第百八十三話「最後の作戦」
「グガァアアアアアアッ……!」
まるで怯えるように奇声を上げた〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉。その瞳に映った〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉が持つ得体のしれない可能性に恐怖したのだ。
無言のプレッシャーを放つ金太郎の前に降り立った〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉から、とてつもない熱量を持った黄金のエネルギーが放出されている。
その圧に耐え切れなくなった〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉が、怒り狂ったように金太郎に襲いかかろうとする。
しかしその暴走は竜崎によって止められた。
「おい、小僧! やるならさっさとやれ!」
金太郎の方を向き、怒鳴りつけるように声を張り上げる竜崎。
そのまま竜崎は〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の動きを封じるべく、さらに激しい連撃を叩き込んでいく。
「グルゥウウウウッ……⁉」
竜崎が邪魔で思うように動けない〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉は、苛立つような声を漏らした。
竜崎の攻撃は、相変わらず〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉に決定的なダメージを与えることはできずにいるが、攻防において遅れを取っているわけではない。むしろ攻撃を叩き込んでいる回数が多いのは、竜崎の方である。
その様子をハラハラとした気持ちで見守っている一同。
思わず声を上げたのは飛鳥だった。
「金ちゃん……!」
「金太郎さん!」
紅蘭も飛鳥に続き、その名を叫ぶ。
たったひとりで〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉を食い止めている竜崎が心配でならないのだ。
金太郎の視界では、竜崎と〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉が激しいバトルを繰り広げている。
戦いの動向を観察するように、落ち着いた様子で眺めていた金太郎が、ゆったりと右手を前方へと掲げた。
その視線が捉えているのは、無論〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉である。
そして金太郎は、力強く言葉を口にした。
「──ゴッドインフィニティ・キャノン!」
直後、金太郎の前にいた〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉の口もとにエネルギーが集約し、それは巨大な黄金の波動砲となって〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉へと放たれる。
また通常の『インフィニティ・キャノン』と違って、黄金に加えて虹色のエネルギーが混じっている『ゴッドインフィニティ・キャノン』。それは周囲にも虹色の火花のようなものを発生させていた。
圧倒的な熱量を持った『ゴッドインフィニティ・キャノン』が〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉へ襲いかかる。
巨大なエネルギーが向かってくるのを確認した竜崎は、最後の土産に〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉に強烈な一撃を叩き込んでから、その場を離れた。
竜崎によって動きを封じられた〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉は、その一瞬の硬直によって『ゴッドインフィニティ・キャノン』を回避することができずに、そのまま直撃──。
「グギャァアアアアアアアッ!」
苦しそうな雄たけびを上げる〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉。
黄金と虹色のエネルギーが〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉の身体を包み込むと、バチバチと虹色の火花が激しさを増していく。
そのたびに〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉は、より苦しそうな悲鳴を上げている。
「や……やったのか……⁉」
言葉を漏らしたのは将角。
ほかの一同も固唾を飲んで見守っている。
竜崎も避難した先で、息を切らせながら、その様子を眺めていた。
「大丈夫……王牙⁉」
真っ先に竜崎のもとへ駆け寄ったのは紅蘭である。
「ああ……。問題ない。それよりも……」
竜崎の視線は〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉を捉えたままだ。
そこへ合流した金太郎と〈ゴールドドラゴン・リオール=ゴッドインフィニティ〉。合流するや否や、金太郎が竜崎に声をかける。
「おい。大丈夫だったか、竜崎」
声で金太郎の存在に気づいた竜崎は、彼に憎まれ口を返す。
