↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/82

第十話 炎鉄王

夜明け前

鉄峰都市グランデルは既に目を覚ましていた。


カン

カン

カン


規則正しい金属音が山々へ反響している。

まだ空は薄暗い、太陽も顔を出していない、それなのに鍛冶場の火は燃えていた。


無数の炉、赤く輝く溶鉱炉、火花、煙。


街全体が巨大な生き物のように脈動している。


窓からその景色を見ながら悠真は静かに考えていた。

昨日聞いた話、減少するドワーフたち、奴隷として連れ去られる若者たち、戻らない人々。


アステリアの観測記録に書いてある、あの意味不明だった言葉が今は異様な重みを持っていた。



朝食後

ドゥルガンは悠真達を城の奥へ案内した。

王城というより、巨大な工房だった。


壁には武器、鎧、設計図、試作品。


そこかしこに職人の国らしさがある。

豪華な装飾は少ない。だが積み重ねてきた技術の歴史だけは感じられた。


やがて巨大な扉の前でドゥルガンが立ち止まる。


「見せてやる」


短く言った。


重い扉が開く。


ギギギギギ


鈍い音が響く。


中は広い空間だった。神殿にも似ている、だが宗教施設ではない。


空気が違う。もっと静かで、もっと神聖だった。


中央には巨大な金床、周囲には無数の武具。


歴代の名工達が残した作品なのだろう。

長い歴史を感じる場所だった。


「ここは?」


悠真が尋ねるとドゥルガンは静かに答える。


「王家の工房だ」


声には僅かな誇りがあった。


炎鉄王


その名を受け継ぐ者が代々使う場所。


王であり、職人でもある。

それがドワーフ王らしい。


ドゥルガンは巨大な金床へ手を置く。

傷だらけの手、長い年月を鍛冶に費やしてきた手だった。


「王だから偉い訳じゃねぇ」


ぽつりと呟く。

悠真達は黙って聞く。


「良い武器を作る奴は尊敬される、良い道具を作る奴も尊敬される、よく働く奴もだ」


そこで少し笑った。


「ただ座って命令するだけなら誰もついてこねぇ」


妙な説得力があった。

悠真も苦笑する。


確かにこの国のドワーフたちならそうだろう。


肩書きではなく技術、努力、成果、それを尊ぶ種族なのだ。



しばらくしてドゥルガンは一冊の古い本を取り出した。


革表紙、相当古い。


数百年は経っているように見えた。


エルシアが反応する。

この旅が始まってから、こういう古い物を見る度に期待してしまう。


アステリアの痕跡かもしれない。そう思うから。


ドゥルガンは本を机へ置く。


「これは王家の記録だ」


ページを開く。


古い文字、歴代の王による記録。


戦争

飢饉

鉱脈発見

  ・

  ・

  ・


様々な出来事が書かれている。


そして、あるページで手が止まった。


「ここだ」


全員が覗き込むとそこには短い文章があった。


その文章を見たエルシアの鼓動が速くなる。


短い、だが十分だった。


アステリアだ。ほぼ間違いない。


ドゥルガンは顎髭を撫でる。


「詳しいことは分からん、昔話みたいなもんだ」


「だが」


そこで記録を閉じた。


「この賢者には感謝しろと代々言われている」


真面目な声だった。

冗談ではなく本気だ。


王家に残る恩人。

数百年経っても忘れないほどの存在。それが花の賢者だった。



会議室へ戻った後

悠真達は長く話し合った。


交易について。

技術協力について。

今後の関係について。


ドゥルガンは単純そうに見えて油断できない。

交渉になると鋭かった。


ノワールも静かに相手を観察している。

オルフェは資料を確認する。


そして悠真は一つ提案した。


「職人の受け入れをする」


ドゥルガンが目を細める。


続きを促す。


「黄昏の箱庭なら種族を問わない、希望者がいれば受け入れる」


「技術者も、家族もだ」


会議室が静かになる。


重い提案だった。

ドワーフ達にとって、故郷を離れるというのは簡単な話ではない。


それでも、未来を繋ぐ方法の一つだった。


ドゥルガンは長く沈黙した。

窓の外を見る。煙を上げる鍛冶場、そこで働く民たち、守るべき国。


やがて。


「悪くねぇ」


そう呟いた。そして。


「本気なんだな」


悠真を見る。


真意を探るような視線。


悠真は迷いなく頷く。


「本気だ」


その答えを聞いたドゥルガンは豪快に腹の底から笑った。


「がっはっはっはっ!」


「ますます気に入った!」



その日の夜

盛大な宴が開かれた。

獣王連邦の宴とはまた違う。


酒、肉、そして鍛冶談義。


職人達は酔いながら武器の話をしている。


ずっと。

延々と。


フィアは途中で寝そうになっていた。全く話が分からない。


一方、クロエは違った。

珍しく自ら会話へ参加している。


設計、魔導炉、合金、専門用語が飛び交う。


悠真には意味不明だった。

だがクロエは楽しそうだった。


少し離れた場所ではラグナとドゥルガンが酒を飲んでいる。


樽ごと。


レイナは現実逃避していた。

もう止めない、止まらないから。



宴の終わり際

ドゥルガンは一通の紹介状を差し出した。


重厚な封筒


鉄で作られた印章が押されている。


「次の目的地だ」


悠真が受け取る。

ドゥルガンは口元を吊り上げた。


「竜人山岳王国」


その言葉でレイナが固まる。

ドゥルガンは続ける。


「ヴァルキリアに渡せ、話は通しておく」


そしてラグナを見る。


数秒


静かに見つめた後ニヤリと笑った。

嫌な笑顔だった。非常に嫌な。


「きっと喜ぶぞ」


ラグナは首を傾げる。意味が分からないらしい。


しかしレイナだけは頭を抱えた。


竜人王国

竜王ヴァルキリア

戦闘狂として有名


そして今ラグナがいる。

最悪の組み合わせだった。



翌朝

巨大な黒竜が再び空へ舞い上がる。

鉄峰ドワーフ鉱山国を後にして、次なる目的地へ。


天空へ続く山脈

竜人の国


そこで待つ王との出会いが、最大の騒動になることを。

まだ悠真達は知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。