第十七話 優しさの代償
避難民受け入れから五日後。
黄昏の箱庭は以前より賑やかになっていた。
子供達が増えた。
住民も増えた。
市場も活気付いている。
しかし。悠真の心は晴れなかった。
理由は分かっている。
「報告があります」
レイナだった。
その声だけで嫌な予感がする。
会議室へ入ると全員が揃っていた。
誰も笑っていない。
「何かあったな」
悠真が言う。
レイナは静かに頷いた。
そして地図を広げる。赤い印が増えていた。
以前より、圧倒的に。
「これは」
悠真の表情が変わる。
「集落です」
レイナが答える。
「襲撃された集落です」
沈黙。
一つではない。二つでもない。
三つ。四つ。五つ。
数が多過ぎた。
「狐族集落壊滅」
「鹿族集落被害多数」
「猫族集落消失」
「生存者確認中」
言葉が出ない。
数日でこれだけ。あまりにも多かった。
フィアが唇を噛む。
「なんで……」
誰も答えられない。
いや。答えはある。グラディスだ。
だがそれだけではない。
悠真は気付いていた。
レイナがまだ何かを言おうとしている。
「主」
「何だ」
レイナは少しだけ目を伏せた。
そして言った。
「確認が取れました」
嫌な予感がした。本能が警告する。聞きたくないと。
だが聞かなければならない。
王として。
「何をだ」
静寂。
レイナは答えた。
「以前で見逃した兵士達です」
会議室が止まった。
誰も動かない。誰も喋らない。
ただ。悠真だけが固まっていた。
「……そうか」
絞り出すような声だった。
「生きていたか」
「はい」
「報告したのか」
「はい」
「黄昏の箱庭を」
「はい」
沈黙。
全部繋がった。
兵士達を見逃した
↓
グラディスへ報告
↓
斥候派遣
↓
黄昏の箱庭発見
↓
南部調査開始
↓
集落襲撃
↓
難民発生
↓
戦争準備
全部。全部だ。
フェンリスが立ち上がる。
「主は悪くありません」
ラグナも頷く。
「誰にも予想できません」
リリアーナも珍しく否定しなかった。
しかし。悠真は首を横に振る。
「違う」
誰も喋らない。
「俺は」
拳を握る。
「間違えた」
重い言葉だった。
認めるのは苦しい。
だが。逃げてはいけない。
「この世界を理解してなかった」
日本とは違う。平和な国ではない。善意だけでは守れない。
見逃した結果。多くが死んだ。それが現実だった。
フィアの目に涙が浮かぶ。
「主様……」
「でも」
悠真は立ち上がる。
窓の外を見る。そこには風牙の子供達がいた。白耳の生存者もいる。アレン達もいる。
皆生きている。
全部を守れなかった。
けれど。守れたものもある。
「次は間違えない」
静かな声だった。
だが強かった。
「二度と見捨てない」
「二度と同じ後悔はしない」
フェンリスが微笑む。
初めてだった。
神狼王が心から安心した顔を見せたのは。
悠真は振り返る。仲間達を見る。
そして宣言する。
「守るぞ」
その一言に全員が立ち上がった。
黄昏の箱庭
神狼族
竜人
エルフ
吸血鬼
アラクネ
そして新たに加わった人々
守るべき者達
戦いはこれからだ。
遠く離れたグラディス辺境侯国では、ゼルバルト・グラディスが第二次侵攻の準備を進めていた。
亜人達の楽園。
黄昏の箱庭。
それを滅ぼすために。
そして。甘えを捨て王となる覚悟を決めた悠真は、その戦いを迎え撃つために動き始める。
これにて第一章は終わりです。
明日からは第二章に入ります!
グラディス辺境侯国との戦争はどうなっていくのかお楽しみに!




