25 婚約
「な、何……?」
何が起きたか分からなくて私に巻きついているものを見る。するとそれは腕のようなもので……
まさか、エウロパ先生の腕……
「やめ、てください!」
何が起きたか理解した私はジタバタと抵抗してみるが、しかしそれが離れていくこともなく。
「やめませんよ。こんな所で、さらに言えば一人で泣いているご令嬢を放っておけと言うんですか。」
そう言われてさらにぎゅっと抱きしめられる。嫌、嫌だ!
「あいつに譲ってやったのに……それがこのザマですか。」
あいつって誰? このザマって何?
疑問はいくつもいくつも溢れ出てくる。ぐるぐるとかき混ぜられたように思考がまとまらない。
涙は抱きしめられた衝撃で止まったけれども。
「やっぱり今からでも遅くありません。ムーンテラルとの婚約を解消してイオと婚約し直してください! 元々あなたはイオと結ばれるはずだったんですから!」
どういう、こと……?
なんとか腕を離してもらい、エウロパ先生の顔を見て情報を読み取ろうとする。しかし全くと言っていい程何も分からない。笑顔を浮かべる余裕なんてこの時は全く無かった。
「あなたとイオが婚約を結ぶ直前で、ムーンテラルが横から掻っ攫っていったんです。だから……」
エウロパ先生がそのような内部事情を知っていらっしゃるのは、イオ王太子殿下の腹違いのお兄様だから。それは周知の事実。
だけど……
「何故今その話なのですか……?」
何がどうなって婚約がどうのこうの言う話に飛躍したのか全く理解出来ず、疑問をぶつける。
「だって……婚約者がいるのにそれに頼らず一人で泣いているくらいなんです。二人が上手く行っていないことの何よりの証拠でしょう? だったら弟に任せた方がいいと思って。」
エウロパ先生はなかなかのブラコンだったらしい。これは初めて知ったなあ……と、あさってな方向にしか思考が進まない。他に考えなければならないことはあるはずなのに、そっちの方には頭が働かない。
「きっとヒダン嬢もイオを気にいると思いますよ。」
「え、いや、ええと……」
どう断ればいいでしょう。私はこの物語の舞台を降りるまではラル様と共にいたいと思っているのだから。
しかし仮にも相手は王太子様。断り方によって不敬にならないようにしなければなりません。慎重に……
どうしましょう、どうしましょう。焦れば焦る程頭は働かなくなる。
「エウロパ先生、マリーから離れてください。マリーが困ってます。」
その声に私は驚いてしまった。まさかラル様がここにいらっしゃるなんて……。クラインさんと仲を深めているのだと思っていたのだけれども……
追いかけてきてくれたのではと期待しそうになったが、そんなことあるわけがない。何度も言うが私は何もしていない悪役令嬢なのだから、ヒーローと結ばれることはない。
「……そう言うあなたこそ、ヒダン嬢を解放してあげたらどうです?」
エウロパ先生はまたもや爆弾を落としていく。




