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第十六話 白銀の英雄

金色の瞳が細くなる。


「強い」


転移後、初めてだった。

フィアが純粋にそう思ったのは。


戦場中央。

白銀騎士団長オスカー・ヴァレン。

 

その周囲だけ空気が違う。

 

これまで出会ったグラディス軍の将軍達とは違う。

本当に強い。

 

フィアは思わず笑った。


「やっとだ」

 

そして。次の瞬間。

 

地面が爆発した。


ドォォォン!!

 

土煙が吹き飛ぶ。


銀色の残像が一直線に走った。

神狼族特有の超加速。


フィアがオスカーへ突撃する。


キィィィィン!!


爪と大剣が激突。

凄まじい衝撃波が周囲へ広がった。


地面が砕ける。

兵士達が吹き飛ぶ。

近くで戦っていた兵士達は戦闘どころではなくなった。

 

グラディス兵も。黄昏兵も。

全員後退する。


「何だあれ……」


誰かが呟いた。

 

もはや人間同士の戦いではない。


オスカーは驚愕していた。

 

速い。

 

見えている。

だが追い付かない。

 

特に踏み込み。

一歩ごとの加速が異常だった。


「獣人……!」


大剣を振るう。

巨大な斬撃波。空気そのものを切り裂く。

 

並の将軍なら即死だった。


しかし。

フィアはいない。


「遅いよ?」


真横。

 

オスカーの視界の外。

首へ爪が迫る。


「っ!」


咄嗟に防御。

 

火花。衝撃。

 

今度はオスカーが吹き飛んだ。


「オスカー様!?」


グラディス兵達が絶叫する。

 

信じられない。

英雄が押されている。


だが。

オスカーは笑った。

久しぶりだった。戦場で高揚したのは。


「面白い!」


白銀の闘気が爆発する。


全身から魔力が吹き上がる。

大地が揺れる。

空気が震える。

英雄級の全力。


フィアも目を大きくした。

強い、本当に強い。


「退け」


低い声だった。

フィアへ向けてではない。

周囲の兵士達へ向けてだ。

 

この戦いに巻き込まれれば死ぬ。

それが分かっていた。


フィアが笑う。


「優しいんだね」


オスカーが目を細めた。


「違う」


大剣を構える。


「邪魔だ」


瞬間。

地面が爆発した。


ドォォォォン!!

 

オスカーの体が消える。

 

次の瞬間。

大剣がフィアの首へ迫っていた。


キィィィィィィン!!


火花。衝撃波。

フィアが両腕で受ける。

 

地面が陥没した。


「おお!」

 

フィアの瞳が輝く。

 

速い。今までの敵とは違う。


「なら!」


フィアが踏み込む。


ズガァァァッ!!


フィアが消えた。

オスカーの視界から。


「なっ!?」


真横。さらに背後。さらに上空。

銀色の残像が何重にも走る。


人間では追えない。

英雄級ですら見失う。


だが。

オスカーも英雄だった。


ブオン!!

 

巨大な円形斬撃。

周囲の残像が消える。


フィアが後方へ跳んだ。


無傷。


「凄い!」

 

楽しそうだった。


しかし。

オスカーは笑わない。


分かってしまったからだ。


速さでは負けている。



その頃。

別戦線。


グラディス騎兵隊。約千二百。

彼らがラグナ軍団へ突撃していた。


「突破しろォォォ!」


戦場が揺れる。


騎兵の突撃は強力だ。

並の軍なら崩壊する。


しかし。

アラクネ達が動いた。


バチン!!


