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第十一話 竜王ヴァルキリア

空は青かった。

どこまでも、果てしなく。

雲海の上を巨大な黒竜が飛んでいる。ラグナだった。


漆黒の鱗を輝かせながら、大空を悠然と進んでいく。


その背中でフィアは声を上げた。


「高いー!」


鉄峰ドワーフ鉱山国を出発してから半日。

既に景色は完全に変わっていた。


下に見えるのは山、山。そして山。

どこまでも続く巨大山脈、まるで大地そのものが隆起したような世界だった。


獣王連邦の乾いた平原ともドワーフ達の火山地帯とも違う。


ここは空へ最も近い場所。


竜人山岳王国



山々は異様だった。

高い、とにかく高い。


悠真は下を見ながら思う。

黄昏の箱庭で見てきたどんな山よりも高い。

山頂が雲を突き抜けている、場所によっては雪まで積もっていた。


しかし不思議なことに、その近くでは火山が噴煙を上げている。


雪、炎、氷、火


全てが混在していた。

まるで自然法則を無視したような土地。


「凄いですね……」


オルフェも思わず呟く。

学者として興味を引かれているらしい。


「聞いてはいましたが、ここまでとは」


同意だった。

人類が住むには厳し過ぎる。だが竜人達には違うのだろう。


その時だった。


「見えた」


珍しくフェンリスが口を開く。

全員が前を見る。


そして息を呑んだ。


巨大都市、いや、城塞都市、いや、もはや要塞だった。


山そのものを利用して築かれた巨大国家。

断崖絶壁へ張り付くように建つ無数の建造物。


石橋、防壁、塔、天へ伸びる建物。


そして、その最上部。最も高い山の頂上に巨大な城があった。


まるで天に届きそうなほど高い場所。


「天空城塞……」


エルシアが小さく呟く。


その名が相応しかった。



さらに近付く。

すると、城塞全体が騒がしくなった。


「あ」


レイナが頭を抱える、いつもの流れだった。


監視塔、見張り台、兵士達、全員が大騒ぎしている。


相手には申し訳ないが、もはや見慣れた景色となってきた。


巨大な黒竜が飛んできた。しかも一直線に王都へ、竜人から見ても不審者だ。


警鐘が鳴る。

兵士達が動く。

クロスボウ部隊まで配置され始めた。


レイナは遠い目をした。


「だから普通の飛竜を使うべきだったんです……」


もう何度目か分からない愚痴だった。もちろんラグナは聞いていない。



前方

城壁上


一人の竜人が現れる。女性だった。


赤い髪

黄金の瞳

立派な角

巨大な槍


見るからに戦士。

その竜人はラグナを見る。


じっと食い入るように見つめる。


そして叫んだ。


「黒竜だ!!」


声が大きい。驚くほど大きい。


城塞全体へ響いた。


次の瞬間王都全体が騒然となる。


「黒竜!?」


「伝承の!?」


「本当に!?」


「見ろ!」


ざわめきが広がる。

レイナは嫌な予感しかしなかった。



数十分後

悠真達は王城へ案内されていた。

もっとも、案内というより護送だった。


兵士達の視線が凄い。

ほぼ全員がラグナを見ている。


尊敬、憧れ、畏怖


色々混ざっているが本人は全く気付いていなかった。


いつも通り、腕を組み、黙って歩いている。


フィアが耳元で囁く。


「人気者だね」


「知らん」


本当に知らないらしい。



王城最上階

巨大な扉が開く。

重い音が響く。


謁見の間はとにかく広い。

高い天井、巨大な柱、赤い絨毯、左右には竜人たちの騎士。


そして、玉座。


そこにいた。


悠真は息を呑む。

圧倒的だった。


白銀の髪

黄金の瞳

漆黒の角


美しく。そして強い。


一目見ただけで分かる、本物の戦士だ。


竜王


玉座へ座る女性がゆっくり立ち上がる。


その瞬間、空気が変わった。


騎士達が姿勢を正す、側近達が黙る、場の支配権が一瞬で移る。


凄まじい存在感だった。


竜王ヴァルキリア


悠真の脳裏にその名が浮かぶ。


ヴァルキリアは歩き出した。

玉座から降り、階段を下りる。


悠真達へ向かってまっすぐ、一直線に。


悠真は身構える。


外交だ、会談だ、挨拶がある、紹介がある。


恐らくそうだ。

しかし、違った。


ヴァルキリアは悠真の前を通り過ぎた。

フェンリスの前も通り過ぎた。

エルシアもラグナ以外の全員を無視した。


そしてラグナの前で止まる。


数秒の沈黙。


黄金の瞳がラグナを見る。

ラグナも見返す。


その光景を見ながらレイナは祈った。


頼むから、普通の会話をしてくれと。本当に心の底から。


そして、ヴァルキリアが口を開く。


「ラグナ」


低く美しい声だった。


だが、その中には興奮が隠し切れていなかった。


「戦え」


静寂


謁見の間が固まる。

騎士達も固まる。

側近達も固まる。

悠真も固まる。


フィアは吹き出した。


「やっぱり!」


何故か納得していた。


レイナは両手で顔を覆う。


しかし、ラグナは真面目に考えていた。


数秒。

本当に数秒。


そして。


「構わん」


レイナが崩れ落ちた。頭痛が限界だった。


悠真は天を仰ぐ。

会談はまだ始まっていない。

友好交渉もしていない。

紹介状も渡していない。


なのに、決闘が決定した。


ドワーフ王の笑顔を思い出す。


「きっと喜ぶぞ」


あの言葉の意味を今ようやく理解した。


そして竜王ヴァルキリアは、久しぶりに心の底から笑っていた。


「そうか」


黄金の瞳がまるで子供のように輝く。


純粋に、楽しそうに。


「なら明日だ」


こうして、


黒竜王ラグナ

竜王ヴァルキリア


二人の決闘が決定した。


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