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第七話 同盟の種

獣王連邦へ滞在して四日目の朝

ガルドアの空は晴れていた。

雲は少ない。乾いた風が街を吹き抜けていく。


王城の高い塔から見下ろせば茶色い大地がどこまでも続いていた。

豊かな土地ではない。それは何度見ても変わらない。草は生えているが薄い。


緑よりも土の色の方が目立つ。


遠くには獣人達の集落、さらに遠くには放牧地。

その景色を眺めながら悠真は静かに息を吐いた。


獣王連邦


来る前に想像していた国とは全く違った。

荒々しい戦士の国、力だけを重視する国、そんな印象があった。


だが実際は違う、皆必死だった。

生きるために、家族を守るために、この厳しい土地で今日を積み重ねている。


それがこの数日でよく分かった。



王城会議室

今日が最後の会談になる。


大きな円卓を囲むのは。

獣王ゴドリックと悠真。そしてそれぞれの側近達。

険しい顔の戦士達、政治を担う族長達、皆真剣な表情をしている。


試練は終わった、神狼への疑念も薄れた、ここからは国と国の話だった。


ゴドリックが口を開く。


「まず確認しておく」


低い声。

しかしよく通る。会議室全体が静かになった。


「黄昏の箱庭は獣王連邦の敵ではない」


断言だった。誰も反論しない。

フェンリスとの戦い、ガルドの証言、数日の交流。


それらによって黄昏の箱庭への警戒はかなり和らいでいた。


悠真も頷く。


「こちらも同じだ」


「獣王連邦とは仲良くやっていきたいと思っている」


真っ直ぐ答える。


ゴドリックの瞳が僅かに細くなった。

相手の言葉を見極めている。王として、何十年も国を背負ってきた者の目だった。


やがて獅子王は笑った。


「いい」


短い言葉。それだけで空気が少し緩む。



会談は昼まで続いた。

食糧事情、交易路、治安、国境問題、様々な議題が上がる。


その中で最も大きかったのは食糧だった。

獣王連邦は慢性的に食糧が不足している。飢饉はないが余裕もない。


豊作なら耐えられる。

不作が続けば危険。


そんな綱渡りの状況を悠真は静かに聞いていた。


アステリアの観測記録、その言葉が脳裏に浮かぶ。


人口の減少、生存環境の悪化。


もしかすると獣人達が置かれた状況は、アステリアが記録していたものの一部なのかもしれない。


そんな考えが頭をよぎった。



昼過ぎ。

会談が一段落した頃ゴドリックが椅子へ深く腰掛けた。


そして、ぽつりと呟く。


「そういえば」


何かを思い出した顔だった。


「お前達は花の賢者を探しているのだったな」


エルシアの肩が僅かに震える。


会議室の空気が変わるがゴドリックは気付いていない。


だが悠真達にとっては重要な話だった。


「何か知っているのですか」


エルシアが尋ねる。

声は落ち着いているが胸の鼓動は速かった。


ゴドリックは顎へ手を当てる。


「俺も詳しくない」


そう前置きした。


「だが王家に伝わる昔話はある」


皆が耳を傾ける。

ゴドリックはしばらく考えてから語り始めた。


今から数百年前、この地が今よりも荒れていた頃大干ばつがあった。


草は枯れ、川は細り、獣人達は飢えた。

多くの部族が滅びかけたらしい。


その時一人の旅人が現れたという。


銀色の髪を持つ長命種

花を愛する賢者


その人物は各地を巡り、食料の育て方を教え、水源を見つけ争う部族を仲裁した。


そして最後には一輪の花を残して去った。


「そんな話だ」


ゴドリックは肩を竦めた。


「伝承だからな、どこまで本当か分からん」


しかしエルシアは俯いていた。


分かる、あまりにも分かる。


それはアステリアだ。


はっきりと名前は出ていない。だが間違えるはずがない。


花、長命種、困った者を放っておけない性格。


全部一致している。

胸の奥が少し熱くなった。


五百年前、アステリアは本当にこの世界にいた。


誰かを救っていた。

誰かの記憶の中に生きていた。


それが嬉しかった。何故か少し誇らしかった。



その日の夕方。

再び大広場で宴が開かれた。

今度は歓迎ではない、友好の宴だった。


獣人達は酒を飲み、歌い、笑っている。


フィアもすっかり人気者になっていた。

子供達と鬼ごっこをしている、全力で。本当に全力で。


「捕まえた!」


「きゃー!」


完全に混ざっていた。

フェンリスは少し離れた場所で見ている。


表情は変わらない。しかし、フィアが楽しそうにしているのを見る視線は少し柔らかかった。


悠真はそれに気付き、少し笑った。



宴の終盤

ゴドリックが立ち上がる。

巨大な体躯、獅子王が立ち上がるだけで周囲が静かになる。


皆が振り返る。


「聞け!」


低く力強い声。

獣人達の視線が集まった。


ゴドリックは悠真を見る。そして大きく笑う。


「今日から黄昏の箱庭は友だ!」


歓声が上がる。大地が揺れるほどの歓声だった。


獣人達が拳を掲げる。

酒杯を持ち上げる。


その光景を見ながら悠真は静かに息を吐いた。


上手くいった。心の底からそう思う。


戦争ではない、力による支配でもない、話し合いで結ばれた関係。


それが嬉しかった。



翌朝

城門前

巨大な黒竜となったラグナが待機している。


次の目的地は鉄峰ドワーフ鉱山国


ゴドリックは別れ際に大きな封筒を差し出した。

重厚な封蝋が押されている。


「ドゥルガン宛ての紹介状だ」


悠真が受け取る。

ゴドリックは笑う。


「頑固な爺だ、気を付けろ」


「努力するよ」


悠真も苦笑した。


するとゴドリックがラグナを見る。


数秒、真顔になる。


そして。


「殴るなよ」


ラグナは少し考える。本当に少しだけ。


「善処しよう」


レイナが頭を抱えた。その様子に周囲が笑う。


晴れた空。

乾いた風。


獣王連邦との旅は終わった。

だが、アステリアへ続く道はまだ続いている。


花の賢者

神狼の伝承

黒竜王の神話


全てが少しずつ繋がり始めていた。

そして悠真達は飛び立つ、次なる手掛かりを求めて。


鉄と炎の国

鉄峰ドワーフ鉱山国へ。


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