私が守ってあげる!
アイカ、ヒマリ、ボボはこの日の夜、城内でスティロ王、カルネと日本での生活や様子について話しながら食事をした。この国では来訪者は客人扱いなので、アイカ、ヒマリ、ボボは丁寧なもてなしを受けた。
食事の途中、アイカは韓流アイドルさながらの爽やかな姿で食事を進めるカルネに、何度も目を奪われた。また、ヒマリの隣では草で作られたストローを使ってリンゴジュースを行儀よく飲むボボの姿に何ともいえないシュールさを感じていた。
その後、アイカ、ヒマリ、ボボは与えられた客室で一晩を過ごす。
(何だかんだで大変なことになっちゃったけど……明日も忙しそうだし、今日はしっかり寝ておかないとね)
アイカは大きなベッドにヒマリを誘導して一緒に寝ようとする。
「ヒマリ? 明日はきっと忙しいから、今日はもう寝るわよ」
「うん、ママ」
(あっ、そう言えば私とヒマリはベッドで寝るけど、ボボはどうするのかしら?)
ふと疑問に思ったアイカは部屋を見渡してボボを探そうとするが、先にヒマリが見つけていた。
「ママー、見て見てー。ボボが天井からぶら下がってるよ」
ボボは紐状の触手のようなものを天井に伸ばしてくっつけ、ぶら下がった状態で目を閉じている。
「そ、そうみたいね……」
(ボボはああやって眠るのね。流石ミノムシの妖精だわ。でも、元の世界にある自分の部屋であんなものが天井からぶら下がっていたら絶叫必至だけど……今は受け入れないとね)
アイカは苦笑いをしながらヒマリをベッドで抱きしめる。
「ヒマリ、おやすみなさい」
「うん、ママ、おやすみなさい」
アイカはヒマリの小さな身体を抱きしめ、明日のことを考える。
(明日は魔女に会いに行くのよね。ちょっと怖いし心配だけど……でも、私がしっかりしないと。ヒマリと一緒に魔女を説得して日本に帰るのよ)
改めて決意をしながらも、一抹の不安を感じてしまうアイカはなかなか眠りにつくことができなかった。そして、うとうとと眠りにつきかけたヒマリがふと目を開けると、アイカが不安そうな表情をしていることに気付く。
「ママ? どうしたの?」
「あ、ヒマリ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「ママ、眠れないの?」
「うん、ちょっと明日のことを考えるとね。でも、そろそろママも寝ないとね」
アイカは自分自身にも言い聞かせるようにヒマリの頭を撫でる。すると、アイカの不安な気持ちを察したのか? 唐突にヒマリが言った。
「ママ、怖いの?」
(……えっ? ヒマリに不安が伝わってる!? ……ダメね、私は。母親としてもっとちゃんと、しっかりしないと!)
アイカは必死に不安を抑え平静を装おう……としたが、本音の部分では不安を感じていることがヒマリには伝わってしまう。
(本当は強い母親であるべきなんでしょうけど、今は嘘を言ってもヒマリに伝わってしまいそうだわ……ちょっとだけなら、本音を出してもいいかしら?)
アイカは小さな声で囁くように言う。
「うーん、正直に言うとね。ママもちょっと怖いの」
「そっか。ママも怖いの?」
「えっ? ヒマリも怖いの?」
「うーん、よく分からない。でも、お家と違うところにいるから変な感じだよ」
「そうね。明日は魔女さんにお願いして、ちゃんと私たちのお家に帰ろうね」
アイカは自分の不安を押し消すようにヒマリの頭を優しく撫でる。嬉しそうな笑顔で喜ぶヒマリだったが、その後にアイカをじっと見つめて……不意に思いがけないことを言った。
「ねえ、ママ?」
「何? ヒマリ?」
「……ママが怖いなら、私が守ってあげる!」
(……なっ!? この子ったら!?)
ヒマリの口から出た強い言葉に、アイカは堪らずヒマリをギュッと抱きしめる。
「……ママ? 大丈夫?」
(……もう! いつの間にこんなに立派なことを言うようになったの? ……この子ったら! ほんとにもう!)
思いがけない愛娘の成長に母として思わず感極まってしまう……。
「ああっ。ヒマリ、ゴメンね……うん、ママは大丈夫。大丈夫よっ……うぅっ」
小さく震えながら抱きしめてくれるアイカの感情をなだめるように、ヒマリが言葉を続ける。
「ママ、私におでこをくっつけて。幼稚園の先生が教えてくれたおまじないをしてあげる」
言われた通り、アイカはヒマリにおでこをくっつける。次に、ヒマリはアイカの両頬に自分の小さな手を当ててアイカの顔を両手で包もうとする。そして、ヒマリは呪文のようにゆっくり三回唱える。
「……大丈夫。大丈夫。大丈夫」
(ああっ! ヒマリ! ゴメンね。ほんとはママがヒマリを励ましてあげないといけないのにっ! ……ヒマリッ!)
アイカは溢れ出そうになる涙を必死に抑えながら、ヒマリに応えるように自分の両手をヒマリの両頬に当て、温かな声で優しくつぶやいた。
「ヒマリ……ありがとう。ママ、もう大丈夫よ」
「うん、良かったね、ママ! おまじないが効いたんだね!」
そして二人はギュッと抱きしめ合った後、翌朝まで眠りについた。
──朝を迎える。
定刻、集合場所の城門でカルネと合流する。カルネは腰に銅製の剣を携え、空っぽの大きなリュックを背負っている。昨夜の雰囲気とはまた違った旅人風の凛々しい爽やか好青年にアイカはまたまた興奮してしまう。
(あぁっ! こんな旅人風の凛々しい姿もまた絵になるわね! カルネ! 素敵すぎるわ!!)
「さぁ、アイカ、ヒマリ、ボボ。参りましょう!」
カルネの爽やかな一声で、一行は出発する。
「ところでカルネ? 魔女さんがいる森まで歩いて行くの?」
「そういうわけではありませんよ、アイカ。この国の一般的な移動手段でパンソー様の森に向かいます。でもその前に、まずは朝のマルシェ(市場)で人参を仕入れますよ」
(えっ? 移動するのに人参!?)
驚くアイカの疑問は晴れないまま……カルネは慣れた様子でたくさんの人参を購入してリュックに詰め、そのまま城門を出て少し歩いて開けた野原に出る。そして、その野原で見たものに……アイカとヒマリは思わず声を上げる。
「ママ! 見て! 大っきな牛さんが何匹もいるよ!」
「えっ!? ヒマリ、違うわよ!? あれ、牛じゃなくてウサギじゃない!? 大きさは牛と一緒くらいだけど、耳の形もちょっと変だし……カルネ、これってどういうこと!?」
アイカとヒマリは初めて見る巨大なウサギに声を上げて驚くが、見慣れているカルネは冷静に答える。
「あのウサギたちがこの国の移動手段です。我々は『ラビタク』と呼んでいます」
移動手段として目の前に現れた巨大なウサギたちは体に見合った巨大な耳を持っている。その耳は、まるでゾウの耳のように顔の両側へ垂れ下がっている。
(こ、この変なウサギたちで移動するの!?)
ラビタクと呼ばれるたくさんの巨大なウサギたち。アイカは予想もできなかった不思議な光景にただただ戸惑った。




