第3話 メイドの紹介
「では、改めてご挨拶させていただきますね」と、カリーナさんは俺に気を遣って、自己紹介してくれるみたいだ。
「神子さま、私はカリーナと申します。メイド長を務めておりますので、何なりとお申し付けくださいませ。」
カリーナさんはメイド服のスカート裾をつまみ、軽く持ちあげると会釈した。俺もつられてお辞儀する。顔を上げるとリタが、俺が今着ている白のパジャマと色違いの替えを持って、カリーナさんの横に立っていた。まるで忍者のようなリタの素早さには、さっきから驚かされている。
「この子はリタと言います。まだ見習いですが、神子さまと歳も近く、身の回りのお世話をさせていただいております。もう一人の子は、リタの双子の妹で『リト』と言います。2人とも神子さまを慕っておりますので、お気軽にお声がけくださいませ。」
(水色髪のもふ耳少女は、リトというのか!活発なリタと違って、控えめな感じだったな。)
カリーナさんが「失礼いたします。」と、俺をベッドから降すために抱きかかえようとした。だが、俺は何度も申し訳ないと思って丁重に断ると、カリーナさんはベッド脇に踏み台を用意してくれた。
「それでは、神子さま。お召し替えのお手伝いをさせていただきます。」
ベッドから絨毯へ降りた俺に、リタがさっと寄ってきた。リタが着替えを手伝ってくれるようだ。さっきのこともあってか、少し緊張した面持ちで俺が着ている服を慎重に触れる。いくら今の俺が幼女の姿でも……少女に裸を見られるのは何だか気恥ずかしい気もする。
(いや、待てよ。……俺が自分の裸を見ても、問題があるんじゃないのか?)
これは試されているのだ。きっとそうに違いない。俺は意識を無にして、着替えをいかに早く終わらせるか、に集中した。しかし、そういう時に限って上手くいかないものだ。つるぺたの胸が目に入ってしまい、思わずぎゅっと目を瞑る。
「神子さま、どうかされましたか?」
焦りが混じったリタの声に、俺はそっと目を開けた。何か粗相をしてしまったのではないか、と不安そうなリタの表情が目に入り、俺はやってしまったと思った。
「何でもないの。ただ睫毛が目に入ってしまって……」
リタに変な誤解を与えないように、俺は適当な言い訳をする。
「それは大変ですね。どちらの目ですか?」
この言い訳が良くなかったのか、リタの海色の瞳が近づいてくる。直視できずに少し下を向くと、同じ年頃なはずの、リタの胸の膨らみに気がついた。
(あれ?俺の発育が遅いのか……)
「いや、気のせいだったみたい……」
自分の胸元に手を当てそうになり、はっと気がついて両手を目の前で振った。
「そうですか。もし何かありましたら、おっしゃってくださいね!」
無事着替えが終了したのと、俺に問題なかったのが嬉しかったのか、リタの表情がパァーと明るくなった。
「リタ、ありがとう。」
俺がお礼を言うと、リタは「とんでもございません。」と、はにかんだ。
――カラカラ
「失礼しますぅ……」
リトが自分の身長と同じくらいのワゴンを押して、部屋にゆっくりと入ってきた。こちらから見ると、ワゴンがひとりでに動いているようにも見える。そして、もふ耳が時折、ぴょこぴょこと見え隠れしていた。
(なんて愛らしいんだ……もふもふしたい。)
俺はすぐにでも触りたいと思ったが、さっき何か訳ありの様子だったので、理性を総動員させてぐっと堪える。
「神子さま、朝食をお持ちいたしましたですぅ。」
リトがアンテークな白い丸テーブルの前でワゴンを止め、こちらを見て一礼する。それを確認したリタがすかさず、「神子さま、こちらへどうぞ。」と俺の手をとってソファへ案内してくれた。
(リタは王子様要素があるのか?……どちらにせよ可愛い。)
「神子さま。申し訳ありませんが……私は所用が出来ましたため、失礼させていただきます。もし何かありましたら、すぐにお呼びくださいませ。」
俺がソファに座るとすぐに、カリーナさんはそう言って軽く会釈し、急ぎの用事なのか早歩きで部屋を退出した。どうやらカリーナさんは、リタのような忍びスキルは持ち合わせてないらしい。
「神子さま、本日は体調も万全ではないと思いまして、シェフが軽めの朝食を作ってくれたですぅ。」
リタがテーブルにスープ皿を置くと、いい匂いがした。心なしかお腹も減っているように感じる。
(夢って、こんなにリアルだったか……?)
俺はだんだんとこの夢に疑念を抱き始めた。だが、この『もふパラダイス』にいられるなら、何が起きようとも本望だ。いや、まだ肝心のもふ耳に触れていない。夢ならまだ醒めないでくれ――




