閑話 聖都の夜
黄昏会戦から数日後。
神聖アルカディア教国
聖都アークレシア
白亜の大神殿。その最上階にある教皇執務室。
窓の外では数千もの灯りが夜の街を照らしておりまさに大陸最高峰の聖都であった。
だが、部屋の中は静寂に包まれている。
「失礼します」
教皇秘書クロードが入室した。
老紳士は一礼すると机の上へ数枚の報告書を置く。
「グラディス辺境侯国の件です」
第143代教皇レオニス・アルカディアはゆっくり報告書を手に取った。
ページをめくる音だけが部屋に響く。
損害報告
部隊報告
生存者の証言
そして、最後の頁。
オスカー・ヴァレン戦死
ゼルバルト・グラディス捕縛
侵攻軍壊滅
静かな沈黙。やがて、レオニスは報告書を閉じた。
「そうか」
たったそれだけだった。
驚きもない。
怒りもない。
ただ短く呟く。
クロードが尋ねる。
「意外ではありませんでしたか」
レオニスは窓の外を見て考え事をしているよな表情で答えた。
「多少はな」
そこで言葉が途切れた。
見ていたのは夜景ではない。もっと遠くだった。
グラディス
黄昏の箱庭
さらにその先にある何か。
「時代も変わるものだ」
クロードは何も聞かない。
長い付き合いだからこそ教皇が何を話さないかを知っている。
しばらくして。
部屋の扉が再び開いた。
「お祖父様」
セレスティアが静かに礼儀正しく入ってくる。
十八歳
聖女候補
レオニスの孫娘
「まだ起きていたのか」
「少しだけ」
セレスティアは微笑む。
その笑顔を見て、レオニスの表情が少しだけ柔らかくなった。
ただその笑顔もほんの一瞬だけであり誰も気付かない程度に。
「辺境侯国の件ですか?」
「そうだ」
セレスティアは少し迷った後、
心から心配そうな表情で静かに言う。
「戦争は起きない方が良いと思います」
部屋が静寂に包まれる。
教皇と聖女候補
本来、亜人や魔族を人とは認めない教国の立場だけ見れば危険な発言だった。
だが、レオニスは怒らない。
「そうだな」
クロードが目を伏せる。
セレスティア自身も少し驚いたようだった。
いつもの教皇であればこの手の話をしたときはいつも注意された。教皇の孫娘であり聖女候補だからこそ穏便に済んできたことも少なくない。
そして、今の反応は教皇としては珍しい反応だった。
ただレオニスはそれ以上何も言わない。何も答えなかった。
やがてセレスティアは一礼し退室していった。
扉が閉まり、再び静寂の時間が流れる。
その後。
レオニスは引き出しから一冊の古びた本を取り出した。
誰にも見せない本。誰にも知られてはいけない本。
教国の人間がみな伝説上のものと捉えている本。ただし、歴代の教皇のみがその存在を知り、受け継がれてきた本。
数百年前の古文書
そこに記されていた一文へ目を落とす。
しばらくその一文を眺めたのち、レオニスは静かに本を閉じた。
「まだ早い」
誰に向けた言葉でもないただの独り言。
窓の外に広がる夜空を見上げる。
遠いどこかで、新たな国が生まれた。
それが善か悪か教皇にはまだ分からない。
もし、世界を変える存在なら。
レオニスは僅かに目を閉じた。
しばらくの静寂の時間、そして再びいつもの教皇の顔へ戻る。
「クロード」
「何でしょう」
「監視は続けろ」
短い命令。しかし、その命令には強い意志が込められていた。
「ただし手を出すな」
クロードは即答する。
「承知しました」
その理由を聞くことはない、聞く必要もない。
窓の外では鐘が鳴っていた。
神聖アルカディア教国
大陸最大の国家
後に黄昏の箱庭最大の敵となる国
しかし今はまだ、誰も知らない。
この国の頂点に立つ老人が。
何を隠し。
何を待っているのかを。
書きたかったことは書けたんですけど、こういった伏線みたいな書き方っていかんせん初めてでしてどう書いていいかわからないまま書いています(笑)
マンガだと文章にしなくても絵と文章の両方を使って伏線を混ぜてあとから回収する手法もとれるんでしょうけど、文章だけだとさじ加減が本当に難しいですね。マンガを描いたことはないのでマンガを下に見ているわけではないです(;^_^A




