303話 EPO配信!_酒場クエスト④
「と、言うわけで私からのお話は以上! ここからは焼肉のたれのレシピをドドンと公開」
:公開しちゃっていいのか?
「いいですよー。むしろ後悔するつもりで設定しましたので。まずはりんご、はちみつ、さるなし、木苺、シナモン、バナナをハンドブレンダーで一気に混ぜます」
ヴィィィィィッ
電源がなくても動くのが幻想装備のいいところ。
絶対にこれは使うって言うメニューを厳選したからね。
:おいおいおいおい
:ハンドブレンダー!? ハンドブレンダーナンデ!?
:幻想装備か!
:レイちゃんのみならずハヤテちゃんも他ゲー装備を
:知ってた
:そりゃレシピ公開するわけだわ
:だれも真似できないもんな
:ハンドブレンダーが最新ステージでも存在してないのよ
「そこが不便なんですよねー。でも土鍋とお水があれば一緒に煮込めるので、一緒に頑張りましょう。裏漉し用の布とかもほしいですねー。ブレンダーでジュースになったところに塩、胡椒を摘んで一煮立ち。本当は砂糖とかほしいところですけど、今はないのでこのままで」
ぐつぐつ。
「そこで生姜、ニンニク、みりん、お醤油を足してもう一煮立ち」
:定番!
:ステージ4までに解放されてない食材のオンパレードやめろ
:ハンドブレンダーの時点で警戒すべきだった!
:これは再走無理です
:自分でオーパーツって言ってたもんな
:自覚ありなのがまた
:まぁ再現できたらずっとそればかりになりそうだからな
「じゃじゃーん、ハヤテ特製焼肉のたれの出来上がり〜」
:うまそう
:見知った材料で作られたタレだ。絶対美味い
:入手がハヤテちゃん以外不可能という点に目を瞑ればな
:生姜やニンニクが入手できるのはステージ13くらいだな
:あるんだ?
:ごまはステージ10
:みりんは?
:ステージ25
:最低でもステージ25で揃う材料をステージ4で!?
:これはオーパーツです
:みりんっていう概念がここ最近できたもんだから
:酒自体は古くからあるんだけどさ
:つまりそういうものとして売り始めれば、商機があると
:商人はなんでも儲けに繋げるな
:それが商人の本質だから
:それに流通が広がれば便利になるのは俺らだし
「ただこれ、専用の瓶か入れ物がないと日持ちしないのでさっさと使ってしまうしかないんですよね。と言うわけで場所を移動しましょう」
そんなこんなで害獣討伐本部へ。
ここでクエストの申請をしてみる。
『調理師』ではなく『商人』として。
「すみませーん」
「お、どうした嬢ちゃん」
害獣討伐本ぶにはクエスト発注主のバイエルさんがいつもと同じような態度で話しかけてくる。
「酒場に必要だと思う商品を仕入れてきましたー」
「この真っ黒な奴がそうか?」
バナナの皮で作った入れ物はどうやって形を維持してるのかわからないほどがっしりと焼肉のタレを受け止めている。
その中には黒黒とした液体。
バイエルさんは一体何を持ち込んだのか不安気な顔をしていた。
「はい。絶対この先必要になると思うんですよね。なので、こういうのはどうかなと思ったんですが」
「これは飲み物か? 食い物か?」
「どちらも違います」
「じゃあ、なんだ?」
ますます表情を訝しめる。
「これは調味料です。食事をするときに肉をこれに漬け込んで、焼くだけで臭み消しになるという代物です」
「聞いただけじゃ納得できないな。実際にどんなものか食ってみないことにはな」
「そうでしょう、そうでしょう。私もそう言うと思ってお肉もご用意してきました。ささ、葉ちゃん焼き台をこっちへ」
「わかりましたわ」
「焼き台?」
串を通した肉、はそれなりに見慣れたものだったが。
それを焼く専用の台というのはとんと理解が及ばなかったバイエルさん。
「ここに木を一回燃やした炭を入れます」
「どうしてだ?」
この時代、まだ炭という存在がないのは確定している。
炭火焼きという概念が当然ないので一から説明する必要があった。
「この炭というのは火を蓄える性質があります。炎と違い、じっくり肉を焼くのに適しています。通常、串焼きというのは焚き火の近くに串を刺して仕上げますよね?」
「ああ、そうだ。持ち込みされた串焼きのレシピを見た時はなんの捻りもないと思ったぐらいだな」
:くっ
:あまりにも酷評
:炭火焼きをする前提のレシピなのに
:時代が悪いよ時代が
「しかしこれはこのセットした焼き台の上で仕上げるのです」
「そんなことが可能なのか?」
:こんな当たり前もわからない人に俺のレシピは否定されたのか
:『捻りがないレシピだなと思った』
:ぐぁあああああ
:どんまい
:涙拭けよ
「私は今回、これを商品として持ち込みました」
「続けろ」
「はい」
焼き台の上に炭を敷き、そして火をつける。
石を打って火花を散らすというわけではなく、マッチを使って火をつけた。
「おい、なんだそれは。擦っただけで火がついたぞ」
「これは今回の売りではありませんが南蛮渡来の品でして」
「非常に興味がある。新しい串焼きというのをみてから改めて確認する。いいか?」
「もちろんです」
:ここでマッチを投入!
:マッチってこの時代あるの?
:ないよ
:火おこしは木を擦ってなんとかだぞ
:まず火薬もないよ
:木工職人さん!
「理屈がわかりませんので」
:道は潰えた
:マッチ棒の木材ならワンチャン
:薬液は調薬の仕事じゃね?
:そうだ、調薬師!
:今その話題じゃないので
:黒色火薬はステージ20くらいだな
:また随分と未来の商品持ってきたな
「まずは火がついたのを確認してください。炭がぼんやりと赤くなってきましたよね。火が弱くなったら、こうやってあおいで風を送り込んでください」
:うちわ!
