閑話 戦鬼と奴隷王
黄昏会戦
グラディス辺境侯国敗北
侵攻軍壊滅
オスカー・ヴァレン戦死
ゼルバルト・グラディス捕縛
その情報は数日で大陸中へ広がった。
必然、SS級冒険者達の耳にも届くことになる。
大陸西部
港湾都市バルガス
裏社会最大の取引市場がある都市。
奴隷。武器。麻薬。魔道具。
表へ出せない物が全て集まる街
そして、都市にあるひときわ立派な屋敷の最上階。
豪奢な部屋の中で一人の男が報告書を読んでいた。
バルバロッサ・グレイヴ
二つ名は奴隷王
年齢58歳
SS級冒険者
レベル93
身長190cm超
黄金の瞳
痩せ型
長い黒髪を後ろで束ねている。
常に高級な黒いスーツのような服装。
商人にも見える。
貴族にも見える。
だが、その目には人間らしい温度が無かった。
パラリ
報告書をめくる音だけが部屋に響く。
グラディス軍壊滅、興味なし。
オスカー戦死、興味なし。
ゼルバルト捕縛、興味なし。
・
・
・
そして、最後の一文でバルバロッサの指が止まる。
初めてバルバロッサが報告の内容に興味を示した。
数秒の沈黙。
周囲に控える商人たちも緊張する。
奴隷王が考えている時は大抵、誰かにとって不幸な事態の始まりだからだ。
やがて、バルバロッサは笑った。
「面白い」
その一言で部下達がや周りの商人たちが顔を見合わせる。
「何がでしょうか」
商人の一人が問い掛けるとバルバロッサは窓の外を見た。
港、船、荷物、人、亜人、奴隷。
目に見えるもの、見えないもの全部が自分の商品だった。
そして、黄昏の箱庭だけが違う。
「敵だ」
バルバロッサは小さく呟いた。
「黄昏の箱庭は私の敵になる」
部下や商人たちの顔色が変わる、当然の反応である。
奴隷王とはいえ冒険者が国家を相手に敵と言ったのだ。
普通なら冗談だとして笑い話で終わる内容。
しかし、バルバロッサが言うと話し違う。
バルバロッサが敵と言った相手は必ず潰さてきた。今までずっとそうだった。
一人の商人が恐る恐る聞く。
「討伐なさいますか」
バルバロッサは首を振った。
「まだだ」
黄金の瞳が細くなる。
「まずは相手の価値を測る」
報告書を叩く。
神狼王
黒竜王
吸血鬼の女王
蜘蛛の女王
そしておまけのエルフたち
「随分と高価そうじゃないか」
誰も笑えないなかで、バルバロッサだけが笑っていた。
人間を見る目ではなく商品の査定をする目で。
その頃。
大陸東部の辺境山脈
人の住まない魔境。
そこでは別のSS級が報告書を読んでいた。読んでいたというより、一瞬眺めてから報告書を投げ捨てた。
「邪魔」
バサッ
紙が宙を舞う。
それを見て周囲にいたSS級冒険者の部下達が頭を抱えた。
ローガン・ヴェルド
二つ名は戦鬼
年齢34歳
SS級冒険者
レベル95
身長二メートルを超える巨漢
赤い短髪
赤い瞳
全身傷だらけ
上半身裸に黒いマント
今ローガンは異常なほど楽しそうな顔をしていた。理由は単純、報告書の一部に異様に惹かれ興味が湧いたからである。
神狼王フェンリス
「なあ」
言葉は短くダラダラと喋ることはしない。
「強い?」
「は?」
「神狼王」
部下が答える。
「オスカーを倒した獣人より遥かに強いそうです」
数秒の沈黙
そして、いきなりローガンが立ち上がり、その勢いで椅子が吹き飛ぶ。
「行くぞ」
一言で全員が察した。部下たちにとっては災難が始まった。
「どちらへ……」
分かっているがわずかな希望を抱いてローガンへ聞く。
ローガンが満面の笑みをうかべる。新しいおもちゃをもらった子供のように。
「神狼王」
ほんのわずかな希望がその一言によって砕け散ったことを悟り、部下達は頭を抱える。
「会いに行くだけですよね?」
「多分」
「戦わないですよね?」
「多分」
まったく信用のできない言葉。その場にいた全員が絶望した。
戦う
絶対
百パーセント
部下たちが絶望の淵から立ち直ろうとしたほんの数秒のうちに、ローガンは既に荷物を背負っていた。
そしてさらに笑う。無邪気な子供のように。
「楽しみだなぁ」
本当に心の底から嬉しそうだった。
国家、宗教、政治、金、一切興味がない。
あるのは、強い奴と戦いたい。ただそれだけ。
ローガンは知らない。
フェンリスが恐ろしく面倒臭がりなことを。
ローガンは知らない。
フェンリスが何度も戦いを拒否することを。
ローガンとフェンリスは知らない。
二人に運命は面白い悪戯をすることを。
奴隷王バルバロッサ
戦鬼ローガン
一人は黄昏の箱庭を利用しようとする。
一人は黄昏の箱庭と戦いたがる。
だが二人ともまだ知らない。
黄昏の箱庭の王がどのような人物なのかを。
黄昏会戦の余波は、まだ始まったばかりだった。
レベルの概念は、レベル=魂の成長度ということにしています。
なので、何かを討伐する以外にも修行であったり死線を越えるであったり、ざっくりとですが国家を何かしらで救うなど大きな使命を果たす。といった魂が成長するようなことを行えばレベルが上がります。
なので、高レベル=戦闘がものすごく強いわけではないです。
ただし、SS級冒険者は全員強いです。




