307話 夜ゲーム部_5【WBO】
「葉ちゃん、こっちこっち」
「そんな急かさなくても今行きますわ」
WBOで葉ちゃんと合流しつつ、私たちはポータルに向かう前にストーリーサーバーの調理師ギルドに赴いた。
「いきなり向かわないんですのね」
「ポータルを使う前にお料理したかったんだよー。ほら、私ってリアルで食事できないし」
生体アンドロイドの食事はドリンクしか受け付けないからね。
食べられるけど味を知覚はできない。
いもなければ味覚も持ち合わせていないからだ。
専用ドリンクは味という情報を脳内に直接刻み込むことでそれっぽい食事体験を提供してくれるが、一緒に食卓を囲んで食事をするのは現状難しい。
Android技術の研究が進み次第実装されるという話だが、それは一体いつになるやら。
「それはわたくしもですわ。姉様とご一緒に食事をできるのはゲームの中だけ。ですがそれ以前はご一緒することも……」
葉ちゃんが表情を暗くする。
「はいはい、暗い感情はどっかに追い払って。今そういう話してないから。で、私は調理意欲をひどく掻き立てられてるわけだよ。わかる?」
「それはAWOでおっしゃっていたイグニス様の権能に関わりがあると?」
「流石サブマス。言ってないことを読み取るのはお得意だ」
「昔の話を持ち上げないでください」
過去の記憶を持ち合わせている同士、やはり気を許せる関係だ。
「あれ、ハヤテちゃん?」
「え、リョウ君? どうしてここに」
ストーリーサーバーは多くのプレイヤーが行き交うところだ。
偶然出会うこともままある。
「あら、偶然ですわね」
「モミジさんまで。他のみんなは?」
「今回はわたくし達だけですわ。配信はこの時間行なっていませんの」
「あ、そうなんだ」
そういえばリョウ君はモミジちゃんと顔合わせしていたんだっけ。今はもう介入することができない、魂魄隔離街・ドリームシェアの話である。
「おい、リョウ。急にかけだしてどうした」
「あ、ごめん」
リョウ君の後から活発そうな男の子が現れる。
金髪をツンツンにさせたハンマーを担いだ男の子だ。
「そちらは?」
「あ、彼は……」
リョウ君は口ごもる。
こちらに紹介しづらい関係性かな?
見てればお調子者というのはわからなくないけど。
「自己紹介なら自分がする。俺はランディ! こう見えて生産系だ!」
「名前はあれだけどちゃんと日本人だよ。同じ学園の同級生なんだ」
「こら、カッコつけてるのにバラすな」
「あはは、面白い人だねー」
「昔馴染みを思い出します」
葉ちゃんからしたらかつての奥さんを思い出すか。
あの人も大概ファンキーだったからね。
「そう、良かったよ。ハヤテちゃんはこっちにもログインしてたんだね。AWOは?」
「もちろん継続中。今配信者やっててさ。ずっとそっちばっかりってわけにもいかなくて」
AWO以外にもWBO、EPOで遊んでいると伝えた。
「へぇ、あっちで全然みなかったわけだ」
「リョウ君はAWOもうやめちゃったの?」
「やめてないよ。WBOはこいつに誘われて、それでチュートリアルを終えたこと」
白けた視線を送りつつ、指をさす。
それだけで関係性が透けて見えるな。
要は無理やり付き合わされているだけと。
「俺はこいつの攻撃力を当てにしてるからな!」
「僕、タンクなんだけど……」
威勢のいい生産職とタンクの組み合わせ。
なんだか親近感を感じるね。
私も生産系で、葉ちゃんはタンクだし。
威勢の良さは逆転してるけどね。
「とはいえ、ここで会ったのもなんかの縁だし。一緒に行動しない?」
私はリョウ君達に呼びかける。
彼は驚いたような、どこか恐れ多いような表情をした後、おずおずと尋ねてくる。
それはまるで確認するような態度だった。
「え、いいの? 女の子同士で積もる話もあるんじゃ?」
「ないない。暇を持て余してるだけだよ。お姉ちゃん達は他の用事があるとかでさ。それにこの時間は寝ちゃう子も多いし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「おい、リョウ! お前俺との約束はどうした!」
「お前に付き合ってると気苦労ばかり増えてくんだよ」
まるでリノちゃんがお姉ちゃん位感じる苦労と同じだね。
その表情がここで関係性を切ってしまいたいと物語っている。
「何をー?」
「騒がしいお方ですわね」
「おい、そっちのお嬢様! 俺に文句があるなら直接言え!」
「あら、聞こえていました? ならば率直に申してあげますわ。あなた。他責思考がすぎるんじゃありません? 誰かに頼っておきながら、自分を優先しろとはあまりにもマナーがなっておりませんわ」
