閑話 聖女候補セレスティア
神聖アルカディア教国。
聖都アークレシア
大神殿付属孤児院
昼下がり、一人の少女が子供達と話していた。
セレスティア
長い金髪
透き通る青い瞳
身長165cm前後
柔らかな雰囲気
純白の聖女服を纏う聖女候補
「怪我はない?」
優しい声、目線を合わせながら話している。
その周囲には人間の孤児だけではない、獣人の子供もいた。
奴隷商人から保護された子供、身寄りを失った子供、教国では珍しい光景だった。
セレスティアは区別しない。
人間も、亜人も同じだった。
だからこそ現在の教国ではあまり良い立場ではなかった。
「セレスティア様」
神官が駆け寄る、少し慌てていた。
「教皇猊下がお呼びです」
セレスティアは表情を曇らせる。
理由は分かる。
また叱られる、そう思った。
教皇執務室
重厚な扉が閉まる。
室内にはレオニスだけ。
祖父、そして教皇。
老人は書類から顔を上げる。
「孤児院へ行っていたそうだな」
低い声。感情は見えない。
セレスティアは黙って頷く。
「駄目ですか」
「問題はそこではない」
レオニスは書類を閉じる。
静かな音
それだけで緊張感が増す。
「また獣人の子供を庇ったそうだな」
セレスティアが顔を上げる。少し怒っていた。
「庇ったわけではありません、いじめられていたんです、だから止めました」
真っ直ぐ答える。間違っていないと思っている。
実際間違っていない、だがレオニスは首を横に振る。
「その行動を表でやるな」
冷たい言葉だった。
セレスティアの表情が強張る。
「どうしてですか」
声が少し強くなる。
「同じ人間ですよ」
「違う」
即答だった。
セレスティアが息を呑む。
レオニスは続ける。
「お前は聖女候補だ、お前の言葉は個人の意見ではない教会の言葉になる」
室内が静まり返る。
セレスティアは俯かない、むしろ反発する。
祖父のこういうところが嫌いだった。
「それでも間違っています」
レオニスの視線が向く。
セレスティアは続ける。
「獣人も、ドワーフも、魔族も皆生きています」
「なのにどうして差別するんですか」
真っ直ぐな問いだった。
若さゆえの理想論。
だがそれこそがセレスティアだった。
長い沈黙。
レオニスは窓の外を見て答えない。
しばらくして低く呟く。
「世界はお前が思うほど優しくない」
セレスティアは反論する。
「だから変えるべきです」
即答だった。
レオニスの眉が僅かに動く。
孫らしい、本当に昔から何も変わらない。だがレオニスは表情を変えない。
枢機卿団、大神官たち、貴族たち、その多くは保守派。
彼らはセレスティアを次代の聖女として望んでいる。
だがそれは従順な聖女である場合だけ、穏健派の聖女など望んでいない。
レオニスはそれを知っていた。
「控えろ」
静かな声、しかし厳しい。
「聖女候補である以上、自分の立場を考えろ」
セレスティアは唇を噛む。
納得できない、でも祖父は聞いてくれない昔からそうだった。いつもこうだ。
やがてセレスティアは踵を返す。
「失礼します」
声は硬い、明らかに怒っていた。
扉が閉まると部屋に静寂が戻る。
誰もいなくなった執務室
レオニスは深く息を吐いた。珍しく疲れた顔になる。
そこへ秘書のクロードが入ってくる。
「また怒らせましたか」
苦笑混じりだった。
レオニスは答えない。
しばらく沈黙、やがて小さく呟く。
「まだ若い」
クロードは理解していた。
レオニスは孫を守ろうとしている。
今の教国で亜人擁護を公言する聖女候補がどうなるか。
いくら考えが違うとも孫を亡き者にしたいとは思わない、だから叱る、遠ざける。◇
窓の外
夕暮れの聖都
セレスティアはまだ気付いていない。
この世界の厳しさも、何もかもを。
そして遥か南方。
黄昏の箱庭という存在がそんな二人の運命を大きく変えることになることも。
今はまだ誰も知らなかった。




