43 死そして生
※暗いの注意
そうだ、あのことを思い出したのですから、ラル様にも話さないとですよね……
「あ、あの……」
「どうした?」
「多分ですが、いつも通りに笑えなかったのは……し、し、」
「し?」
これを言うのに少し躊躇いがあります。あまり気分のいい話ではないですから。しかしラル様は前に教えて欲しいと言ってくださっていましたし……。
一度深呼吸して覚悟決め、話すことにしました。
「……死んだ時の記憶を思い出したから……かもしれません。」
「何っ!? ……私にも聞かせてくれるか? あまり思い出したくはないかもしれないが。」
「……聞いてくださいますか?」
鮮明に思い出した赤が頭の中でちらつき、体が震える。呼吸も少し荒くなりましたが、ラル様はそのことに気がついてかぎゅっと手を握ってくださいました。その温かさに、少しだけ気持ちも落ち着きました。
「ゆっくりでいい。ちゃんと最後まで聞くから。」
「ありがとう……ございます……」
もう一度大きく深呼吸し、詳しく話し始めます。
「私は前世で高二の……ええと、所謂学校に通っていた頃、桑さん……ええと、今で言えばクラインさんと私は友達でした。」
「あの変人と……?」
ラル様はとても驚いたようでした。確かに、私も落とされなければ気が付きませんでしたので、その反応も理解出来ます。
「そうです。そして桑さんはある時私をとあるお店に連れて行ってくれました。そしてそこの店員さんに……テラーと名乗る人物に出会いました。」
「ほう。」
「そのお店に桑さんと共に通うようになった私もテラーさんと仲良くなり、色々な話をするようになりました。そこまでは普通にいい話だったんです。し、しかし……」
もう一度大きく深呼吸し、未だに繋いでいたラル様の手をぎゅっと握りしめます。
そうです、ここにはいらっしゃいます。私が安心出来る存在であるラル様が。だから大丈夫、と自分を鼓舞します。
「テラーさんと仲良くなってしばらく経ったある日、私は歩道橋の上を……ああ、所謂道路の上にある橋、みたいな感じですね。そこを私は歩いていました。するとテラーさんとばったり会い、そのまま二人でお喋りしながら歩いていたのですが……」
テラーさんに突き落とされたのと、クラインさんに突き落とされたという記憶を思い出し、ぎゅっと目を瞑ってしまいます。
しかしまだ続きがあるのだからと、自分を落ち着けようと三度深呼吸し、もう一度目を開けます。大丈夫、大丈夫。
「テラーさんに、歩道橋の階段から突き落とされました。」
「……。」
「そのせいで私は記憶を失い、桑さんのことも、テラーさんのことも、忘れてしまいました。そして……あの日……」
これだけで話が終わればまだ良かったのですが、続きがあるのですから嫌なのです。
「見知らぬ家へ桑さんに連れていかれて……ああ、多分この時の桑さんは私を元気付けようとしてくれていただけだと思います。で、ええと、そしてその家の中で突如現れたテラーさんの顔を見て、私は突き落とされた記憶も全て思い出しました。」
「……。」
ああ、赤色が脳裏に焼き付いて離れない……
「そうしたらテラーさん、思い出したのなら仕方ない、死んでもらおう、と言って包丁を私に突き刺して……それで私は死にました。」
「……。」
「その後どうなったかは分かりません。もしかしたら桑さんも共に殺されたのかもしれません。」
「……そうか。辛かっただろうが話してくれて、ありがとう。」
「いえ……」
ラル様はそっと私を抱きしめてくださって、ラル様の心臓も私の心臓もちゃんと動いている音が聞こえました。そのことに私は安堵し、そして視界がゆらゆらと揺れ、さらに目元が熱くなりました。もしかしたら私は泣きそうなのかもしれません。
「辛かったな、怖かったな。」
「……はい、」
ああ、私も、ラル様も、生きているんですね。そう実感しました。




