第百八十四話「決着」
「方法はある……だと?」
竜崎が懐疑的な表情で質問した。
それに対して飛鳥が答える。
「ええ。あたしの能力を使うの」
「きさまの能力……? きさまの能力は回復じゃないのか?」
飛鳥の提案に疑問を示した竜崎に、彼女は自分の能力について詳しく解説をした。
「あたしの能力は物理的に回復しているんじゃなくて、別の世界線に存在している同一人物の身体をコピーしているのよ」
「なるほど。あの超回復は、そういう原理だったのか」
さらに竜崎に作戦を伝える飛鳥。
「あなたのドラゴンが消滅する瞬間──悪意の魂が分離したタイミングを狙ってドラゴンの体を複製すれば、悪意だけ消滅させることができるかもしれないでしょ」
「たしかに可能性はあるな」
「でも……もし失敗したら──」
「十分だ。もともと方法はなかったのだ。覚悟はできている。それに──」
竜崎は申し訳なさそうな顔をしている飛鳥を見ながら言葉を続けた。
「──きさまが失敗したとしても、確実に我が消えると決まったわけではない」
飛鳥と竜崎は真剣な顔で頷きあってから、金太郎の方へ視線を向ける。
ふたりの目を見ながら、金太郎も首を縦に振った。
「やれ──小僧!」
竜崎が気合の入った合図を送ると、それに答えるように金太郎が叫んだ。
「ああ……! くらえ────最大出力! ゴッドインフィニティ・キャノン!」
金太郎の発声と同時に〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉の口元から、先ほどの倍はありそうな黄金と虹色のエネルギー波が放出される。
一発目の『ゴッドインフィニティ・キャノン』によって弱っている〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉に、さらに強力な全力全開の『ゴッドインフィニティ・キャノン』が直撃した。
「グギャアァアアアアアアアァ……!」
まるで世界の破滅をイメージさせるような恐ろしい断末魔をあげる〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉。
金太郎と飛鳥、そして竜崎──さらには他の仲間たちも皆、固唾を飲んでその様子を見守っている。
二発目の『ゴッドインフィニティ・キャノン』を食らった〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉は、黄金と虹色のエネルギーの中で、激しくうごめきながら悶え苦しんでいる。
しばらくすると〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の身体に異変が発生し始めた。これまで戦ってきた王将モンスターたちと同じように、〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の身体が少しずつ光の粒子に変化しながら、空中へと拡散し始めているのだ。
「やったのか!?」
将角の声が辺り一帯へと大きく響き渡る。
そして、消えていく〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の中から、ついに竜崎が生み出した怨念の意識が漏れ始めた。
「グォオオオオオオ……⁉」
悲しみ、恨み、怒り、憎しみ──。
あらゆる負の感情に満ちた意識も、つぎつぎと粒子に変化しながら、煙のように空中へと流れ、拡散していく。
寄生先を失った悪意が苦しみ悶えながら消滅していく過程で、ついに竜崎の身体も光の粒子に変化し始めた。
「王牙⁉」
思わず紅蘭が叫んだ。
自らの両手を交互に眺めながらも、落ち着いて目を閉じる竜崎。
分離してしまった自らの悪意に乗っ取られているとはいえ、やはり〈カオス・ドラゴン〉が消滅するということは、自分の本体も消滅することなのだと確信したのだ。
ただ、これは諦めたのではない。
自らの命運を完全に飛鳥に委ねた瞬間だった。
「……任せたぞ。小娘」
いよいよ竜崎の身体も3分の1ほどが粒子となり空中に流れ出したあたりで、ついに〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉と悪意に満ちた怨念は完全に分離して、世界から消滅しようとしていた。
タイミングを見計らって待ちかまえていた飛鳥が、右手を竜崎のほうへと掲げながら声を張り上げる。
「──ここ! 戻ってきてっ……お願い!」
すると〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の身体が完全に消え去った瞬間に、竜崎の身体に光の粒子が収束し始めた。
「成功……したの⁉」
不安そうに言葉を口にする紅蘭。
「……ええ。うまくいったと思う」
安堵の表情を浮かべながらも、まだ緊張した様子の飛鳥が答えた。
だが、その直後──
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
まさに地獄を連想させるような恐ろしい断末魔をあげる悪意。
「なっ……なんですって⁉ まだ消滅していない……⁉」
銀子は動揺したような顔で言った。
全員の顔に再び緊張が走る。
竜崎から分離した悪意は、なんと〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉が完全に消滅したにもかかわらず、その場に留まっていたのだ。
途中までは〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉と同様に、粒子となって分解していた悪意だったが、寸前のところで消滅を回避していた。
「宿主がなくなっても、まだ消えないとか……とんでもない執念だね、まったく!」
あきれた様子で歩夢が皮肉を口にした、その時だった────
「三度目の正直だ! 消え去れ──ゴッドインフィニティ・キャノン!」
響き渡ったのは金太郎の声。
その声に反応して、全員の視線が金太郎へと集まる。
そこには右の掌を悪意の怨念体へと向けて構える金太郎の姿があった。
さらに、そのすぐ左脇にいた〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉の口元には黄金と虹色のエネルギーが収束し始めている。
「金太郎……!」
「……金太郎さん!」
将角と響香が金太郎の名を叫んだ。
ほかの仲間たちも皆、金太郎と〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉に期待の眼差しを向けていた。
黄金と虹色のエネルギーは、すぐに〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉の口元から悪意の怨念体へと向けて放たれた。
波動砲のようなエネルギーの光が、怨念体を捉える。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
直撃した『ゴッドインフィニティ・キャノン』の中で、塵となって消えていく悪意の怨念体。
「今度こそやったのか……?」
将角は注意深く様子を伺いながら、状況を確認する。
「ああ、そのようだな」
将角に言葉を返したのは竜崎だった。
辺り一帯が静まり返る。
「終わっ……た」
上方を仰ぎながら、金太郎が安堵の言葉をつぶやいた。




