第三話 影の軍団
10/27:人口に対して敵軍の人数がおかしかったので書き直しました。
黄昏の箱庭中央塔。
グラディス辺境侯国の軍再編成の報告から数日。
国家運営は急速に忙しさを増していた。
風牙の集落の住民達は徐々に生活へ馴染み始めている。
白耳の集落の生存者達も落ち着き始めた。
新しい仕事に就く者
農地で働く者
工房で技術を学ぶ者
少しずつではあるが未来へ向かって歩き始めている。
しかし。
国家を取り巻く状況は悪化していた。
「グラディス軍一万」
会議室でレイナが報告する。
「さらに増加する可能性があります」
悠真は地図を見つめた。
グラディス辺境侯国
黄昏の箱庭
その間にある無数の村
そして街道
以前よりも地図上の印は増えている。
敵が本気になった証拠だった。
「本格的に戦争だな」
悠真が呟く。
会議室が静かになる。
誰も否定しない。
もう小競り合いではない。
グラディス辺境侯国は黄昏の箱庭を国家として認識した。
ならば次に来るのは国家戦争だ。
その時だった。
会議室の扉が開いた。
「主様」
リリアーナだった。
吸血鬼軍団長。
相変わらず優雅な笑みを浮かべている。
だが。それを見た瞬間。
フェンリスが小さくため息を吐いた。
ラグナも嫌そうな顔をする。
悠真はそれに気付いた。
「何だ?」
「朗報ですわ」
その言い方が嫌だった。
絶対にろくでもない。
リリアーナは机へ一枚の紙を置く。
「グラディス軍一万」
「知ってる」
「実数は八千七百二十八」
会議室が静まり返る。
悠真が瞬きをする。
「なんで分かる」
「数えましたので」
さらりと言った。
フェンリスが頭を押さえる。
「また潜入したのか」
「ええ」
リリアーナは上品に笑う。
「当然ですわ」
悠真は改めて理解した。
黄昏の箱庭には軍団が五つある。
しかし今まで目立っていたのは、
フェンリス軍団。ラグナ軍団。
せいぜいミレイア軍団。
リリアーナ軍団の仕事をほとんど知らなかった。
「説明いたしますわ」
リリアーナが立ち上がる。
「まずグラディス軍ですが補給不足です」
「補給不足?」
「ええ」
今度は別の女性が前へ出た。
「ノワール」
リリアーナが紹介する。
ノワール
真祖吸血鬼
諜報隊長
外見年齢24歳前後
身長168㎝
背中まで届く黒い髪
深紅の瞳
黒を基調とした軽装
表情がほとんど動かない無口
ノワールは淡々と話し始める。
「グラディス辺境侯国は急速な軍拡を行っています」
「そのため、兵糧不足、馬不足、装備不足が発生」
悠真が驚く。
そんな情報まで掴んでいるのか。
「どうやって調べた」
「潜入しました」
怖かった。答え方が怖い。
まるで散歩してきましたくらいの感覚で言われた。
ノワールはさらに資料を広げる。
敵軍配置
補給線
部隊構成
金の流れ
細かく書かれていた。
ラグナですら驚いている。
「完全に軍事機密ではないか」
「そうですね」
「どうやって・・・」
「潜入しました」
やはり怖い。今度は食い気味に言ってきた。
悠真は心の中で決めた。
絶対に敵に回したくない。
今度は別の女性が前へ出た。
眼鏡を掛けた吸血鬼だった。
「セレスです」
セレス
上位吸血鬼
情報分析官
外見年齢22歳前後
身長160cm
紫がかった黒髪
赤い瞳
丸眼鏡
細身
常に書類を持っている
知的な雰囲気を持つ女性だった。
彼女は何枚もの地図を展開する。
「ノワールの情報から分析した結果」
「グラディス軍は長期戦が不可能です」
「何故だ」
フェンリスが聞く。
セレスは即答した。
「お金がありません」
全員が黙る。
身も蓋もなかった。
「急激な軍拡による財政圧迫」
「補給費用増大」
「奴隷市場への依存」
「複数貴族との利害対立」
次々と問題が出てくる。
悠真は思わず聞いた。
「つまり」
「半年以内に決着を付けたいはずです」
セレスは断言する。
「グラディスは焦っています」
戦争は武力だけではない。
国家の体力勝負でもある。
その現実を悠真は初めて理解した。
