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第八話 鉄峰の国

獣王連邦を出発

巨大な黒竜が空を飛んでいた。ラグナだった。


広げられた両翼は雲を裂き、膨大な魔力を纏いながら大空を滑空している。


その背には悠真たち遠征隊全員が乗っていた。


獣王連邦を出た直後はまだ乾いた平原が続いていた。

だが、半日ほど飛んだ頃景色が変わり始める。


フィアが身を乗り出した。


「わぁ……」


思わず声が漏れる。

地平線の先に巨大な山脈が見えていた。


黒、灰、赤


そんな色で構成された荒々しい山々。

普通の山ではない、ところどころから白煙が立ち上っている。赤く光る裂け目まで見える。


火山地帯だった。


「すごい……」


フィアは言葉を失う。


獣王連邦とは全く違う景色。

あちらが乾いた不毛の大地なら、こちらは燃える岩の大地だった。



近付くほど異様さが分かる。

山が多い。本当に山ばかりだった。


岩、崖、断崖絶壁、谷


人間が住める場所など見当たらない。

悠真は地上を見下ろした。


「こんな場所に国があるのか……」


素直な感想だった。

正直に言えば獣王連邦以上に生きづらそうな土地に見える。


エルシアも同意見らしい。静かに眼下を眺めていた。


しかし、オルフェは違った。

学者らしく目を輝かせている。


「逆ですよ」


「え?」


「ドワーフにとっては理想的な土地です」


そう言って説明を始める。


鉱脈、地熱、火山資源、希少金属


鍛冶に必要なものが揃っている。

普通の人間には地獄だが、職人種族であるドワーフ達にとっては宝の山。


なるほど。

悠真は納得する。


確かに種族が違えば価値も違う、獣人が草原を好み、エルフは森を愛する。


ならドワーフは山を選ぶ。

それだけの話だった。



その時クロエが急に立ち上がった。

珍しい、彼女が自分から動く時は大抵ろくでもない。


悠真は少し警戒した。


しかし今回は純粋に興奮しているだけだった。


「見てください」


指差す先を全員が見る。


巨大な山肌


その一部が不自然に削られていた。


いや、削られているどころではない。山そのものが建物になっている。


要塞都市だ。


山を掘り抜いて作られた巨大都市。

無数の煙突、昇降機、橋、坑道、そして絶え間なく立ち上る煙。


クロエの紫色の蜘蛛眼のような瞳が輝いていた。


「凄いですね」


珍しく感情が表に出ている。第四軍団の人間らしい反応だった。

技術、建築、巨大構造物、そういう物が大好きなのだ。


ノワールも静かに観察している。

ただしこちらは構造ではなく防衛施設を見ていた。


見張り塔、砲台、監視網、侵入ルート。

完全に職業病だった。



やがてラグナが高度を下げ始める。


鉄峰ドワーフ鉱山国首都

鉄峰都市グランデル


近付くにつれ熱気を感じ始めた。

風が熱い、火山の熱だろうか。空気そのものが暖かい。


そして音、最初は小さかった。


カン


カン


カン


規則的な金属音。

それが徐々に大きくなっていく、まるで都市全体が巨大な鍛冶場だった。


どこからともなく鉄を打つ音が聞こえる。

昼夜を問わず。ずっと街全体が働いている。


そんな印象だった。


「止まれ!」


突然怒声が飛ぶ。

都市上空、飛空監視台からだ。


当然である、黒竜が飛んできた。


ラグナの移動手段は便利だが毎回騒ぎになる。


レイナが遠い目をしていた。もう諦めている。


最早恒例行事だった。


「我々は黄昏の箱庭から来た使者だ!」


悠真が声を張る。獣王連邦からの紹介状も掲げる。


しばらく沈黙。


監視台のドワーフ達が慌てているのが見える。


当然、紹介状より黒竜が気になる。


しばらく協議した後ようやく着陸許可が出た。



ラグナが巨大な広場へ降り立つ。

轟音、土煙。


周囲のドワーフ達が集まってくる。

好奇心丸出しだった、獣人より分かりやすい。警戒もしている。


だが、何より興味が勝っていた。


「でかいな」


「本物か?」


「竜じゃねぇか」


「黒いぞ」


隠れる者がほとんどいない。

近付いてくる、観察してくる、職人らしい。


未知のものを見る目だった。


ラグナが人型へ戻る。

巨大な黒竜が消え、黒髪の男性へ変わる。


その瞬間、今度は別の意味で騒ぎになる。


「竜人だと?」


「本物か?」


「おい待て」


「角があるぞ」


ざわめきが広がる。

レイナは静かに額を押さえた。また面倒なことになりそうだった。



その時

群衆が割れた。自然に道ができる。


誰かが来る。それもかなり偉い人物だ。


悠真はそう直感した。


重い足音、鎧の擦れる音。そして巨大な影。


現れたのは一人の老人だった。


背は低い、だが横幅が大きい。

岩のような体格、腰まで伸びた白い髭、鋭い眼光、歴戦の戦士であり熟練の職人でもあると一目で分かった。


老人は悠真達を見る。

フェンリスを見る。

ラグナを見る。

最後に紹介状を見る。


数秒の沈黙。


そして豪快に笑った。


「がっはっはっはっ!!」


大きな声だった。

周囲のドワーフ達まで笑う、老人は紹介状を奪うように受け取った。


適当に読み、畳む。


そして悠真へ向かって言った。


「細けぇ話は後だ!」


第一声だった。


「酒は飲めるか!?」


静寂


悠真は瞬きをした。

フェンリスも無言。

エルシアも少し固まる。

ノワールですらわずかに目を細めた。

ただ一人、ラグナだけが頷いた。


「飲める」


即答だった。

老人は満足そうに笑う。


「気に入った!」


まだ何も話していない、だが気に入られたらしい。


悠真はゴドリックの言葉を思い出した。


頑固な爺。


確かにその通りだった。


目の前の老人。

鉄峰ドワーフ鉱山国国王

炎鉄王ドゥルガン


その出会いは、予想以上に騒がしいものになりそうだった。


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