38 両
考えることがたくさんあると自覚すればするほど胃がキリキリと痛む気がします。ああ、どうしましょう。このままでは笑顔で居続けるのも難しくなります。さすがに痛みには勝てませんから。
気を紛らわせるようにいつものベンチに座ってお弁当を開けましょう。
「今日は……ハンバーグですね。」
とても美味しそうです。
それを一口食べると心が少しほっこりしました。頬も緩んでいるのが分かります。ああ、至福のひととき。
「マ、マリー。」
「ラル様……御機嫌よう。どうされましたか?」
ハンバーグを堪能しているとラル様がこちらに向かって歩いてきました。
いつものように、を心掛けて話し掛けます。笑顔以外の表情を見せてしまったことによる恥ずかしさから少し頬が熱くなったのには見て見ぬふりをしますね。
「あ、その……今日も弁当を持ってきていて、だな……。その、隣、座ってもいいか?」
「はい、もちろん!」
好きな人の隣にいられる。そのことだけで私の心は浮き立ちます。
しかし隣に座ったラル様はお弁当を開けるでもなくこちらを向いて何か話そうとしているようでした。それに気が付いた私はお弁当をベンチに置いて話を聞く体勢になります。
ラル様は話そうかどうか悩んでいるようでした。数秒それを待つと、よし、と意を決したように話し始めました。
「あの、だな。……マリーという呼び名なのだが、ご家族からもそう呼ばれているのだろう?」
「ええ。そうですね。」
ラル様から話題を振っていただきました。なかなか訪れない幸せ故に、このひと時を噛み締めなければと私も会話に全神経を使います!
と、頭の中の私はウキウキとしていましたが、
「……その、だな……」
ラル様は言い辛そうに口をはくはくと三度程動かし、その後ぎゅっと口をつぐんでしまわれます。え、何を言われるのでしょう。先程までのウキウキから現実に戻ってきました。
悪いことを言われるのでしょうか。今度は不安に駆られます。
「わ、私だけが呼べる呼び名を……その……考えたのだが……駄目だろうか。」
「へ……」
ラル様から発せられる言葉を理解した私は、じわじわと顔の熱が増していくのを実感しました。
私、自惚れてもいいのでしょうか。家族も呼ばないラル様だけが呼べる呼び名ということはそれって……
「その、だな。この世界でマリーのことを『ひまり』と呼ぶ人間はいないのだろう? だから……私だけに呼ばせてくれないか?」
もう呼ばれることはなくなったと思っていたその名を呼びたいと言われて、嬉しくないはずがありません。ひまりもマリアルモンテも大事な私の名前なのですから!
「ええ、ええ、もちろん。とても嬉しいです。」
「それと……ひまりに伝えなければならないことがあってだな……」
「はい?」
他にも何かあるのでしょうか。次の言葉を静かに待ちます。
「どうやら私はひまりのことが好きらしい。」
「らしい、ですか?」
「ああ。実はイオにちょっと相談したところ、私の言動はひまりが好きだからこそらしい。」
「そ、そうなのですね……?」
そんなやりとりがあったのですね。
「ああ。そしてその後ずっとそのことに関して考えていたが、確かに自分でも納得出来る部分があった。」
そう言ってラル様の大きくすらっとした手が私の手を包みました。ラル様に触れられている、そのことにドキドキと胸を高鳴らせてしまいました。この動悸がラル様に伝わってしまうのではと考えてしまう程に五月蝿く鳴ります。
「だから私からも言わせてくれ。ひまりが好きだ、と。」
その言葉を聞いた私は喜びで舞い上がってしまいました。
ああ、今日はなんていい日なのでしょうか!
私は舞い上がりすぎてしまい、物陰から恨めしそうに見る人に気がつくことが出来ませんでした。