あーあー、葉ちゃんの悪い癖が出ちゃってるよ。
「よーし、言ったな! 俺が口だけではないことを見せてやる。ちょっと付き合え!」
「いいですわよ。その不甲斐なさを見届けてあげます。せいぜい吠え面をかかないことね」
ランディ君は葉ちゃんを連れて先に行ってしまった。
「なんか大変なことになっちゃったね」
「まぁ、なんだかんだ馬が合うみたいだし、ほっとけば?」
私の発言に、リョウ君は驚いた。
「ハヤテちゃんはモミジちゃんが心配じゃないの?」
「うーん、あの人が誰かに言い負けてるのみたことないんだよね。それに今の彼女ってそれなりに強いし」
ディノちゃんに渡された武器。
耐久次第だけど、ここら辺のモンスターに負けるような防御力じゃないだろう。
それに幻想武器もある。
腕と体の二種類。
あれでいつでもモードチェンジができるのでそれほど心配していない。
元々あの人守るより攻める方が好きだからね。
それはタンクとしてどうなのって思うけど。
「じゃあ、僕は何をすればいいかな?」
「そうだね。じゃあ味見をお願いします」
「味見?」
「これから調理師ギルドでお料理作ろうと思ってたの。それに付き合ってくれる?」
「そんなことならお安い御用さ。実は戦いに明け暮れすぎてエネルギーがカツカツで渡りに船だったりするんだ」
「あはは、正直な人は好きだよ」
リョウ君は頬を赤くしている。
好きってそういう意味じゃないよ?
まぁ思春期ってそういうものか。
「では召し上がれ。お口に合えばいいけど」
「すごく美味しそう。これはカツ丼? どうして僕が好きだって?」
自分が学生の頃に好きだったものをチョイスしたらビンゴだった。男の子ってこういうの好きだよね。
丼ものだしとけば間違いない。
「男の子は脂っこいものが好きだって聞いてね。ソースかデミグラスソースかお好みがあれば出せるよ」
「まずはソースで」
「どうぞー」
「わ、ソースも自家製なんだ?」
「こっちの世界ではリアルのソースを再現できないからね。調味料の類はオリジナルになりがちなんだ。果物を多く入れてフルーティにしてあるよ」
「あ、美味しい。カツにまたあう」
「良かったー」
その後デミグラスソース版も味見してもらい、移動。
「女神様、初めてカツ丼なるものを作ってみました。もしよければ味見をお願いします。それとこれから旅立ちますので、無事目的地にたどり着けますよう、お見守りください」
ポータル移動をする際にもお祈りは忘れない。
丼ものは色々作ったけど、小麦畑の街で入手したパン粉を使ったカツはそう言えば作ってなかったなと思い出したので作った。
マスターするまで作ったので余ったものをお供えしている。
私はお腹いっぱいだからね。
「ハヤテちゃんはポータル移動する際もお祈りするんだね」
「祈るだけならタダだからね」
「面白い考え方だね。無駄だって割り切るんじゃなく、やるだけやって何もなくても誰かを責めたりせず、そういうものだって当たり前に行動する。強い人だ」
「どうなんだろ? これが私だしね。それに、女神様はいるよ」
女神像はぼんやりと淡い光を放ち、お供えされたものは即座に光の粒子を放って消えた。
「あれだけあったカツ丼が!」
「女神様は無事受け取ってくれたみたい。あの人私のお料理のファンでね。毎回律儀に完食してくれるから都合いいんだ」
「都合がいいって」
「でも、味の評価は教えてくれないから、リョウ君がいてくれて助かったよ。やっぱりお料理は人の感想を聞いてなんぼだからね。じゃあ行こっか」
「行くってどこへ? 僕は見ての通りチュートリアルを越えたばかりで行ったことのある街といえば草原の町か森林野営地、または炭鉱の町くらいでね」
「あー」
そうか、普通はそこまでなんだ。
私たちの進行ルートっておかしかったんだなぁ。
お姉ちゃん達のレベルが高かったとはいえ、そこまで差ができてたか。
「それでハヤテちゃんの目的地は?」
「山越の街」
「推奨レベル35の、あの?」
それなりにレベルを上げたタンクであるリョウ君が瞠目する。
そんなにビビらなくてもいいじゃないの。
「あそこそんなにレベル高い場所だったんだ?」
「全くそんな自覚なかったみたいな反応、もしかして高レベル者に引っ張ってもらっていったのかな?」
「うん、多分ね」
私は口ごもる。
レイちゃんやアトラちゃんのトリッキーさが今では大きな手助けだったとは言えないしなぁ。
「リョウ!」
と、そこへ。
ランディ君と葉ちゃんがいがみ合いながら戻ってきた。
結局この二人はずっと啀み合いっぱなしだ。
とても馬が合うらしい。
阿吽の呼吸かな?