:うちわは理屈がわかれば作れるだろ
:その前に紙だな
:いったいどれほど時代を逆行するつもりだ
「嬢ちゃん、何者だ? その真っ黒な汁以外にもツッコミどころが満載だ」
「まぁまぁ、今はいいじゃないですか。本題はここからですよ」
「黒い汁の検証という話だったな。続けろ」
「はい。でもこの汁を使わない状態のを最初に焼いていきますね。肉はいっぱいありますので」
「内訳は?」
「うさぎ、へび、シカ、イノシシ、クマです」
「ウサギやヘビならともかく、あとは癖が強いのばかりだな」
やっぱり肉食系は臭みが強いよね。
それをどうやって食べるかがメインのところがある。
「だからこそ、比較が必要なんですよ」
そう言いながら串を順番に置いていく。
炭から火が上がり、串肉を大きく燃え上がらせる。
肉の焼けるいい香りが周囲に舞う。
「いい匂いだな、腹の減る匂いだ」
「肉は塩を振っただけで推ししく仕上がりますからね。どうです、一本?」
「いただこう。うん、うまい。嬢ちゃん、調理人でもやっていけるんじゃねーか?」
「塩を振っただけで大袈裟ですよ。でもありがとうございます。じゃんじゃん焼いちゃいますよー。皆さんもこの際なのでお食事いかがですか?」
:俺たちにもくれ
:肉の焼ける音ぉ〜
「いいのかい?」
「もちろん。こういうのは一人だけが納得してもその他大勢から否定されたら意味がありませんから」
「十分に匂いで釣られちまってまともに味の評価できなくてもか?」
「それもまた一興。普通に焼くだけでも美味いこの肉がどう化けるかも併せてセールスポイントですので」
「大きくでたな。そりゃ腕の見どころだ」
「お姉ちゃん、準備よろしく」
「はーい」
お姉ちゃんはストレージに放り込んだ枝肉を一口サイズにバラしていく。
「私はどうする?」
「お姉ちゃんと一緒に解体をお願い」
「任された」
「わたくしは?」
「串が足りなくなったらまた加工できる?」
「それくらいでしたら」
かくして大串焼き検証回が始まった。
「うめぇ! これはなんの肉だ?」
「鹿のお肉です」
「これが鹿!? 臭みがまるでないぞ」
「驚いた。その黒い汁をつけなくてもこれほど臭みを消せるのか」
「それはもちろん。でもこれに浸したらみなさんこればかり求めるようになりますよ」
「それは楽しみだ。でもその前に、どうやっても匂いが気になって食えなかったクマを貰いたい」
「はい、もちろんです」
私は味噌漬けにした串を取り出した。
「これはずいぶん茶色いがなんだ?」
「企業秘密です。黒い汁と同様のものだと思っていただければ」
味噌を丁寧に拭う。
これは焦げやすくなっちゃうので念入りに取り払う。
その上で焼き上げると、香ばしい匂いが漂った。
「なんだ、この匂いは!」
「クマ肉かぁ?」
「臭くて鼻が曲がりそうだ!」
反応は悪い。
でも味はピカイチ。
しかし匂いで忌避された人に食べさせるのは難度が高い。
どう食べさせるかだけど、それも考えてある。
取り出したのは野菜だ。
それを肉と同じように串に刺して焼いた。
「野菜?」
「これは野菜と一緒に食べるのがベストです。熊の肉の臭みを消すために強めの調味料を使っていますので。このままいただくのは少しくどいんですよ」
焼き上がった肉の串と、焼いた野菜の串を差し出す。
「この臭みには慣れないが、慣れれば問題ないな。そして忠告にあったように野菜によく合う。これは肉だけ先に浸して後から野菜と一緒に串に刺すのではダメなのか?」
「あ、そうですね。そういうやり方もありです。やってみます?」
「俺がやってもいいのか?」
「これは誰にでもできる調理法ですので。肉はこちらで仕上げてます。みなさんもよければ自分の好きな組み合わせを選んでみてください」
串焼きの組み合わせは自由である。
こちらは場を提供し、そして肉は解体師のみんなが食べやすいように切り分けてくれる。
皆が葉ちゃんの仕上げた串を奪い合うように持っていき、名前別に陳列された野菜と肉を串に刺していた。
「あぁ、刺し方が悪いのかな? 肉が外れちまう」
「俺なんて野菜が空中分解したぜ」
「まぁ食えりゃいいんだよ」
「そうそう」
「この鹿肉の謎を俺は追い求めてるんだがよ」
「一体どんな手品を使ったんだ? あの臭みが嘘みたいに消えちまったぞ」
「それよりこの熊肉だよ。野菜もそうだが、この塗り込まれた茶色いのがクセになる味だ」
「これは豆を発酵させたものです」
「豆だって?」
「発酵とはなんだ?」
「それは語ると長くなりますが、あえて腐らせることでこの香ばしい香りが生まれると聞いたことがあります」
「そうなのか」
「腐ってるからこんな匂いなのか?」
「不思議ともう一口いっちまう魅力があるよな」
「なあ嬢ちゃん、もうこの時点でだいぶ満足なんだが、いつになったらこの黒い汁を使った串焼きが出るんだ?」
すでに満腹になった討伐隊の皆さん。
さて、ここからメインディッシュである。
「それではこの満腹一歩手前の状態から、みなさんのお腹を空かせて見せましょう」
私は串を持って、自信満々に言い放った。
皆がそれぞれのペースで満腹になった。
だからこそ、これ以上は無理とその顔が物語っている。
でもね、焼肉のたれによる魅力は満腹を空腹にする効果があるのだ!




