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第十六話 南方会談

黄昏の箱庭

建国以来、最大規模の外交会議が開かれようとしていた。


王城中央会議場


本来は戴冠式や国家式典で使われる巨大な円形ホール。

高い天井、白い大理石の床、各種族の紋章が刻まれた柱、その中央には巨大な円卓が設置されていた。


席は六つ


黄昏の箱庭

獣王連邦

鉄峰ドワーフ鉱山国

竜人山岳王国

夜霧魔族領

深森エルフ自治領


南方の主要国家が全て揃う。それは歴史上初めての出来事だった。



最初に現れたのは獣王ゴドリックだった。

相変わらず豪快だった。王城へ入るなり大声で笑う。


護衛の数も少ない、本人が強すぎるからだ。

後ろにはガルドの姿も見える。


次に来たのはドゥルガン。

白い髭を揺らしながら入ってくる、朝だというのに微妙に酒臭い。

しかし本人は気にしていない、むしろ堂々としている。


その次。

夜霧魔族領代表、魔王アザゼル。

書類を抱えていた、会議が始まる前から資料へ目を通している。


フィアが小声で言う。


「ちゃんと寝たのかな……」


誰も回答できなかった。おそらく寝ていない。


続いて会場へ現れたのは竜王ヴァルキリア。

白銀の髪、黄金の瞳、堂々たる歩み、まさしく王。

竜人達の誇り、圧倒的な存在感。


しかし入場した瞬間、最初に視線を向けた場所が問題だった。


ラグナに一直線だった。

迷いがない、自然過ぎて逆に分かりやすい。


もう隠す気がない、全然ない。

フィアも察していた。

エルシアも察している。

悠真も察している。

リリアーナも面白そうに見ている。


ラグナだけ気付いていない。完全に。


最後に深森エルフ自治領、自治領代表アルヴェインが現れる。

長い銀髪、落ち着いた雰囲気、長命種らしい静かな威厳、派手さはないだが空気が変わる。

数百年を生きる者特有の存在感があった。


各国首脳も軽く礼を交わす。

ゴドリックですら敬意を示している。

歴史の生き証人、それがアルヴェインだった。


そして。

会場の扉が再び開く。今度は大きく。

全員の視線が集まる。


そこから現れたのは悠真だった。


だが、一人ではない。

後ろに続く人影を見て各国首脳の表情が変わる。


第一軍団長、神狼王フェンリス

第二軍団長、黒竜王ラグナ

第三軍団長、吸血鬼の女王リリアーナ

第四軍団長、蜘蛛の女王ミレイア

第五軍団長代理、エルシア。


黄昏の箱庭最高首脳部、五軍団長全員、


誰一人欠けていない。

ゴドリックが小さく笑う。


「なるほど」


ドゥルガンも頷く。

アザゼルは冷静に観察する。

そして全員が理解した。


黄昏の箱庭は本気だ、単なる友好会談ではない歴史を変えるために来ている。


そう理解した。



着席

静寂

最初の発言は悠真だった。


「本日は集まっていただきありがとうございます」


落ち着いた声、会場全体へ響く。


「まず最初に伝えたいことがあります」


全員が耳を傾ける。


「僕達は戦争のために集まったわけではありません」


間を置く。


「生き残るためです」


静かだった、だが誰も笑わない、誰も軽視しない。


その言葉が真実だからだ。


最初の議題は食糧問題。


ゴドリックが腕を組む。


「獣王連邦は不足している」


率直だった。


「飢餓には至っていない、だが余裕はない」


アザゼルも頷く。


「魔族領も同じです、備蓄は毎年足りません」


今度はアルヴェイン。


「深森エルフ自治領は比較的安定しています、しかし人口を支えるだけで精一杯です」


ドゥルガンが鼻を鳴らした。


「食料はねぇ、だが鉱石なら山ほどある」


その時だった。ミレイアが立ち上がる。


用意していた資料を円卓へ広げる。

緻密な図式、交易案だった。


「獣王連邦は畜産、ドワーフ王国は鉱業と技術、魔族領は薬草と魔導素材、エルフ自治領は森林資源、黄昏の箱庭は農業と流通」


全員が資料を見る。ミレイアは続ける。


「不足を補い合えば全員が得をします」


長い沈黙


やがて、ゴドリックが笑った。


「悪くねぇ」


ドゥルガンも頷く。

アザゼルも賛成する。

第一の合意だった。



次の議題は人口減少。

空気が変わる。


オルフェが資料を配布する。

数字、現実、逃げられない事実。


獣人、減少。

ドワーフ、減少。

魔族、減少。

エルフ、減少。


会場が静まり返る。

アルヴェインが静かに資料を閉じた、長い年月を生きてきた彼だからこそ分かるこれは一時的な現象ではない。


ゴドリックが低く言う。


「俺達だけじゃなかったか」


アザゼルが続く。


「全種族共通の問題です」


ドゥルガンも珍しく笑わない。


重かった、あまりにも。


そこで初めてリリアーナが口を開いた。


今まで黙っていたがその一言で空気が変わる。


「だからこそ連携が必要です」


美しい声だった。

会場の全員が自然と耳を傾ける。


「各国が単独で生き残る時代は終わりました」


静かに、だが断言する。


「情報も、技術も、食料も共有すべきです」


ゴドリックが目を細める。

アザゼルも感心したように見る。

リリアーナは続ける。


「第三軍団は各国との連絡窓口を担当します」


その言葉と共にセレス、ヴィオラが資料を配る。

説明するのはリリアーナ本人だった。


第三軍団長。外交と諜報の統括責任者。


その姿だった。



そして後半

話題は花の賢者へ移る。


獣王連邦、ドワーフ王国、魔族領、そしてエルフ自治領。


全てに残る伝承。


ここでアルヴェインが初めて大きく口を開く。


「興味深い話があります」


全員の視線が向く。

アルヴェインはゆっくり語った。


「私の祖父は」


そこで一度言葉を切る。


「花の賢者を見たことがあると言っていました」


静寂


エルシアの指が震える。

悠真も息を呑む。


今まで全て伝承だった。


しかしこれは違う。

実際に見た人物の証言、アルヴェインは続ける。


「花を持った女性だったそうです」


「各地を巡り、争いを止め、知識を遺し未来へ備えよと言い残した」


会場が静まり返る。


アステリア


もう誰も口には出さない、だが心の中では同じ名前が浮かんでいた。



数時間後

全ての議論が終わる。


そして、歴史上初の南方同盟が成立した。


相互不可侵

自由交易

技術交流

難民保護

共同調査

人材交流


多くの王たちが署名する。

未来へ向けて、種族の存続のために。



会談後の宴

ゴドリックは酒を飲み。

ドゥルガンも酒を飲み。

アザゼルは久し振りの休息に安堵し。

アルヴェインは静かに微笑む。


そしてヴァルキリアは当然のようにラグナの隣へ座っていた。


本当に当然のようにラグナは気付いていない。


ゴドリックが吹き出す。

ドゥルガンも笑う。

リリアーナは楽しそうに眺めている。

エルシアは微笑む。

フィアも察している。

レイナだけが静かに胃を押さえていた。


「どうしました?」


ノワールが聞く。

レイナは遠い目で答えた。


「未来が見えるんです、最悪の方向へ進む未来が……」


ノワールは少し考えた。

そして小さく頷く。


「それは大変ですね」


珍しく同情された。


こうして南方は一つになった。


だがこの同盟の成立を快く思わない者達もいる。



人類圏

神聖アルカディア教国

そして、まだ姿を見せない敵たち。


新しい時代の風は静かに世界を動かし始めていた。


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