313話 EPO配信!_今日から家族
「ししし! しししし!」
問題児ことしーちゃんは未だ満足ができないと『害獣討伐』受付周辺の景色をガン見している。
そこではプレイヤーによって持ち込まれた害獣の『枝肉』を、私が卸した『焼肉のタレ』で加工されている景色が見えていた。
誰が見たってお腹が空く光景である。
先にご飯食べさせた方がいいのかなー?
でもこの子がバグ=シャースだと言うのなら、食欲は無尽蔵な気がするし。
「で、実際のところどうする? 私と葉ちゃんで収穫するのはいいんだよ。問題は私と葉ちゃんを抜いたメンツで討伐が可能かって話なんだけど」
「ふふふ、舐めないでもらいたいね、ハヤテ。あたしの『剣聖』を信じなさい」
「そうそう、威力を上げなきゃ『剣豪』でも当たるよ」
「そうそう、泥舟に乗った気持ちでいなさい」
:泥舟はあかんやろ
:ミルモちゃんはなんでこんな自信満々なの?
:前からやで
:2日見ない間に成長とかはしてないか
:ハヤテちゃん達の急成長と比べてやるな
:諸共沈むつもりでは?
:自爆覚悟かー
:味方を巻き込むな
一人だけ不安になる人物はいるけど、イノシシまでは余裕かな?
ミルちゃんが足を引っ張らなければ余裕。
でもまずは対話を試みる。
『し』しか喋れない女の子に、無駄だと言い切ればそこで話は終わっちゃうからね。
ただ口に入れればいいだけの状態から、味を覚えさせその上でより美味しいを求めるようになれば、収穫物を生で齧ることはしなくなる! と思いたい。
「しーちゃん、実はそれもっと美味しくできるんだけど興味ない?」
「しし?」
「お料理をするとね、量が二倍にも三倍にもなったりするんだ。もっとお腹いっぱい食べられるようになるよ。でも、そのまま食べたら今の空腹はずっと続くと思うな。少しだけ我慢する?」
「ししーしー?」
本当にー? みたいなニュアンスだろうか。
「別にいいよ。しーちゃんが収穫物以外いらないって言うんなら。お料理したのはしーちゃんにあげないで私たちで食べるね」
「しーしーしー」
ちょっと悲しそうな声色だ。
これは仲間はずれにしないで、かな?
そういえばバグ=シャースって仲間で群れてるとか聞かないな。
上位存在でもなんでもない一般モブだから、倒せばリポップするかもだけど。
もしかして仲間がいないからずっと一人で行動してきたのかな?
そう思えば独り占めするのは他者から自分のご飯を守るためでもあるのか。
うまいこと仲間意識をすり込めないかな?
「色々考えながら進もう。と言うことで葉ちゃん、農家セットして」
「とっくに準備万端でしてよ」
「ゴーゴー」
「ハヤちゃんに頼らなくても倒せるからね」
「見てなよ、あたしの実力を」
さっきなんの活躍もしてないミルちゃんのこの自信よ。
まぁ気を取り直して再びキツネエリアに向かう。
「ではハヤテさん、早速取り掛かりますわよ」
「しーちゃんはみんなと遊んでてねー?」
「しー?」
「今からこの食べ物を増やすの。10個よりいっぱい食べたいでしょ?」
「しー!」
やはり食べるのが好きな子はこの説得が一番効く。
量が増えると言われたら喜んで見せるのだ。
「神秘使用『味噌』」
:おもむろに取り出された味噌
:まさか焼肉のたれが追加されるー?
:だったらいいね
:昨日から枝肉持ち込みすぎてタレが尽きそうだもんな
:恐ろしい消費量でな
:しかもうまいんだよ、串肉が
:焼き手がどんどん成長するのよ
:タレが尽きた時の阿鼻叫喚が目に浮かぶようだ
:ハヤテちゃん、タレの追加頼むよ頼むよー
歴史書を開き、同時に魔導書と幻想装備のトリプル使用。
手元に取り出したのはWBOでマスターしたばかりのミソである。
というか、思ったよりも消費スピードが速いようだ。
もっと計画的に使ってって言ったのに。
それともなくなればまた集ればいいとか考えてるかな?
