39 邪魔
ジュピターside
物陰から二人のやりとりを見ていたのだが、ぎり、と歯に力が入るのが分かった。声は断片的にしか聞こえないが、二人が纏う空気感は幸せそうな恋人同士のよう。
「なんで、なんであんなやつが……!」
月光様が何かを言って、顔を赤くするマリアルモンテ・ヒダン。悪役令嬢のくせに幸せそうにしてんじゃないわよ!
「月光様と結ばれるのはこの私、ジュピター・クラインなのよ!」
イライラで爪を噛む。爪がガタガタになってしまったらマリアルモンテ・ヒダンのせいだからね!
そんな風に覗きをしていると……
「待って……月光様、今『ひまり』って……」
『ひまり』その言葉だけはハッキリ聞こえた。
マリアルモンテ・ヒダンが陽だまりと呼ばれているだけでも憎らしいのに、ひまりと呼ばれるだなんて。許せない許せない許せない! 陽だまりは、ひまりは、豊永 ひまりだけが呼ばれて然るべきなのに!
「邪魔、だな……」
マリアルモンテ・ヒダンがとにかく邪魔。あいつがいなくなれば全てが丸く収まるのに……。
どうすればいいかな。一応マリアルモンテ・ヒダンは侯爵家の人間。下位貴族の私自らが何かすると後々厄介なことになりそうだけど……
「……ああ、そうすればいいのか。」
事故に見せかければいいんだ。あの時は事故だったけど、それに似せて突き落とせば事故として処理されるんじゃないかな。
「ふふ、ふ……」
思い立ったが吉日って言うし、早速行動に移そう。ここから教室までで階段があるし、昼休み終わりにマリアルモンテ・ヒダンはそこを絶対通るからね。
自然に出来るね。フフフ。
マリーside
お昼ご飯もちゃんと食べてお腹いっぱいになりました。このままのんびりしていたいですが、しかし少し急ぎめで歩かないと次の授業に間に合いません。
周りの皆様は時間に余裕を持って行動しているので、もう廊下にはほとんど人はいません。ああ、急がないと!
階段を使おうとそこに向かった時、声を掛けられました。
「ヒダン様!」
「クラインさん……?」
私には一度も見せてくれなかったニッコニコの笑顔を浮かべてクラインさんが話しかけてきました。ああ、その笑顔とてつもなく可愛いです。癒されました。
「今まで失礼な態度を取ってごめんなさいっ! あのぅ、あたしとお話してくれませんか?」
きゅるるんと可愛い表情と仕草でそう言うクラインさん。
「もちろんいいですよ? ですが今は授業の時間が近付いているので、次の休み時間にどうですか?」
私のその提案を聞いたクラインさんの顔が急変します。先程までの可愛い顔から、真顔……いえ、怒ったような顔になりました。その変化に私はゾッとしてしまいました。
「そんな事しなくてもいいですよ? だって……あ、そうだ! 最期に言っておきたいことがあるんですよぉー。」
「な、なんですか……?」
クラインさんの言わんとすることに見当がつかず、得体の知れない怖さを感じます。
そんな私の困惑をものともせずクラインさんは腕を組み、見下すような目をしました。
「あたしは同担拒否なの! それにあんたなんか陽だまりじゃ、ひまりなんかじゃない! 陽だまりと呼ばれて然るべき人間は、豊永 ひまりだけなんだから!」
同担拒否、その言葉と更に続く『豊永 ひまり』。それらの情報を総合して、一つの結論が見えました。
まさかクラインさんは……
それに気が付いた時には既に私の体がふわりと浮いていました。クラインさんに肩を押されたようです。
ここは階段。押されればどうなるかなど、幼い子供でも分かります。
「桑、さん……?」
ぽつりと声に出てしまいました。懐かしい名前です。
……あれ、話は変わりますが私……この浮遊感を知っています。何故でしょう……?
意識を失う直前に見たクラインさんの顔は驚愕に満ちていました。




