42 フンワリ
さて、結果から言うと私にはどうすることも出来ませんでした。家族揃って私の話に耳を傾けることなく、もう既にクラインさんの処罰をどうするかという話しかしていなかったのですから。
最初の数分は私の部屋で話していましたが、処罰について話を詰めたいと家族揃って執務室へと向かってしまわれました。
「はあ……いてて。」
きっとついて行っても私に家族を止めることは出来ない。そう理解した私は考えることを放棄して部屋で一人寛ぐ。やっぱり全身痛いなぁ。特に痛い背中を自分で摩る。
ソファに座り、ぼーっとする。そうすると思い出すのはクラインさんの言葉。
『陽だまりと呼ばれて然るべき人間は、豊永 ひまりだけなんだから!』
クラインさんは私が豊永 ひまりだとは気がついていなかったのだろう。私もあの言葉でクラインさんと桑さんが同一人物であると理解したのだから。
ああ、しかし知らなかったにしても、桑さんは人を突き落とすような人だっただろうか。非常識な人だっただろうか。
「分からないな……。」
考えてみたけれども分からなかった。前世ではそんな人では無かったはずなのだが。うーん……
と、一人で考え込んでいるとメイドがドアをノックして部屋に入ってきました。ああ、笑顔を作らねばですね。
「お嬢様、ムーンテラル様がお見えになりました。」
「え、」
「ひまり!」
「ラル様……」
私の頭が理解する間もなく慌てたように部屋に入ってきたラル様。そしてメイドは場の空気を読んだかのように部屋を出て行きました。部屋には私とラル様の二人だけ。
「ひまり、大丈夫か? 怪我ないか? 痛くないか? 辛くないか?」
ラル様は私の隣に座り、恐る恐る私の頬に触れる。そのことに私は場違いにもドキドキと胸を高鳴らせてしまいます。ラル様は心配してくださっているのに、私はこんなにも嬉しく思ってしまっているだなんて……あまりにも場違いすぎですね。心を落ち着かせます。すーはー。
しかしあのラル様から発せられたとは思えない程のマシンガントークばりの質問攻めに驚きすぎて声も出ませんでした。
「ああ、まだ痛むのだな。やっぱりあの変人許すまじ。ぶつぶつ……」
私が返事をしなかったことで私がまだ落とされたショックを受けているなどと勘違いしたのか、ラル様は一人怒っております。
その時するりと離れていった手に名残惜しさを感じながらも、私は言葉を紡ぎます。クラインさんは悪くない……訳ではありませんが、そんな行動を起こさせた要因の一つは私でもあるので、私は怒っていないと伝えなければ……!
「……、ら、ラル様? ですよね?」
「そうだが。」
ああ、言葉のチョイス間違えてしまいました! しかしラル様がここまで饒舌かつ怒りという感情を露わにするのは初めて見ましたし、本人かどうか疑ってしまうのはおかしくはないはずです。いや、偽物と言われた方が納得出来たかもしれません。それ程です。
「で、ひまり、大丈夫か?」
「え、ええ、まあ。大丈夫です。」
主に背中が痛みますが、まあ、伝える程の事でもないですね。いつもの笑顔で答えます。
「……ひまり、その笑顔は嘘くさい。本当は痛いんだろう?」
「……、私、笑えていませんでしたか。」
自分の情けなさに自嘲的な笑みがこぼれてしまいます。ちゃんと笑えていなかったのか、と。
「いや、笑えていたが……少し固さが見えた。」
「固さ、ですか?」
「ああ。いつもの笑顔はふんわりだが、今の笑顔はフンワリって感じだ。」
ラル様のそれはあまりにも感覚的過ぎて違いが私にはよく分かりませんでした。ですが、私の笑顔の違いにまで気付いてくださることに嬉しさは感じてしまいました。




