第2話 神子さまは記憶喪失らしいです。
「教育が至らず、失礼いたしました。」
もふ耳お姉さんが駆け寄ってきて、深々と頭を下げる。もふ耳少女たちもお姉さんの手によって、頭を下げさせられている。
(いや、そんな、たぶん俺が何かしてしまったのかも……)
「あの、頭を上げてください。」
お姉さんに続いて、2人もゆっくりと頭を上げる。もふ耳少女たちは、すでに半泣きになっていた。
「ごめんなさい。何かおれ……いえ、私が何かしてしまったのかもしれません。」
(ここは容姿に合わせて、それとなく話したほうが丸く収まるだろう。)
「いえ、私の教育が至らず、申し訳ありません。」
また深々と頭を下げられそうだったので、俺はそれを制止した。
「待ってください。訳を話してもらえませんか?」
普通に言ったつもりだったのだが、もふ耳お姉さんが目を丸くして驚いているようだった。
(何か変なことを言ったのか……?)
「神子さま、もしかしてご記憶がないのでは?」
「リタ、お医者さまを!」
リタと呼ばれた青髪もふ耳少女は頷くと、一瞬でドアから駆け出していった。
「神子さま、こちらへ。」
もふ耳お姉さんに促され、ベッドに腰掛ける。正確にいうと、踏み台がないとベッドに上がれない俺は、お姉さんに抱き上げられ座らせてもらった。
「神子さま、失礼かと存じますが……いくつか質問させていただきますね。」
(夢なのに、なんか深刻そうな展開だな……)
もふ耳お姉さんの真剣な顔つきに、こちらまで緊張してしまう。水色髪の少女は目を潤ませ、お姉さんの後ろに隠れながら、ちらちらと様子を窺っている。
「まず、昨日お倒れになったのは覚えていらっしゃいますか?」
(倒れたって?いや、ベッドに倒れこんだ記憶はあるけど、この、今の姿の俺がってことだよな……)
沈黙を不可と受け取ったのか、お姉さんは質問を続けた。
「では、高熱でうなされていたのは?」
(高熱で寝込んでいたのか……どうりで、寝巻きが少し湿っているはずだ。)
もふ耳お姉さんが「失礼いたします。」と言うと、俺の額にお姉さんの額が当てられた。俺の切り揃えられた前髪が少し目にかかる。不意な出来事に、俺はどぎまぎしてしまった。
(顔が……ち、近い。もふ耳も……何か、やけにリアルだな。)
「熱は完全に下がっているようですね。顔が少し赤いですが……」
お姉さんは、ほっとした様子で額を離した。
「私の名前はわかりますか?」
(もふ耳お姉さんの名前?それは是非とも知りたい。)
顎に手を当て、何かを考え込むように下を向くお姉さん。水色髪少女のもふ耳がピクピクと反応し、彼女が後ろを振り向くとドアの前に人影が現れた。
「カリーナさん、連れてきました!」
(もふ耳お姉さんは、カリーナさんというのか!よし、覚えた。)
青髪の少女リタが、白髪交じりの『もふ耳爺さん』を引き連れて戻って来た。
「神子さま、お加減はいかがかの?」
もふ耳爺さんは、口元の伸びた白い髭を触りながら尋ねてきた。
「私は、特に問題ないのですが……」
「神子さま、ちょっと失礼しますの。」
もふ耳爺さんは俺の右手をとって、手のひらを少し浮かせて合わせると「ふむ……」と言って、手を離した。
「昨日のことは覚えているかの?」
(カリーナさんが、もふ耳爺……いや、もふ爺に会釈しているということは、きっと偉い人なのかもしれない。)
俺は当たり障りがないように、話しを合わせようと試みる。
「いぇ……ベッドに倒れこんでからの記憶が曖昧で……」
「そうかの。自分の名前と歳はわかるかの?」
もふ爺がつぶらな瞳で見つめてくる。何というか、もふ爺はご当地キャラクターとかにいそうな感じだ。もふ耳がピンと上向きに立っている姿も、なぜか可愛く思える。
(あ、名前……さっきから呼ばれている「巫女さま」は俺の名前じゃないのか?年齢も相当若そうだし……)
頭の中でごちゃごちゃと考え込んでいると、もふ爺がカリーナさんに何かを話しているようだった。もふ爺が話し終えると、カリーナさんがこちらに向き直って話し始める。
「神子さま、大変申し上げにくいのですが……現在の状況を鑑みますに、神子さまは記憶喪失かと。」
(俺が記憶喪失だって!?そういう認識になってしまうのか……まぁ、冷静に考えればそうだよな。俺、何もわからないし。)
「何かあったらまた来るでの。」
もふ爺は開けっ放しの扉に向かって歩き出した。その姿を少し見送ると、カリーナさんが俺の顔を見た。
「昨日の高熱が影響しているのかもしれません。今日はゆっくりお休みになってください。」
カリーナさんは少し悲しそうな顔をして、リタと水色髪の少女に「お着替えと朝食を」と指示出した。




