305話 ピザトースト
「あー、楽しかった」
「今回はイベント含めて先が予測できなかったね」
「全部上手にこなしたハヤテがそれをいうかなー?」
「あはは」
ログアウトしながらお姉ちゃんと駄弁る。
同じ部屋で起き上がるから、どうしてもログアウト直前は騒がしいのだ。
「あー、でも。今回あたしお料理しなかったや」
「解体もお料理のうちだよ?」
「そうかもだけどさ。あたしは自分の手で料理を作ってみんなの笑顔を間近で見たかったんだよ」
お姉ちゃんなりに、消化不良と言わんばかりだ。
AWO、WBOでは他にやりたいことがあるので調理は私に任せてくれるが、EPOはジョブを自由にセットできる都合上、第一発見者として自分でやりたがる傾向にある。
なので私はEPOでだけ調理縛りをしてるのだ。
今回は調味だれで抑えたのはその縛りによるものだったりもする。
「そういう私だって実質調味料しか作ってないよ?」
「え、焼いてたじゃん」
うん、焼いたね。
でもそれは私じゃなくてもできるんだよね。
「あれは焼き方を教えてただけ。私は徹頭徹尾下拵えしかしてないよ」
「じゃあ、今回はお互いに料理してないってこと?」
「そうだね。むしろお肉に塩を揉み込むのを料理と定義してくれるんなら私はいっぱい塩揉みしたけど。あとは討伐隊のみんなが勝手にお姉ちゃんたちが切った肉を葉ちゃんのお手製の串に刺して焼いて、私が作った調味だれに浸して満足してたよ」
「そうだったかなー?」
納得いかないって顔をされながらも洗面所へ。
手洗いとうがい、洗顔を済ませてキッチンに向かった。
「お、帰ってきたな。今日は配信もバッチリチェックしていたぞ」
「そういえばお父さんコメントに顔出してたね」
「お小遣いはどうなりそう?」
「まずは配信データのチェックからだよ。外からどれだけ投資されてるかは見えないからね」
「そうなの?」
初めて聞いた。
そもそも私たちって個人的時に配信したことないからね。
そういうのは知ってる人に丸投げだ。
「じゃあ、これ」
「確かにいただきました」
お父さんはデータメモリを手元の機械に読み込ませて、何やらデータを見ながらうんうん頷いている。
「二人に嬉しい情報だ。ハヤテは+600円。トキは+1000円までなら交渉を受け付けよう」
「やった!」
「+2000円は?」
「難しい金額だな。今回のお小遣いだけ、というなら3000円までアップさせることもできるが、それだと夏休みだけの活動のみならず、学園生活まで蔑ろにしてしまう恐れがある。お父さん、そういう先の見えない交渉はしないんだ。なので毎月アップ方式を取る」
堅実なやり方だね。
お姉ちゃん的には今を優先させがちだけど。
確かに頑張りに応じてお小遣いが変動するパターンは心にくるものがある。
お父さん的にはそういうのは社会人になってからでも遅くないと言いたげだ。
「ハヤテは増やすのにあたしが増えないのはなんでー?」
「金額の差かな」
「お姉ちゃん、私の金額は300円刻み。わかる? あと一回増やしてもお姉ちゃんが今回もらう金額より少ないんだよ?」
「!」
驚愕するお姉ちゃん。
いや、普通にわかるでしょ。
小学生でならう足し算引き算だよ。
「そもそもトキは何が欲しくてその金額を要求したのかな? ハヤテはお父さんに教えてくれたぞ。WBOの調理時間を加速するアイテムだって。トキも教えてくれたら交渉に応じるんだけどな」
「あっ。えっと、それは……」
急にしどろもどろとなる。
わかるよ。お父さんに正直にいえない時点で博打。
ガチャだよね?
何が出てくるかわからないものに突っ込む軍資金が欲しいだなんて口に出せるわけないもんね?
