までの演技だった? ってくらいいつも通りで草
:まさかの同情を誘ってからの譲歩である
:さすが商人の第一発見者
だから本当に、急に突然記憶を無くされたら困るというタイミングでそれは現れる。
「商人て何?」
みんなが騒然とする。
まるで私たちの思い出が突然抜け落ちたみたいに、話し始めるミルちゃん。
:え?
:お前が発見したジョブだぞ
:あれ、そこも記憶がない?
「あ、そうだっけ。うん、なんかそんな気がする。ごめんねー、所々記憶がなくて。あとでアーカイブ読み直して勉強するから優しく教えて」
:なんかミルモちゃんらしくないな
:そうそう、いつもならもっと不遜な態度なのに
「えー、みんなして酷いー。あたしだってなんでもできるわけじゃないんだからね。プンスコ」
:怒り方が可愛いな
:あれ、今までのミルちゃんじゃない?
:二重人格かな?
:邪悪さが抜けたよな
「ハヤテ、今のミルっちの症状に何か心当たりある?」
お姉ちゃんが私の表情を見つめて尋ねてきた。
「ない、とは言い切れないな。私、一度AWOに閉じ込められたことがあるんだ。その時ね、私の他の違う誰かが私の体を動かしていた感覚があって。その時の記憶、私は持ってないんだよね」
「夢遊病的な?」
「わからないけど、もしも同じ状況だったら、原因はAWOにあるのかなって」
:ハヤテちゃん、そんな状況に陥ってたんだ?
:全然知らなかった
「そういえば、あたしもログアウトできない状況に陥ったことがあるんだよね」
お姉ちゃんも告白する。
WBOにログインした後のことだろう。
私がログアウトした後、取り残されたお姉ちゃん。
:え、トキちゃんも?
:AWO、やっぱりやべーゲームじゃねーか
:でも、みんな楽しそうに遊んでるんだよな
「それでしたらわたくしも覚えがありますわ」
:葉ちゃんもかよ
:これはリノちゃんも……
「私はないんだよねー」
:なかった
:リノちゃんだけ仲間外れなのか
「私も夢遊病になった方がいいのかな? ハヤちゃん、どう思う?」
「リノちゃんはそのままでいて。多分これ、幻想装備関連のイベントだと思うんだよ。一番過剰に使用した人に起こる的なイベント」
侵食度あげ過ぎによるバグかなんかだと思うけど。
だからAWOの魔導書関連は過度に通いたくなかったというか。
くるべくしてきたみたいな。
遅かれ早かれ遭遇するみたいな怪異が向こうからやってきたみたいなものだ。
:過剰利用……
:真っ先に思い浮かぶのはハヤテちゃんだよな
:焼肉のたれ実装は記憶に新しい
:『ここでブレンダーを取り出します』
:取り出します、じゃねーんだよ
:素材も機材も神秘で取り寄せ放題だもんな
:全力で使い倒してたから、バチが当たったんだろ
:まるで物怖じせず、当然の権利みたいに使ってたけど
:やっぱりデメリットあるんじゃねーか
:そんな上手い話なんてないと思ったら
:100%怪異に見舞われてるじゃねーか
:に、してはまるで何事もなかったかのように振る舞える胆力
:トキちゃん、そんなに使ってるか?
:リノちゃん、あまり使ってないの?
:葉ちゃんは?
「わたくしはその日の気分に合わせてドレスの柄を変えておりますわ。特に配信がない日も頻繁に」
:犯人は見つかったな
:自業自得じゃねーか
:これで被害者ヅラできる面の皮の厚さよ
:でもミルモちゃんが被害にあってる理由は?
:配信にあまり参加してないよな?
「いや、どうも夢遊病中にナイアルラトテップに接触してたっぽいよ。だからしーちゃんを連れてきたし、しれっと私たちの魔導書に間借りしてる」
:間借り?
:一体誰が間借りしてるっていうんだ
「えっと、これ言っていいのかな? 私たちの魔導書にナイアルラトテップの召喚と、アザトースの召喚が勝手に書き込まれてました。なお、送還方法はありません。召喚したが最後、おしまいです」
:おいwww
:勝手に魔導書に住みつかれたのか!
:一方通行のパス渡して帰ったんか!
:なお、召喚したら世界の終わりです
:短い青春だった
:そういえばハヤテちゃん達の魔導書って?
「ネクロノミコンて呼ばれてるやつですね。レイちゃんが幻影で、あとなんかイグニス様も召喚できます」
:WBOほったらかして魔導書に住み込んでるんかwww
:イグニス様、カムバーック!
「|◉〻◉)ノちくわ大明神様も書き込んでおきました。これでいつでもちくわが召喚できますよ」
「有能」
「|⌒〻⌒)わぁい」
レイちゃんに促されて魔導書を見たら、意外な名前が記されていた。
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魔導書『ネクロノミコン』
幻影:レイ
所有者:正気度分散人数(7/10)
ハヤテ、トキ、リノ、ミルモ、モミジ、ディノR2、アキル
侵食度 102
正気度 100
頁数 2
<召喚神格>
◇ティンダロス 召喚・送還:親密度5
◇アトラクナクア 召喚・送還:親密度5
◇女神イグニス 召喚・送還:親密度5
◇バグ=シャース 召喚・送還:親密度3
◇アザトース 召喚 :親密度1
◇ナイアルラトテップ 召喚 :親密度1
◇ちくわ大明神(クトゥルフ) :親密度MAX
<権能>
◇幻想装備
◇正気度ロール確定的成功
◇恐怖耐性
◇擬人化(恐怖耐性を成功した対象を女の子化)
◇EPO称号ジョブ持ち込み
◇ゲート(神格を別ゲーム内へ誘致)
◇ちくわ召喚
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◇バグ=シャース 召喚・送還 :親密度3
満腹状態の時に限り、攻撃を一回行う。
満腹度25%消費【威嚇】周囲に恐慌状態を散布。
満腹度50%消費【透明化】味方を敵から見えなくする。
満腹度75%消費【大喰らい】周囲一帯を食べ散らかす。
攻撃後、送還される。
召喚時の満腹度は送還時の満腹度を引き継ぐ。
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クトゥルフさーーん、あなた寝てたんじゃなかったの!?
バイト?
アルバイト感覚で別の神様名乗ってんの?
しかも親密度マックスだし!
ちゃっかり侵食度上がってるし!
頭がおかしくなりそうだ。
それはそれとして害獣討伐は続行。
とりあえずこの鬱憤をバッファローに叩きつけることで憂さ晴らしをしようと思うなどした。