「あ、これはしーちゃんの分なので、皆さんの分はありません」
「なんの話?」
「ハヤテがこの時代に焼肉のタレを実装して、みんなその味の虜になってるんだよね」
「何してんの、ハヤっちー! さっきからやたら鼻腔をくすぐる匂いがすると思ったら、その匂いだったか! 悔しい! でもお腹すいちゃう! あとでご馳走してね!」
最初はバカにしてたと思ったら、知らぬ間に奢る前提で話が進んでいる。
「罠術マスターしたらね」
「よーし頑張るぞ! 俄然やる気出てきたー」
ミルちゃんはいっぱいお腹をすかせるぞーと変な気合いの入れ方をした。現金なんだから。
「そちらは?」
「生よりもっと美味しい食べ方を教えてあげるの。生だと味気なくさせるのが狙い。お料理して! ってせがんできたら儲け物」
「調理師的な考えですのね」
「そうそう。どうせなら美味しく食べてもらいたいからね」
「お味噌だけで美味しくなると?」
「葉ちゃんはもっと味噌の可能性を信じなよ。葉野菜ならチョンとつけてそのまま生でもいけるよ。お野菜とお肉と一緒に炒めても美味しい」
「考えがあるのでしたらいいですわ」
「うまくいくように祈っててよ」
全てはダメ元である。
「しーちゃん、これ食べるー?」
「しー?」
何か知らないものついてる、味噌を見ながら頭を捻った。
匂いを嗅ぎ、よくわからないが口に含む。
葉野菜を何もつけないまま食べさせたあと、味噌につけたやつを交互に揚げていくと、次第に何もついていないものじゃ物足りなくなったようだ。
「し!」
「お、しーちゃんはお味噌が好きかぁ。次増やすまで待ってくれたらもっとつけるけど、どうする? このまま食べる?」
「しー」
いつもより元気のない答え。
迷いが見えた。
今までだったら食べ物と見るなり食いついていたが、今や味付きと味なしで迷うようになっている。
味噌の効果はそれなりにあったようだ。
「さて、しーちゃんは味噌付きの収穫物にしか興味を示さなくなった。隙を見て収穫物を上げるけど、その分収穫を増やす感じで」
「どの程度増やす形ですの?」
「全部倍にして、なんなら余りを全部あげる感じで」
「序盤は収穫物の数も少ないですが、エリアの最後の方になれば収穫物も増えます」
「時間稼ぎしながらなんとかするしかないよ」
「それもそうですわね」
キツネエリア再スタート。
「オラオラー!」
勢いよく、ミルちゃんがトラバサミをばら撒く。
キツネはそれを見てから回避余裕でしたと避けている。
何をやっているんだか。
前の戦いで何も学んでないよね。
「ミルちゃん、うるさい!」
「リノっち、ミルっちのことはもうほっとこう」
「そうだね。ハヤちゃんの分まで頑張らなきゃなのに」
早速ハブられるミルちゃん。
やはり人徳がね。
信用を損なう動きばかりするからだよ。
「収穫の方済みましたわ」
「何個余った?」
「6個ですわね」
「10個食べてた子が6個で満足すると思う?」
「無理ですわね」
「この収穫物、農家のジョブでもう一回植えて収穫することってできない?」
「やってみますか?」
「ダメ元、ダメ元」
収穫と同じタイミングで収穫物を失っているので、まだクリアのアナウンスがない。
むしろ何もないところで収穫物が減っているのもあって、システムがクリアを見極められないのかもしれない。
まぁ、狐がお姉ちゃん達を超えてもありつける収穫物はないんだけどね。
しーちゃんとか言う絶対的ライバルがいるので、そこは頑張ってほしい。
「よっし! キツネ解体成功!」
「解体? トキっち、いつの間に?」
「ミルっちがお休みしてる時にだね」
「あたしだけすごい置いてかれてるじゃーん」
「配信休むからだよ」
「お姉ちゃんナイス! 収穫物の足りない分はそのお肉で賄おう」
「じゃあ、パス?」
「フリマでもらうよ」
一時的にジョブを商人にセット。
お姉ちゃんからもらったキツネ肉の枝肉をもらい、幻想装備で調理台を召喚。
フライパンに獣脂を引いて、薄く切りつけたキツネ肉の皮面を焼く。
キツネエリアにジュワッといい香りが漂う。
軽く火を入れたら、肉をどかして野菜を炒める。
味付けは生姜と味噌。
そこに先ほど休ませたお肉を乗せて、強火で一気に炒めた。
「しーちゃん、ご飯できたよ!」
「しししし!」
涎垂らしてダッシュでかけてきた。
可愛い。
「そんな熱々なの、手づかみで食べさせるおつもり?」
「あ、そうか。お箸の使い方もわからないもんね」
「しー?」
まだ食べさせてもらえないのか? と言う口調。
ならば私のアレンジ力で対応する。
「パッキング」
「し!」
「何をしていますの?」
「しーちゃんの手をパッキングしたんだ。これで手づかみすれば手も汚れないし、熱くないかなって」
「いきなり何をするのかと思えば。まぁ実際に食べて貰えばいいでしょう。さぁしーさん、召し上がってください」
「し! しー!」
「結構勢いよく食べるね」
「あなたの味付けが好みなんでしょうね」
「し!」
しーちゃんは食事中ずっと笑顔だった。
:ハヤテちゃん、お母さんみたいやな
:ママ力高いよな
:最初は問題児にしか見えなかったが
:普通にあやして手懐けたな
:ガッツリ胃袋掴んでるのよ
:見慣れた風景
:いつもの
:ハヤテちゃんなんでもできるよなー
「しー」
「お腹いっぱいになったのかしら?」
「かもね、寝ちゃった」
「ハヤテ! レベル上がった!」
「おめでとー、お姉ちゃん」
お姉ちゃんはレベルが低いのもあって、レベルが上がりやすい。
「ふはははは! あたしの時代が来た!」
「はいはい」
特にレベルは上がらなかったが、ミルモちゃんが何か喜んでるのでいいか。
「あら、エリアクリアしたようですわね」
「しーちゃんが寝てる間に進めちゃう?」
「ですわね」
しーちゃんを起こさないように、順に抱っこしながらエリアを進む。
私の知らないところで、バグ=シャースの親密度が1上がってた。




