28 生きる価値
「笑うことしか出来ない……?」
何を言っているか分からない、と言わんばかりの表情と声。まあ、今まで私自身のことも話してこなかったし、ラル様のお話も聞くことは無かった。だから分からなくても当然です。
「そのままの通りですよ。失態を晒してしまった後だとしてもちゃんと笑っていないと、陽だまりでいないと……私の存在意義が無くなってしまいます。だから笑わないと……」
笑わないと、笑わないと、笑わないと……
「マリー……」
ぐるぐると呪文のように頭の中で唱えていた私。そんな私を呼ぶラル様の声が聞こえたと思ったら、体が引き寄せられる感覚の後、ふわりと抱きしめられました。
先程のエウロパ先生に対して感じた嫌悪感などは全く無く、その暖かさに心地よさすら感じ、もう一粒涙が零れてしまいました。
「笑わなくていい。笑わなくても……マリーはマリーだ。」
ああ、何故こうもラル様は欲しい言葉をくださるのでしょう。本当にこれは現実でしょうか。夢なら覚めなければいいのに。永遠に。
「そんなことない、です。私は笑っていないと生きている価値もないんです。だから……」
「そんなこと、誰が言ったんだ?」
す、と体が離れていき、目線が合う。ラル様は怒ったような顔と声でそう聞きます。
誰が、か……。ああ、お母さんが笑顔でいろと私を怒鳴る声も思い出してしまい、ふっと俯いてしまいます。少し体も震えてしまいます。
「……お母、さん。」
真顔でいる私に笑顔を強要した前世のお母さん。あの言葉が今でも私の中に確固たるものとして存在しています。
「……ヒダン侯爵夫人は何を考えているのだ。これは……」
「ち、違います! お母様ではありません!」
「何? どういうことだ?」
「あ……えと……」
今世のお母様はとても良くしてくれています。だから違うのです。
しかしこれを話すには前世の記憶についても話さなければならなくなります。安易に話して頭のおかしい人だと思われたくはないので……どうしましょう。視線を右に左に彷徨わせる。
「……話して欲しい。どんなに突飛な話でも信じよう。」
ラル様は先程の私の言葉を覚えていてくださったらしいです。
「でも……」
「聞きたい。駄目か?」
「っ……」
そんな風に言われたら……話したくなるじゃないですか。
口を開き、閉じ。それを二、三回繰り返した後、決心して話し始める。
「わ……私は……私には、前世の記憶があります。」
その一言に、ラル様が息を飲んだのが分かりました。




