31 そばに
「なっ、マリーが悪など……! あの変人の方が余程悪ではないか!」
私の言葉に何故かラル様は憤慨します。ここまで怒っているラル様は初めて見ました。
「いいえ、物語ではそのような役割分担ですから、メインヒーローと何もしないライバルが結ばれることはないのです。」
私が悪だという発言に反論してくれたことに嬉しさを感じましたが、しかし私の役割はやはり悪役です。シナリオから逸脱出来る、所謂ちーと とか言うものは持っていませんから。
「……私はそんな作り話など認めない。絶対に。」
「ですが、実際ラル様はクラインさんのこと、を……」
好きになってしまったのでしょう? そう最後まで聞くことは出来ずに、ふっと視線をラル様から外します。
ああ、私は自分が思うよりも臆病なようです。ラル様の口から肯定されてしまうと思うと声が出ませんでした。
「そんなこと一言も言っていないだろう? 何故そう解釈した?」
私の言わんことを察したらしいラル様は更に問い詰めます。ですが一言も仰ってなくとも、ラル様の行動でだいたい推測は出来ます。
「ラル様は先程食堂で……クラインさんの可愛さに耐えきれずに顔を逸らしてしまったのでしょう? やっぱり物語のシナリオからは外れないんですよ……」
「……マリー、いくらマリーでもそんな発言は見逃せない。私にはマリーしかいないというのに。」
ラル様はくっと眉間に皺を寄せてしまわれました。
ああ、しかしそんな風に言われると自惚れてしまいそうです。私しかいないなど、軽く言ってはいけない言葉です。私のような者は勘違いしてしまいますから。
「ラル様、」
「マリー、私は人嫌いだ。」
それを注意しようと思い口を開くと、ラル様は話し始めました。
「え、ええ。なんとなく存じております。」
急に話題が変わり、返答にほんの少しだけ時間を要しましたが……はて、急にどうされたのでしょう。
確かにラル様は他の方と話している姿はほぼ見ないので、そうなのだろうと薄々感じてはおりましたが……。
「人嫌いな私が唯一普通に話せる女性はマリーだけ。その意味は分かるか?」
「え……?」
「マリーが特別だということだ。だから……ええと……」
右に左に目を泳がせ、どう言葉にしようかと熟考しているようでした。それを二、三往復させ、その後私と目を合わせます。その目は決意に満ちていました。
「ど、どうか私を一人にしないでくれ。あの変人のことなんか考えるな。あんなのに心を奪われるなど一ミリもない。断言出来る。だから……お願いだ、マリーだけは私のそばにいてくれ……!」




