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閑話 若獅子の初恋

黄昏会戦が終戦して戦後処理が行われているある日

グラディス辺境侯国

首都グラディス


広場には多くの人々が集まっている。


人間、獣人、商人、冒険者。


かつてのグラディスでは考えられなかった光景だった。


黄昏の箱庭との交易が始まり、国家そのものが少しずつ変わり始めている。


そんな中一人の青年貴族が広場を歩いていた。


エドワード・アシュクロフト

アシュクロフト子爵家嫡男

二十四歳

茶色い髪

黒い瞳

身長182cm

鍛えられた身体

貴族らしい整った顔立ち

真面目、誠実


騎士としての才能もあり若手貴族の中でも将来を期待される人物。


欠点は少ない、ただ一つ恋愛経験がほぼ無かった。


「黄昏の箱庭の外交団が到着したらしいぞ」


広場でそんな話が聞こえてくる。


エドワードも知っていた、噂は聞いている。


最近は辺境侯国内でも知らない者はいない。


「一度くらい見てみたいな」


そんな軽い興味だった。少なくともこの時は。



午後

侯城

応接室


エドワードは父親に呼び出されていた。


「お前も同席しろ」


父がそう言ったからだ。

若手貴族として学んでおけ、そういう意味なのだろう。


応接室へ入ると既に数人いた。


侯爵、重臣たち、商人たち、そして二人の女性。


そこでエドワードは足を止めた。


一人は分かった。


噂通り、吸血鬼の女王リリアーナ。


美しい、どう考えても危険、笑顔なのに怖い、それが第一印象だった。


そして、もう一人リリアーナの少し後ろ。


銀髪ウェーブ

整った顔立ち

妖艶な雰囲気


しかしどこか知的、背筋は真っ直ぐ無駄な仕草が一切ない。


書類へ視線を落としている。それだけなのに目を奪われた。


「第三軍団外交担当」


リリアーナが紹介する。


「ヴィオラよ」


ヴィオラ


その名前が初めて耳に入る。


会談が始まるとエドワードは真面目に聞いていた。


聞いていたはずだった、気付けば視線がそちらへ向く、ヴィオラは凄かった。


話し方、資料整理、交渉術、相手の反応を見る目、何もかも洗練されている。


若い貴族たちが見栄を張る、商人達が利益を求める、重臣達が駆け引きをする。


だがヴィオラは笑顔のまま処理していく。自然に、無駄なくあまりにも鮮やかに。


エドワードは思った。


凄い。と。



会談終了後

参加者たちが帰っていく。


エドワードも帰ろうとしていたが少しだけ勇気を出した。


「その……」


ヴィオラが視線を向ける。

エドワードの心臓が跳ねた。


まずい、思った以上に近くで見ると綺麗だ。


「何かしら?」


穏やかな声だった。

エドワードは慌てる。


「本日の交渉見事でした」


何を言っているんだ。自分でもそう思う、もっとまともな会話があるだろう。


しかしヴィオラは微笑んだ。


「ありがとうございます」


それだけだった。それだけなのにエドワードの頭は真っ白になった。


当然ヴィオラは一瞬で気付いていた。


辺境侯国の若手貴族

真面目、誠実、将来有望そして非常に分かりやすい。


好意も、緊張も、全部、吸血鬼であり外交官でもあるヴィオラには見えていた。


だからと言ってどうこうする気もない。


ただ少し面白いとは思った。



数日後

再び会談

今度は交易関連

エドワードも参加している。何故か最近やたら参加している。


父親は喜んでいた。やる気が出たと思っている。


半分正しい、半分違う。



会談終了後

エドワードが資料を運んでいると後ろから声が掛かった。


「お疲れ様です」


ヴィオラだった。


エドワード固まる。瞬時に、完全に。


「はい!」


声が裏返った。

ヴィオラは少しだけ笑う。


「最近よく参加されていますね」


「そ、それは」


答えられない、本当の理由を言えるわけがない。


ヴィオラは分かっている。全部。でも言わない、その方が面白いから。


そしてヴィオラは少しだけ距離を縮めた。


「助かっていますよ」


微笑む。


「エドワード様は優秀ですから」


その一言でエドワードは停止。

思考停止、完全停止。


ヴィオラはそのまま去っていく。

残された若手貴族はしばらく動けなかった。



同じ頃

侯城外

リリアーナがその様子を見ていた。

隣にはノワール。


リリアーナが紅茶を一口飲む。


「落ちたわね」


断言、ノワールも頷く。


「落ちましたね」


満場一致だった。


一方

問題のヴィオラ

本人は平然としていた。


セレスが尋ねる。


「気付いていますよね?」


ヴィオラはわざとらしく首を傾げる。


「何が?」


「エドワード様です」


「ああ」


即答。


やっぱり最初から気付いていた。


「良い方ですよ」


ヴィオラはそう言った。


「真面目ですし、努力家ですし、将来性もあります」


かなり高評価だった。

しかしセレスは聞く。


「なら何故そのままなんです?」


ヴィオラは少し考える。そして微笑んだ。


大人の余裕を感じる笑み。


「だって」


そこで窓の外を見る。

庭園ではさっきの一言が効き過ぎたらしい、エドワードがまだ立ち尽くしていた。


ヴィオラは小さく笑った。


「今のままでも面白いじゃない」


セレスは理解した。

この人絶対に気付いていて遊んでいる。



そして後に、エドワード・アシュクロフトは、黄昏の箱庭のため、ヴィオラのため、いや本人は否定するだろうがどう見てもヴィオラのために様々なことへ身を投じていく。


その時の彼はまだ知らない。

自分が命懸けで戦果や実績を上げても、ヴィオラが相変わらず涼しい顔で。


「ありがとうございます」


と微笑むだけであることを。

明後日から第五章に入りますのでよろしくお願いいたします。

一日三話投稿にしていく予定です。

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