5 記憶
はて、あの子が話してくれたゲームの内容はどんなものでしたっけ……?
学園にいる時も家に帰ってきてからも考えてみているのですが……記憶力には自信があったはずなのに、朧げにしか思い出せないことに気がつきました。
何度も繰り返し同じことを話されていたので嫌でも覚えているはずなのに……
自室のソファーに座り、首を傾げます。思い出せ、思い出せ……あの子が教えてくれたゲームは……
「ええと、確か……あの子の推しは……光、あ……そうです、月光です!」
朧げな記憶の中からそのワードを思い出しました。……ん? 月光? ……ラル様?
「まさか……ね?」
頭に浮かんだ予想に笑顔が引き攣ります。
私は前世でも今世でも趣味で小説を読んでおりましたが、前世で読んだ小説の中には乙女ゲームの世界に転生してなんちゃらかんちゃらする話が多く存在しておりました。
もちろん私も楽しんで読んでおりましたが……
「クラインさんの言っていた『悪役令嬢』という言葉と……あの子の推しの『月光』……」
まだ推測の域を出ないものではありますが、ここはもしかしたらあの子が楽しんでいたゲームの中の世界なのではないでしょうか。
私はあの子から話を聞くだけだったのでうろ覚えだったのでしょう。
さて、あのゲームの題名は確か──
あれ、なんでしたっけ。確か……月が関係している題名だったような……。うーん、思い出せません。
「お嬢様、お食事の準備が整いました。」
考え込んでいたその時、私付きのメイドは私に話し掛けます。もう夕飯の時間になったのですね。確かにお腹が空いてきました。
「ありがとうございます。今行きますね。」
「はい。……お嬢様、また敬語になられておりますよ。使用人である私に敬語は必要ありませんと何度言えばお分かりになられるのでしょうか。」
ああ、耳に痛い話です。前世の時からずっとこの口調でしたので、なかなか改善出来ずにずるずるとここまで来てしまいました。うう、頑張らねばなりませんね。
「ああー……ごめんなさい。周りの方々にも敬語で話すのでついつい忘れてしまいます。」
「忘れないでください。」
「あうっ、」
ズバッと一刀両断されてしまいました。正論ですので反論も出来ません。
「……この話はこの辺にして、まずはお食事を。」
「はーい。」
さて、気分を切り替えて今日の夕飯は何かを考えましょう!