そこへさらに少女が前へ出る。
美しい金髪。
優雅な所作。
完全にお嬢様だった。
「ヴィオラと申します」
ヴィオラ
純血吸血鬼
外交担当。
外見年齢25歳前後
身長172cm
銀髪ウェーブ
真紅の瞳
抜群のスタイル
常に貴族服
初見ではリリアーナの部下に見えないが、リリアーナ軍団第三の側近である。
彼女は微笑みながら言った。
「すでに接触を始めております」
嫌な予感しかしない。
「何に」
「グラディスと仲の悪い貴族達ですわ」
会議室が静まる。
ヴィオラは続けた。
「全員がゼルバルト・グラディスを支持しているわけではありません」
「当然ですが」
「損をする者もおります」
なるほど。
国家は一枚岩ではない。
戦争になれば利益を得る者もいる。損をする者もいる。
ヴィオラはそこへ付け込んでいた。
「援軍予定だった二貴族家は動かないでしょう」
「え?」
悠真が固まる。
「何をした」
「会話ですわ」
笑顔だった。
絶対に嘘だ。
フェンリスも同じことを思ったらしい。
怪訝そうな顔をしている。
その時。
会議室の扉が再び開く。
今度はエルフだった。
「失礼します」
エルシア。
エルフ
アステリア軍団筆頭補佐官。
※アステリア不在の現在軍団長代理
外見年齢25歳前後
身長170cm
長い銀髪
翡翠色の瞳
白銀と青を基調とした軍装
細身だが鍛えられた体
アステリア失踪後、事実上エルフ軍団を率いている人物だった。
「報告です」
落ち着いた声が響く。
「長距離偵察部隊が帰還しました」
後ろにはエルフの偵察兵達が並んでいる。
悠真は思い出す。
そうだ。アステリアはいない。だがエルフ軍団は存在している。
「何か分かったか」
「はい」
エルシアは地図へ印を付ける。
そこには複数の補給拠点が記されていた。
「敵補給拠点です」
「見つけたのか」
「すべて」
会議室が静かになる。
エルフ達は広域偵察が得意だった。
長距離索敵
森林潜伏
魔法による監視
人間には真似できない。
さらに。今度は別のエルフが前へ出る。
「リーファです」
リーファ
エルフ
治癒師長
外見年齢22歳前後
身長165cm
薄い金髪
優しい緑色の瞳
白を基調としたローブ
華奢
柔らかな雰囲気の女性だった。
「避難民の健康状態ですが」
今度は医療報告
感染症なし。栄養状態改善。死亡者ゼロ。
素晴らしい成果だった。
風牙の住民達が安定している理由でもある。
そして。
最後に現れたのは青年だった。
オルフェ
エルフ
古代魔法研究者
外見年齢28歳
身長182cm
長い金髪
蒼色の瞳
長衣
常に本を持っている
典型的な賢者タイプのような見た目をしている。
「結界調整完了しました」
ミレイアが反応する。
「もう終わったの?」
「はい」
この二人は研究者同士気が合うらしい。
結界強化
防壁防御
長距離探知術式
戦争準備は着実に進んでいた。
会議が終盤へ差し掛かる。
悠真は静かに仲間達を見る。
フェンリス軍団。ラグナ軍団。リリアーナ軍団。ミレイア軍団。アステリア軍団。
全軍団が動いている。
戦争は剣だけではない。
知略、情報、外交、技術、医療。
全てが必要だった。
「主様」
フィアが笑う。
「なんか凄いね」
「ああ」
悠真も笑った。
本当にそうだった。自分一人ではない。
黄昏の箱庭という国家そのものが戦っている。
そんな実感があった。
その頃。
遠くグラディス辺境侯国では。
ゼルバルト・グラディスが新たな侵攻計画を進めていた。
しかし彼はまだ知らない。
神狼王フェンリスだけが脅威ではないことを。
闇の中で情報を盗む吸血鬼達
世界を見渡すエルフ達
国家を支える技術者達
黄昏の箱庭という国が、彼の想像以上に巨大な怪物であることを。
戦争はまだ始まっていない。
だが水面下の戦いは、すでに始まっていた。
いっきに各側近たちを出してしましました。
今後もちょっとずつ側近が出てくる予定ですのでよろしくお願いいたします。
一応各軍団に3人ずつの側近を出す予定です。