そしてお父さんがそれを許さないのも織り込み済みだ。
「ガチャか?」
「ギクッ」
「着るかどうかもわからない、高額商品に無駄金を費やすのはお父さん関心しないぞ」
「違うよお父さん、セット装備というのがあってね! 見てくれは悪いけど効果は折り紙付きで」
「墓穴を掘ったな、トキ。それは自白してるようなものだぞ」
「ぬぅーーーー」
お姉ちゃんは頭を抱えた。
「でもさ、正直ディノちゃんいればガチャ装備いらなくない?」
配信内の状況を思い浮かべる。
あれだけガチャに夢中だったお姉ちゃんが、そんなそぶりを一切見せずに取り憑かれたように武器の出来栄えに依存していた。
これはガチャを脱することができたのではないか? と喜んでいたのだが、現実世界に戻ってきてすぐこの有様だ。
本当に手広くやってるんだな、リノちゃんのパパ。
プレイヤーの欲しいと思うところの隙間をガチャで上手いこと埋めている。
「違うんだよ、ハヤテ。わかってないな、女の子はキラキラしたものが好きなの。効果が薄くても、それを着たい時もあるの」
「普段は倉庫の肥やしなのに?」
「ギクッ」
「なんならその倉庫に課金するためにもお小遣いアップしてる可能性もありそうだな」
「ギクッギクッ」
出るわ出るわ、ボロの数が。
お父さんと二人して詰めてたら半泣きになった。
「おかあさーん、お父さんとハヤテがいじめるー」
「はいはい。女の子の欲しいものがわからない父親と妹は困るわねー」
「やっぱりお母さんはあたしの味方だ」
「そうよー。だからどんなものが欲しいかお母さんに相談しなさいね。お小遣いの交渉には応じてあげられないけど、お話を聞くことくらいはできるわ」
「えへへ、あのね、あのね」
お母さんはお姉ちゃんを抱き抱えながら、こちらにサムズアップして見せる。
お父さんもそれに応じてサムズアップしかえす。
なるほどね、わざと逃げ場を作って情報を聞き出すわけか。
策士だなと思った。
夕食は焼肉だった。
どうやらお父さんが私たちの配信を見て食べたくなってしまったらしい。
それにはお姉ちゃんが挙手。
自分が焼き担当になると身を乗り出した。
EPOの配信で見たような焼肉のたれに浸して網の上で焼くというだけだが、肉の部位によって焼き加減に差が出てくる。
最初は焦げが多く焦げたものをお父さんの方に多めに、いい感じに焼けたのを自分とお母さんの方に多めに分配した。
お父さんはお姉ちゃんの焼いてくれた焼肉を嬉しそうに頬張り、お母さんに心配されていた。
「あなた、無理して食べなくてもいいのよ?」
「僕は頑丈だからいいんだ。むしろこういうのこそ男の勤めだろ? 母さんやトキには美味しい部位を食べてもらいたいね」
「ということで、焦げたピーマンとにんじんはお父さんに贈呈しまーす」
「ありがとうな、トキ」
「どういたしまして」
最初はお小遣いの交渉に応じてくれなかった嫌がらせのところもあったが、お父さんがあまりにも美味しそうに焦げ肉やこげ野菜を頬張るもんだから少し悪い気がして、焦げてないお肉を差し出す場面もあった。
「トキ、こういうのはお前たちが食べなさい。お父さんのは焦げてて構わないんだぞ?」
「ううん、いつもお仕事頑張ってくれてるから。そのお礼。本当はお小遣いを上げて欲しいけど、それとは別に毎月お小遣いをもらえるのはお父さんがお仕事頑張ってくれるおかげだからね」
「トキ……ははは、そうか。ならもらっておかないとな。母さん、ご飯大盛りで」
「はいはい」
お父さんは目頭を熱くしてご飯をお代わりした。
その姿にお母さんもお姉ちゃんも苦笑する。
少しギスギスした空気は瞬く間に笑顔の花が咲いた。
やはり家族は団欒してこそだよ、家族の仲間入りをしてそこら辺はしみじみ思うようになった。
その様子を眺めながら、私は焼肉味のドリンクを飲む。
すごいなこのドリンク、ちゃんとお肉を噛んでる感覚がある。
生体アンドロイド用ドリンク、侮りがたし。
そんなこんなで食後の歯磨きと入浴、スキンケアをしてから夜のログイン予定を決める。
全員が全員、同じ時間に遊べるわけじゃないので、そこは折を見てって感じだ。
「はい、本日の宿題のチェック完了」
「ぶへー、ちかれた」
お姉ちゃんは机の上に突っ伏した。
ただのチェック作業でそんなに疲れるかな?
