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第十八話 教国の影

神聖アルカディア教国

人類圏最大の宗教国家

大陸中央部に位置し数多の属国、同盟国、信徒国家を従える巨大勢力。


白亜の城壁

天を突く尖塔

黄金の装飾

神の名を讃える鐘の音


外から見ればそこは人類文明の中心だった。

だが権力の中心にいる者達が見ている世界は少し違う。



教皇庁最上階

最高評議会議場

巨大な円卓が置かれた荘厳な会議室

窓の外には教都の街並みが広がっている。


その中心席、一人の老人が座っていた。


教皇レオニス

白髪を後ろへ流し法衣を纏う老人。

年老いているしかし衰えてはいない。


背筋は真っ直ぐ、瞳には鋭い知性が宿っている。長い年月、教国を率いてきた支配者の風格があった。


その周囲には五聖、そして枢機卿を始めとした教国重臣達、人類圏最高権力者達が集まっている。


重臣達の席を見ると、保守派、保守派、また保守派。


穏健派の姿もある、しかし少ない、発言力も弱い。


今の教国は保守派優位、それが現実だった。


やがて会議室の扉が開く。

静かな足音、入室したのは一人の男だった。


教皇秘書クロード


年齢は教皇とさほど変わらない。

整った身なり、隙のない動き、長年レオニスを支えてきた側近である。


クロードは教皇の前まで進むとそして恭しく頭を下げた。


「南方に関する報告です」


そう言って一冊の報告書を差し出した。


レオニスは無言で受け取りページを開く。


室内は静まり返っている、誰も口を開かない。

紙をめくる音だけが響く。


数分、重い沈黙が続く。


やがてレオニスが報告書を閉じた。


静かな音だった。だが、その音だけで全員の意識が集まる。


「思ったより早かったな」


低く落ち着いた声。それだけだった。


しかし、会議室の空気が変わる。


資料は重臣達にも配られていた。


そこには南方同盟成立、獣王連邦、鉄峰ドワーフ鉱山国、竜人山岳王国、夜霧魔族領、深森エルフ自治領、黄昏の箱庭、六勢力による包括的同盟形成。


そう書かれている。


当然保守派は面白くない。一人の枢機卿が不快そうに言った。


「異種族どもが結束したようですな」


別の重臣も頷く。


「放置すべきではありません」


「危険です」


「看過できる問題ではない」


次々と声が上がる。皆同じ意見だった。


異種族国家の結束


しかもその中心には黄昏の箱庭がいる、警戒しない理由がない。


その中で一人の穏健派枢機卿が口を開いた。


「ですが」


少し緊張した様子だった。


「現時点で黄昏の箱庭は侵略行為を行っていません、交易と同盟を結んだだけです」


理性的な発言だった、だがすぐに別の保守派重臣が遮る。


「甘い」


冷たい声。


「異種族を信用するのですか?」


「問題は起きてからでは遅い」


穏健派は押し黙る。反論できない、今の教国では多数派ではないからだ。


室内の空気は完全に保守派寄り、レオニスは何も言わない。


ただ聞いている、黙って全員の意見を。


そしてようやく一人の男が立ち上がった。


大司教エーデルハルト

五聖

保守派の中心人物

教国随一の知将

白の法衣

厳格な顔立ち

鋭い眼光


その一挙手一投足に誰もが注目する。


エーデルハルトは淡々と資料を開いた。

感情的ではない、冷静だった。


だからこそ恐ろしい。


「問題は南方同盟そのものではありません」


会議室が静まる、皆が耳を傾けた。


「危険なのは黄昏の箱庭です」


そう言って一枚の資料を机へ置く。

そこには黄昏の箱庭主要メンバーの名前が並んでいた。


エーデルハルトは続ける。


「獣人、ドワーフ、竜人、魔族、エルフ、本来ならまとまるはずのない勢力です」


その言葉には説得力があった。事実だからだ。


「しかし実際にはまとまった、何故か」


そこで資料を閉じる。


「黄昏の箱庭が存在するからです」


誰も反論しない、完全にその通りだった。


エーデルハルトは教皇を見る、そして進言する。


「教皇猊下、まずは意思を確認するべきかと」


レオニスは何も言わない、続きを促す。


エーデルハルトは地図を広げた。


黄昏の箱庭、その隣にはエルドラ公国。


人類圏有数の奴隷国家、奴隷貿易によって栄える公国。


教国との繋がりも深い。


「エルドラ公国を使いましょう」


静かな声だった。


「まず接触、敵か味方かそれを見極める、従う意思があるなら問題ありません」


そこで言葉を切る、それ以上は語らない。だが誰もが意味を理解していた。


長い沈黙。


全員が教皇を見る。

レオニスはしばらく考えていた。表情は変わらない、賛成とも反対とも分からない。


やがて老人は口を開く。


「探れ」


短い。


それだけ、しかし会議室の全員が背筋を伸ばした。


教皇の決定だった。

レオニスはさらに続ける。


「今はまだ見えん」


低い声、重みがある。


「ならば見る」


再び沈黙。


誰も異論を挟まない、これで決定だった。


エルドラ公国を通じた接触

黄昏の箱庭の調査


方針は固まった。



会議終了。

重臣達は次々と退席していく。

五聖も枢機卿達も。


だが一人だけ薄く笑っている男がいた。


ダミアン・ヴェルグ

保守派最大派閥の実力者

枢機卿


敬虔な信徒として知られている。


だがそれは表向きだった。


信仰などどうでもいい、教義も同じ、彼にとって重要なのは権力だけだった。



その夜

ダミアンの私室

豪華な調度品、高価な酒、厚い絨毯、信仰者というより貴族の部屋だった。


窓際でワインを揺らしながらダミアンは静かに笑う。


対面には腹心がいた。


「エルドラ公国へ連絡しろ」


腹心が頭を下げる。


「どのような内容で」


ダミアンはワインを口へ運ぶ、そして笑った。


醜い笑みだった。


「友好使節だ」


言葉だけ聞けば問題ない。だが腹心は理解していた。


この男の本心を。


ダミアンは続ける。


「まずは服従を求めろ」


「従うなら利用する、従わないなら価値はない」


冷たい声。人を見る目ではない、道具を見る目だった。


黄昏の箱庭も、南方同盟も、権力闘争の駒でしかない。


ダミアンはそう考えている。


「教皇派も、穏健派も、南方同盟も全て使える」


その瞳には野心だけがあった。



深夜

教皇執務室

室内にはレオニスしかいない、クロードも下がった後だった。


静かな部屋、机の上には報告書。


黄昏の箱庭

南方同盟

黄昏の箱庭の各主要人物の名前


その文字が並んでいる、レオニスは長い間それを見つめていた。


窓の外では夜の教都が眠っている。


やがて老教皇は小さく目を閉じた。


「動き始めたか」


誰へ向けた言葉でもない。独り言。


しかし、何かを知っている者のような響きがあった。


沈黙


そして、静かにゆっくりと報告書を閉じる。


「まずは見極める」


老人は窓の外を見た、遥か南方の空の向こうを。


「希望か」


小さく呟く。


「災厄か」


その答えはまだ誰にも分からない。


だが確実に人類圏もまた動き始めていた。


黄昏の箱庭を巡る物語は新たな局面へ突入する。


第四章完結しましたーー!

ここまで読んでいただきありがとうございます!

さすがに、プライベートとの両立が難しいく、一日六話投稿が難しくなってきてしまいましたm(__)m

第五章構成の為、一日明けてから第五章に入らせて頂きます。

ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが今後ともよろしくお願いいたします!!!

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