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第五話 深森エルフ自治領

枯森地帯へ入って三日目

探索隊は南へ進み続けていた。


最初に感じた違和感は、静かすぎることだった。


鳥の声が少ない、虫の音も少ない、獣の気配も少ない。


森なのに、生き物の気配が薄い。


死んだ森


そんな言葉が自然と頭へ浮かぶ。


「昔は違ったんだろうな」


悠真が呟くと隣を歩いていたエルシアが頷いた。


「はい」


短い返事だが、その声には寂しさが混じっていた。

そんな中、オルフェが説明を始める。


「文献によれば、数百年以上前は大陸有数の森林地帯でした」


「世界樹の支流とも呼ばれていました」


世界樹


またその名前だ、ここ最近は何度も聞いている。

悠真は前を向きながら純粋な疑問を尋ねる。


「そんなに凄かったのか?」


オルフェが頷く。


「文献を見る限りですと、今とは比較になりません」


「森の精霊、高位幻獣、神代の植物、世界樹信仰」


「全てが残っていました」


しかし、今はない。


伐採

開拓

侵攻

戦争


何百年も積み重なった結果が今だった。

フィアが枯れた木を触る。


ボロリ


木肌が崩れ落ちたのを見て、フィアの耳がしょんぼり垂れる。


「悲しいね」


誰も否定しなかった。



さらに半日、探索隊は森の最奥部へ到達した。

そこで、フェンリスが足を止めた。


「いるな」


一言に反応するように、全員が警戒態勢へ移る。


神狼王がそう言うなら、いる。

ラグナが周囲を警戒し、フィアも神狼化寸前まで集中する。


静寂


風が吹いて枯葉が舞う。


そして、森の奥から弓が現れた。

正確には、弓を構えたエルフ達だった。


三十人以上にいつの間にか包囲されている。

油断していたとはいえ気配に気付けなかったところからかなりの練度がある。


その中央にいたリーダーらしき長い銀髪の男性が前へ出る。


尖った耳、蒼い瞳、白い外套。

エルフ特有の美しい容姿。


だが、その目には警戒があった。

人間と亜人、こんな集団が森へ侵入したら警戒するのは当然だった。


男性は静かに威圧をこめて言った。


「止まれ、「これ以上の侵入は認めない」


エルシアが一歩前へ出てフードを外す。

風が銀髪を揺らした。


それを見た瞬間、周囲のエルフ達が動揺した。


「同族……?」


エルフの中でざわめきが広がるがエルシアは冷静だった。


「私はエルシア、黄昏の箱庭第五軍団長代理です」


沈黙


中央の男性も驚いていていたが、彼は小さく息を吐いた。


「深森エルフ自治領代表、アルヴェインだ」


深森エルフ自治領

探索隊は案内され森の奥へ進む。

そして、目の前に現れた光景に悠真は驚いた。


村があった、いや都市だった。

小さいが確かに都市。


巨大な樹木の内部に木と共存するように作られた建物。

吊り橋、樹上通路、魔法灯。


人類圏には存在しない文化だった。

フィアが目を輝かせる。


「すごい!」


本当にすごい。だが、近くで見ると分かる。

皆痩せている、建物も古い、修繕跡だらけ、余裕が無い。


それが一目で分かった。

悠真はアルヴェインへ尋ねる。


「厳しいのか」


アルヴェインは苦笑した。


「見れば分かるだろう」


否定しない、それが答えだった。


「森は枯れた、人類が来た、仲間は連れ去られた、奴隷として」


怒りより、諦めに近い静かな声だった。

長年積み重なった疲労、そんな声だった。


この土地がどれだけ追い詰められているのか、同族だからこそ分かるエルシアは、拳を握る。



夕方の長老会。

探索隊は事情を説明していた。


アステリア捜索

古代遺跡

世界樹の痕跡


全て、隠さず話した。

すると、長老の一人が反応する。


「花か」


エルシアの表情が変わる。


「ご存知なのですか」


長老が頷き皺だらけの手が震える。


「約五百年前、花を咲かせる女性がいたと伝えられておる」


部屋の空気が変わった、悠真も椅子から身を乗り出す。

長老は構わず続けた。


「森を歩くだけで花が咲き、枯木が芽吹いた」


「そして精霊たちが集まった」


エルシアの呼吸が止まる。間違いなくアステリアだ、誰もがそう思った。

そして、長老は言う。


「その女性は、遺跡へ向かったと」


ついに繋がった。


花の軍団長

古代遺跡

世界樹


全てが、一つの線になる。


「場所は」


エルシアが震える声で尋ねる。


長老は窓の外を見た、森のさらに奥。

誰も近付かない禁域。


「精霊の墓場」


その名が告げられた瞬間にアルヴェインの表情が強張り、長老達もいい顔はしていない。

明らかに普通の場所ではない。


悠真は理解する、次の目的地が決まった。

アステリアが向かった場所。


精霊の墓場


そして誰も知らない、そこで待つ真実が黄昏の箱庭だけでなく、世界そのものを揺るがすことになると。


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