馬の脚が切れた。

いや。

絡み取られていた。


銀色の糸。


アラクネ族。

最初から戦場に魔糸を張り巡らせていた。


銀色の糸が大地を覆う。

馬の脚。騎兵の槍。鎧。

全部へ絡み付く。


「なっ!?」


騎兵隊長が叫ぶ。


次々と馬が転倒する。


そこへ、黒い影。


カインだった。


竜人族特有の魔力が爆発する。

竜人族。レベル95。

ラグナ軍団最強戦力の一角。


拳が放たれる。

衝撃波が直線状に走る。

騎兵隊長が騎兵隊ごと吹き飛ぶ。


さらに。

地面へ叩き込む。

 

地面を砕く広範囲攻撃。

大地が陥没。


騎兵数十名が宙を舞った。

騎兵隊は崩壊した。


ラグナ軍団がその穴へ殺到した。

戦線はさらにグラディス側へ傾く。



別方向。

レイナも戦っていた。


敵将軍。レベル62。

それなりの強者。一般兵から見れば英雄クラス。


しかし。

レイナは冷静だった。


一閃


影のような超高速居合により敵将軍が馬上から落ちた。


戦場全体で格が違う。


グラディス兵達も理解し始めていた。

 

おかしい。

強過ぎる。

なぜ敵の一般兵ですらこんなに強い。

なぜ隊長格が全員化物なんだ。


そして。

最も激しい戦いは続いていた。



戦場中央。

フィア対オスカー。


オスカーが全力で振るう。

白銀の大斬撃。


大地ごと砕く一撃。

地面が裂ける。


フィアが受ける。

数十メートル吹き飛ばされた。


しかし、滑るように着地。


無傷


「最高!凄い!」


フィアは笑った。

これほど強い相手。本当に久しぶりだった。


「貴様……」


フィアが構え、魔力を爪へ集中させる。


ズバァァァ!!


オスカーの鎧へ傷が走る。


初めて。

この戦場において初めてオスカーが傷付いた。


グラディス軍が静まり返る。

オスカー様が……?


その時だった。

オスカーが笑う。


「見事だ」


その声には賞賛があった。

戦士として。敵として、認めたのだ。


ならば。

こちらも全力で応える。


白銀の闘気が爆発した。

空が震える。

地面が割れる。


ゼルバルトが目を見開く。


「まさかそこまで……」


オスカー最大の奥義。


闘気が獅子の形を作り始める。

巨大な白銀の獅子。


兵士達が息を呑む。


「出た……」


「オスカー様の奥義だ……!」


オスカーが咆哮した。


「これが!」


大剣を天へ掲げる。


「人類の英雄だぁぁぁぁぁ!!」


全魔力と全闘気を解放し、獅子王の闘気そのものを斬撃として放つ最終奥義。

白銀の獅子が戦場を駆ける。


巨大だった。

圧倒的だった。

まるで災害。


悠真も息を呑む。


「あれは……」


レイナの顔も険しくなる。


英雄級最強クラス。


国家を支える力。


だが。

フィアは微笑んだ。


「ありがとう」


戦士として。

最大限の敬意だった。


そして。

銀色の魔力が噴き上がる。


空気が震える。

地面が砕ける。


遠く離れた兵士達ですら恐怖を覚えた。


フェンリスと同じ。

神狼王と同じ。


神狼族の真なる力。


フィアが静かに告げる。


「神狼化」


神狼の血を完全解放し、全能力を飛躍的に引き上げる神狼族最強の奥義。

銀色の巨大な神狼が現れる。

空を埋め尽くす幻影。


獅子 対 神狼


神話級の衝突だった。


オスカーが息を呑む。

なぜ。ここまで強い。


フィアが前へ出る。

神狼の幻影と共に。


神狼化した魔力を一点へ凝縮し、全てを貫く神狼族最強の攻撃。


獅子王覇剣と神狼牙が激突した。


轟ォォォォォォォォォォォォォン!!!


空が裂ける。

大地が砕ける。

戦場全体が揺れる。


誰もその先を見られなかった。


土煙だけが戦場を覆う。

その煙の向こうで。

 

一人だけが立っていた。


英雄と神狼。

 

勝負は遂に決着の時を迎える。


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