閑話 南方の反応
黄昏の箱庭
その名は、気付けば南方全域へ広がり始めていた。
人類至上主義国家
グラディス辺境侯国の崩壊
亜人奴隷の解放
様々な種族を受け入れる城塞国家
南方の住民達にとって、それは噂でしかなかった。
最初は誰も信じなかった。あまりにも都合が良すぎたからだ。
だが、噂はいつしか伝聞ではなくなっていく。
解放された亜人達、商人達、旅人達。
様々な者達が同じ話を口にし始めた。黄昏の箱庭、その存在を。
そして、南方の王達もまた、その名を知ることになる。
獣王連邦
南西部草原地帯
どこまでも続く大草原、風が吹くたび緑の海が揺れる
その中心、巨大な石造りの王城。
獣王の間、玉座へ座る男がいた。
獅子族
獣王ゴドリック
二メートルを超える巨体
黄金の鬣
無数の傷跡
歴戦の王
その前へ一人の狼族が跪く。
「報告します」
「グラディス辺境侯国は事実上崩壊、現在は黄昏の箱庭という勢力が支配しています」
ゴドリックは黙ったまま話を聞く。
グラディスの名は以前から聞いていた。
獣人狩り、奴隷商人、難民虐殺、南方の誰もが嫌悪する国家だった。
だから潰れたこと自体には興味が無い。
問題は別。
「神狼王の噂は」
低い声、部屋の空気が変わる。
報告役の狼族も表情を引き締めた。
「確認されました、複数証言があります」
「白銀の狼、圧倒的戦闘力、人語を解する存在」
「名をフェンリス」
沈黙
ゴドリックは肘掛けへ指を置いた。
獣王連邦、その神話に語られる存在。
神狼王
獣人達の祖とも呼ばれる存在。もちろん普通なら信じない。
だが報告は複数。しかも一致している。
「面白い」
ゴドリックの口元が僅かに上がった。何十年振りだろう心が躍る。
「会ってみたい」
そう呟いた獣王はまるで少年のような目をしていた。
竜人山岳王国
南東部
巨大山脈地帯
天空へ突き刺さる峰々
吹雪、火山、断崖絶壁、人類では到底生きられない土地
その最深部
竜人王城
玉座へ座る女性がいた。
竜王ヴァルキリア
竜人最強の王
白銀の髪
漆黒の角
鋭い黄金の瞳
「ラグナだと?」
玉座前で報告を聞いた瞬間。
笑った、豪快に、楽しそうに。
「面白い冗談だ」
周囲の家臣は恐縮する。
しかし、報告は続く。
「グラディスを壊滅させた怪物、黒き竜王」
「名はラグナ」
空気が変わった。
ヴァルキリアの笑顔が消える。
数秒の静寂。
「その名を誰が使っている?」
低い声。
その瞬間部屋の温度が下がったように感じた。
竜人達が息を呑む。
ラグナ
その名は王国の伝承に残っている。
英雄、黒竜王、最強の象徴
だから、激しくヴァルキリアは興味を持った。
「会う」
即答だった。
「本物か偽物か私が確かめる」
その瞳には戦士の光が宿っていた。
鉄峰ドワーフ鉱山国
地下都
響く金槌の音
熱風、溶岩、炎
無数の鍛冶場
その中央で
ドワーフ王ドゥルガンは報告書を読んでいた。
「ほう……」
短い声。
白い髭を撫でる。
そこにはこう書かれていた。
黄昏の箱庭、解放されたドワーフ奴隷多数受け入れ確認。
職人待遇
奴隷制度否定
ドゥルガンは腕を組む。
長く生きてきたから分かる。世の中に善人は少ない。まして国家規模になるとなおさらだ。
だが、解放された奴隷達の証言は一致していた。
待遇が良い、差別しない、技術者を尊重する。
信じ難かった。だが、少しだけ興味はある。
「面白い国だな」
ぽつりと呟く。
未来の装備供給拠点となる運命など当然まだ知らない。
夜霧魔族領
大陸最南端
深い霧
巨大な黒い城
魔王城
その執務室
魔王アザゼルは書類を読んでいた。
机の上には山積みの報告書。
戦争計画ではない。
予算、農業、物流、税収、酷く現実的だった。
「また増えたのか」
ため息を吐く。
報告書の山を見る。とても疲れていた。
そこへ側近が入室する。
「陛下、黄昏の箱庭に関する新しい情報です」
アザゼルは片目を開く。そして書類を受け取った。
数分、静かに読む。
やがて小さく笑った。
「変わった国だな」
第一印象はそれだった。
人間、獣人、エルフ、ドワーフ、吸血鬼、アラクネ、同じ都市で暮らしている。
普通ならあり得ない。だから少しだけ興味を持った。
「争う気は無さそうだ」
アザゼルは窓の外を見た。
夜霧の向こう、遠い北。そこにいるという国家を思う。
そして何となく予感していた。
近いうちに、この国と関わることになる。そんな予感を。
南方は動き始めていた。
獣王、竜王、ドワーフ王、魔王、それぞれが黄昏の箱庭へ興味を抱いている。
まだ敵ではない。
まだ味方でもない。
だが確実に、運命の歯車は回り始めていた。
そして。
遠い場所で銀髪のハイエルフは夜空を見上げる。
その口元に浮かぶのは、ほんの僅かな微笑み。
まるで、誰かがようやく目的地へ近付いてきた事を知っているかのように。
神狼王、ラグナ、もちろん最初からあったこの世界の伝説で存在した話ではないです(・∀・)ニヤニヤ