「……ふん。貴様に心配される覚えなどない」
「なんでおまえが、そんなに偉そうなんだよ……」
呆れた様子で返事をする金太郎。
竜崎は金太郎のツッコミを軽くあしらい、本題に入る。
「今更、性格は変えられん。諦めろ。それより……あれでヘルゲート=ヘブンズを倒しきれるのか?」
「……どうかな」
金太郎は〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉を見つめながら、そう答えた。その顔には、少し緊張が見てとれる。
その様子を見た竜崎が、念を押すように提案する。
「不安要素があるなら、もう一回今のヤツをお見舞いしておけ。確実に消滅させておかねば、せっかくのチャンスを棒に振ることになるぞ」
「……」
すぐには答えず、何かを考える金太郎。
金太郎は十分に熟考してから、竜崎にひとつの疑問をぶつけた。
「……あのドラゴンを消滅させた場合、おまえはどうなるんだ?」
「……」
逆に黙り込んでしまった竜崎に、金太郎は少し語尾を強めて答えを求めた。
「なんとか言えよ!」
「……余計なことは気にするな。どちらにしても、あの化け物を消し去らねば、地球も人々も破滅を迎えることになる」
金太郎は、答えをはぐらかした竜崎の言葉から、自分の直観は正しいのだと確信する。
「やっぱり、あれを消滅されたら、おまえも消えるんだな?」
「……自分で蒔いた種だ。もう覚悟は出来ている」
竜崎の気持ちに納得がいかない金太郎は、食ってかかるように言葉を荒げた。
「どうして、ここで諦めてんだよ⁉ だったら……なんでさっきまで必死に戦ってんたんだ! じゃあ自害すれば簡単だっただろ⁉ でも、おまえはそうしなかった──死ぬのが怖かったからだ!」
「……ああ、そうだ。我とて死ぬのは怖い。だから最後まで醜く生にすがって戦ったまでだ」
落ち着いた様子で淡々と語る竜崎の襟もとをつかみ、大声を張り上げて怒鳴る金太郎。
「だったら簡単に死を選ぶなよ! 醜い……? 生にすがることが? ふざけんな! 死に逃げるなよ……! 生きることを……諦めるな!」
だが竜崎も引き下がらない。自らの価値観をさらけ出すように、感情をむき出しにして反論する。
「さっきから聞いていれば……他人事のように……うわべだけの綺麗ごとで語るな! 状況を考えろ! 我が生きようとすることで、多くの不幸を生み出してしまうかもしれんのだぞ⁉ 失敗すれば……きさまらだって──」
竜崎の見たことがない側面を見て、困惑する紅蘭。
「ちょっと……王牙! 冷静になって……! ケンカしないで! 金太郎さんも……」
しかし金太郎も紅蘭の言葉など耳に入らない。さらに金太郎は、自分の意見を真正面から竜崎にぶつける。
「だったらなんだよ⁉ 最初からおまえを犠牲にして世界を救うつもりだったなら、わざわざ俺はこんなところまで来てねぇよ! 俺は……そんな中身のない正義の味方ごっこに興味なんかない!」
金太郎は眉間にしわを寄せながら言葉を続けた。
「俺がここに来たのは、おまえを助けたかったからだ! それ以上でも、それ以下でもない! ……見くびるな!」
金太郎の本気の目を見て戸惑う竜崎。
「だが……それだって、きさまのエゴだろう……!? きさまの立場からすれば、我ひとりの命と全人類の命運を天秤にかけたとき、どっちが大事かなど……考えるまでもないだろうが!」
「その考え方がムカつくんだよ……!」
かみ合わない金太郎と竜崎の言い合いがエスカレートしていたとき、飛鳥が話に加わってきた
「……ねぇ。あのドラゴンの中にある邪悪な意思だけを消滅させることが出来ればいいんでしょ?」
飛鳥の乱入で、落ち着きを取り戻す金太郎と竜崎。
先ほどまで金太郎とのやり取りでヒートアップしていた竜崎は、いちど深呼吸してから答えた。
「もちろん、ヘルゲート=ヘブンズの中に入っている悪意だけを消滅させることが出来れば、我が消えることはないだろう。だから我もギリギリまで戦っていたのだ。だが──」
竜崎の言葉が続く。
「──もはや我でも太刀打ち出来んほどの力を得てしまったヘルゲート=ヘブンズを相手に、そんな悠長なことは言ってられん。さいわい、その小僧が超神化を超えた力を手に入れたことで、ヘルゲート=ヘブンズ……いや、我が生んでしまった悪意を確実に始末できるチャンスが訪れたわけだ。だったら淡い希望にすがってリスクを負うよりも、手堅い未来の救済を選ぶべきだと我は言っておるのだ」
すると金太郎も冷静なって竜崎に言葉を返した。
「俺にだって、おまえが言っていることはわかる。おまえが俺たちや地球のために、言っていることもわかっているんだ。でも……それでも俺は、おまえを助けたいんだよ」
竜崎も理屈では金太郎の好意を理解している。しかし自らが犯した過ちに対する責任を取らなければならないという使命感が、それを受け入れることを許さないのだ。
だから自分の主張は変えることなく、あくまで〈カオスドラゴン・ヘルゲート=ヘブンズ〉を始末して欲しいと、金太郎へ頭を下げてお願いする竜崎。
「……頼む、小僧。やってくれ」
「王牙……あなた……」
震えながら言葉を口にした紅蘭。
紅蘭も本当は竜崎が助かるなら、助けられる方法を模索したいと感じているが、自分たちの都合だけで他人を巻き込むわけにはいかないという気持ちから、彼の言葉を否定できずにいた。
「……許せ、紅蘭。我にはアレを止める責任がある」
そう竜崎が口にした、その時だった。
「────方法はあるわ」
全員の視線が向いた先──
そこにあったのは、凛々しい表情をした飛鳥の姿だった。