「半分朝にやってなかったら大変だったね」
「ハヤテは宿題を一気に纏めてやるタイプ?」
「面倒ごとは先にやっておきたいとは思うけど、やることが多すぎて手が回らない気持ちもわかるよ。本当だったらAWOでミルちゃんの行方を探すとかしてる頃だと思うけど。配信も疎かにできないしね」
お小遣いがかかってるし。
「ミルっち? いつもの気まぐれじゃない? そのうち戻ってくるよ。あの子いつもあんな感じだし」
お姉ちゃんの感覚ではそう。
けど私だけ、謎の焦燥感を感じている。
「AWOで聞いたアザトースっていう神様いるでしょ?」
「リノっちがピザトーストって言ってたやつだ」
「そのピザトーストってね。上から数えた方が早い神様でね。なんなら一番上と言っても差し支えないかな?」
「え?」
さっきまで余裕そうな表情のお姉ちゃんの顔色が一気に崩れる。
「多分それの関係でミルちゃんは取り込まれてる、または操られてると思うの」
「そうなの? 大変じゃん」
「でも正直、そうなるように動いたミルちゃんの自業自得だと思うし。今の状況で突撃してもミイラ取りがミイラになるだけなんだよね」
ドリームランドにいることは判明している。
けど、そこに行くための準備も何もできていない。
行ったところで何もできずに撃沈するのが目に見えているからだ。
それにミルちゃんの暗躍は今に始まったことじゃない。
どうせ情報の秘匿をしまくって墓穴掘ったに違いないし。
「ハヤテ的には時期尚早と思うんだ?」
「お姉ちゃん、難しい言葉知ってるね」
「茶化さないで。ミルっちを取り戻す方法を探しながら配信してるところ?」
「そうだね。ピザトーストが存在する世界はAWOのもう一つの次元にあるドリームランドってところなの」
もう名前を訂正するのもめんどい。
アザトースなんてピザトーストで十分だ。
美味しい分だけピザトーストの方が格上ですらある。
「夢の世界?」
「うん。夢という曖昧な世界に存在する神様で、そこに行くのに必要なものが魔道書。要はレイちゃんが私たちにもたらした『幻想装備』にあると思ってる」
「幻想装備。それがあればミルっちを救出できる?」
「多分全部位を揃えてようやくってところかな?」
まだなんの確証もないけど、ページを一枚獲得した状態で私一人を持ってく力はあったから。
人数を揃えたら揃えるだけページの枚数を集める必要があるかもだ。
「それは長い道のりになりそうだね」
「レイちゃんは人数が足りないという話をしていたのは覚えてる?」
「そういえばメンバー募集中とかなんとか言ってたね。あれって配信の話じゃなくて?」
配信の場で行ったからそう受け取られがちだけど、私は魔導書に関連している話だとは思っている。
「私は幻想装備の所有上限だと思ってる。多分見ただけで頭がおかしくなっちゃう神様の姿を直視しても耐えられるように恐怖を分散させたいんじゃないかなって」
「え、見ただけで頭がおかしくなっちゃうの?」
「なっちゃうらしいんだよ。本で得た情報ではね」
「やばいじゃん!」
「だからこその人員整備だと思えば納得できない?」
「じゃあまずは葉ちゃんやディノちゃんに幻想装備を渡すところから?」
「それとなーくね。あんまり事情話して参加してくれるかまでは怪しいから」
「ハヤテ、悪い子になっちゃったねぇ」
「人聞きの悪いこと言わないで。実際、幻想装備は誰から見ても羨ましい能力でしょ? EPOでハンドブレンダーが使えたのも幻想装備のおかげだよ?」
「あれは正直反則だと思った」
でしょ?
ミルちゃん救出を抜きにしたって喉から手が出るほど欲しい品なのだ。
幻想装備は。
「と、いうことで幻想装備の解放回を最初の数十分やって、あとは自由時間でどう?」
「まずはこの便利すぎるアイテムの配布か」
「そうそう。自ずと厄介ごとに巻き込まれるけど、その分いい思いはさせますよみたいな」
「騙してるみたいで気が引けるけど」
「大丈夫、葉ちゃんもディノちゃんも胆力高いから。太々しいとも言えるけど」
適性だけ見たら私の次に高いよ、あの人たち。
「そういえば初対面なのに妙に仲良かったよね、ハヤテ」
「気が合うってああいうことなんだろうね」
前世の話まではお姉ちゃんにしなくてもいい。
言ってもどうせ信じてくれないし。