「あ、ランディ。どこいってたんだよ」
「悪い、ちょっと白黒つけるのに白熱してな。で、お前の盾の耐久が低くなってることを思い出してさ。お前は俺の護衛だろ?」
変なところで律儀だなって思った。
「誰が護衛だ、誰が。しかしちょうど良かった。僕たちこれから山越の街に向かう途中でね。お前の力が必要になった、ランディ」
「なんだ、武器の新調か? それとも耐久回復アイテムの量産か?」
「ランディ君て鍛治師なんだ?」
「おうよ。俺は世界一の鍛治職人になることを夢見てっからな!」
威勢よく答える。
「それはおやめなさいと何度も言ったのですが」
あー、葉ちゃんはディノちゃんを知ってるからね。
あの異常性を見たあとに駆け出し鍛治師をみたら可哀想に思っちゃうのは仕方ないことだ。
だが、夢見るだけなら自由だ。
それを諦めるかどうかを他人が決めることじゃない。
「それは素晴らしい夢だね」
「だろ? そっちのお嬢様は話がわかるじゃねぇか。こっちのお嬢様は頭から否定してマジでだるいんだ。俺の上がいるからなんだ? 挑むことに意味があるかどうかは俺が決めることだろ。他人がしゃしゃってきていいことじゃない。違うか?」
「違わないね。私も駆け出しの身だからわかるよ。今自分より上の人がいたって、私はその人と関係ない。自分は自分のやり方でトップを狙う。そうだよね?」
「そうだ」
私はランディ君と固い握手を交わした。
生産職の悩みなんて大概そこだからね。
本質は挑むことに意味がある。
私も根っこが同じだからこそ意気投合できた。
「なんだかんだ、生産職の方達は馬が合うみたいですわね」
「本当にね。あいつがあんなふうに誰かを尊敬してる場面なんてなかなかみないから」
「普段から誰彼構わず噛みついてそうですわね」
「わかる?」
「ハヤテさんも似たようなものですわ」
「あー、ハヤテちゃんはそっちの人なのか……」
リョウ君の失望はかなり大きい。
幻滅しちゃったかな?
「ご苦労することでしょうが、応援してますわ」
「なんのことかな?」
「嘘が下手くそなお方……苦労が計り知れませんわね。折れないことを慮るばかりですわ」
「ご忠告、どうも」
なんにせよ、旅の仲間は多い方がいい。
葉ちゃんだけでも役に立つけど、耐久が死んだら元も子もないし、鍛治職人がいてくれるだけで防具の耐久を心配しなくていいから安心だ。
「ついでに食材取っていこっか」
「お、お嬢さんは調理人か? 俺は味にうるさいぜー?」
「リョウ君は美味しいって言ってくれたよ」
「おい、リョウ! お前一人だけ飯食ってたのか? ずるいぞ」
「どこかの誰かさんが勝手に先に行っちゃったんじゃないか」
「心配しなくても、途中の街で食べさせてあげるよ。料理ルくるのは苦じゃないし。でも寝るまでの時間が差し迫ってるから、出発するならしちゃわない?」
「絶対だからな。あと俺は非常に食わず嫌いがある」
「威張ることか!」
リョウ君がノリノリでツッコミを入れる。
なんだかんだこの二人も馬が合うんだろうなぁ。
「それはそれで考慮するよ」
「言質取ったからな!」
まるで女の子みたいな言い方をするランディ君。
私たちはまずは川沿いの街にポータルジャンプ。
そこから湖の街を経由して山越の街に向かった。




